第43話「ここでロックとグレゴリーが顔を見合わせ、にやりと笑う」

午後9時を過ぎ……じゃがいも畑とその周辺における現場検証が始まった。


まずは魔導捕縛ロープで緊縛され、拘束した賊どもをロック達全員で荷車に運ぶ。


そしてロックとグレゴリーの先導で、じゃがいも畑の隅々まで丹念に調べて行く。


待ち伏せしていたロックとグレゴリーがすぐ対処したお陰で、

じゃがいも畑は、地面が数か所掘り返され、数個が盗まれた程度で、

受けた被害はほとんど無かった。


賊ども、ゴブリンが使っていて、

あちこちへ放り出された武器、アイテムは、ロックが空間魔法で回収。


これで現場検証はほぼ終了。

明日、朝になったら、掘り返されたじゃがいも畑を整地し、柵を可能な限り修理。

そして賊どもがどこから農場へ入ったのか、侵入ルート等の確認を行う事に。


その後、王都から衛兵隊が到着したら、捕らえた賊どもの事情聴取が行われ、

不明であるアジトの探索も行われるはずだ。

もしも発見出来れば、残党の討伐、逃げていれば追跡も行われるに違いない。


という事で、ロックとグレゴリー、そしてアルバン農場長以下農場スタッフ達は、

荷車へ緊縛、拘束された賊ども22人を乗せ、

えいほ! えいほ!と、賊どもを運ぶ。


そして気絶&威圧で身体が硬直した賊どもは、

空いていた5号倉庫へ全員が放り込まれ、緊縛を解かれた。


更に賊どもの身体検査が為され、武器代わりになる危険品は勿論、

身分証等々、所持していた物を没収された


しかしこのままでは、身体が動くようになってもダメージが残ったまま。

芋虫のように転がった賊どもを、ロックが回復魔法杖でこれまた全員をケア。


徐々に体力が回復する状態にし、そのままダブルロックで施錠し、収監。

武士の情け……魔法杖で体力は戻したし、パンと水を置いておいたから、

喧嘩など内輪揉めでもしない限り、死ぬ事は無いだろう。


そして衛兵隊が来たら、事情聴取を受け、引き渡すだけ。

後は彼ら彼女達が犯した罪を償う為、王都でさばきを受ける事となる……


そんなこんなで、思いのほか、賊の収監作業に時間がかかり、

時刻は既に午後11時過ぎ……


メンタルが通常運転に戻ったアルバン農場長が、


「もうこんな時間になってしまいました。賊ども、ゴブリンどもも捕えた事ですし、詳しい報告、再度の確認、打合せ等々はもう明日にしましょう」


と満面の笑み。

そして更に言う。


「ロックさんグレゴリーさんには、王都から遠路はるばるいらして頂き、すぐにこんな、我々の期待以上の凄い結果を出して頂きました。ありがとうございました。本当に感謝の極みです。


まだ賊どものアジト等の問題はありますが、本日はもうお休みください。明日の朝、ロックさんとグレゴリーさんも我々と一緒に朝食を摂り、その後にもろもろを処理するという事で。そうすれば衛兵隊来訪のタイミングにもぴったりでしょう」


そう、いろいろと気遣いしてくれ、ロックとグレゴリーも快くOKした。


難儀していた方々から感謝されるのは、やはり気持ちが良い。

まだ途中だが、大きな満足感がある。


それに回復魔法杖で体力は回復するし、気分も安らぐが、

睡眠をしっかり取るリフレッシュさは捨てがたい。


「おふたりはピオニエ農場の大恩人ですから!」

「激しく同意です! 農場長のおっしゃる通りですよ!」


というアルバン農場長、テランス副農場長の指示で、

来賓用の客室へ通され、ふかふかのダブルベッドで就寝する事が出来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌朝……ピオニエ農場の朝は早い!


何と何と!陽も昇らない午前3時過ぎには全員が起床した。


ケースバイケースではあるが、農場ならば珍しくなく普通だぞ!

とおっしゃる方も居るとは思うが、

知らない者からすれば「驚き!」のひと言なのだ。


という事で、ロックとグレゴリーも早起きは苦ではなく、一緒に起きる。


午前4時には全員が作業着に着替え、朝礼が行われ、アルバン農場長からは、

改めてロックとグレゴリーが紹介され、昨夜の経過と顛末が全員へ発表された。


発表を聞き、スタッフ達は事前に知っていた者も、

知らなかった者も皆、元気はつらつ。


まだ大元のアジトや残党の問題はあるが、ロックとグレゴリーの活躍で、

一矢報いるどころか、憎き賊どもへ大打撃を与えたのだから当然である。


「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」

「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」


朝のあいさつが方々で飛び交う中、大食堂で朝食の支度が始まった。


ロックもグレゴリーも前職クランでは主に下働きで食事の支度も行ったから、

「何でもお手伝いします」と笑顔で申し入れし、

言葉通り雑務でも何でもてきぱきと手伝う。


そんなふたりを見て、農場スタッフ達の好感度は大いにアップ。

先日食事会をともにした、アルレット、エレーヌ同様、

アルバン農場長以下、農場スタッフ達も、

『荒くれ、無作法』などという『冒険者のイメージ』を変えて行く……


こうなると、農場スタッフ全員が感謝と好意の念を持つ事に。


結果、誰も彼もが気軽に話しかけ、

もしくはロックとグレゴリーが座っている席まで押しかけ、

どんどん話しかけるというカオスな状態となってしまった。


『嬉しい悲鳴』というべき状態だが、

このままでは食事がまともに摂れないと、アルバン農場長がストップをかけ、

ロックとグレゴリーはようやく、落ち着いて朝食を摂る事が出来た。


朝食後、ロックの提案で収監した賊どもの様子を見に行く事に。


その際、さすがにという事で朝食を22人分用意。


万が一の有事を想定。

グレゴリーが最前面へ立ち、超魔導威嚇&束縛魔法杖を構え、

ロックも風弾魔法杖を構え、自警団スタッフ達50人と5号倉庫へイン!


見やれば……賊22人は喧嘩等はしていないようだったが、

昨夜置いていったパンと水は既に無く、空腹、無抵抗を訴えた。


だがロック達は油断せず、警戒しながら22人へ食事を与え……

まもなく衛兵隊が来るから、引き渡す事。

事情聴取には、素直に応じて欲しいと伝える。


ロックは迷ったが、索敵を使った読心のスキルは使わず、

衛兵隊に事情聴取を任せる事にしたのだ。


ふとロックが気になったのは、

捕縛したテイマーが、自身の身の安全ばかり気にしていて、

使役していたゴブリンどもの行方を全く問い合わせしなかった事。


多分ゴブリンなど『使い捨て』どうでもいいと考えているに違いない。


そんなテイマーに嫌悪感を覚えたロックだが、

かといって無抵抗の者を一方的にしいたげる気にはならなかった。


最後に……

賊どもの世話は、出来るだけロックとグレゴリーが行うと、申し伝えた。


戦闘に不慣れな自警団スタッフが食事などを渡す際、万が一反撃され、

怪我をしたり、人質を取られる形で、賊どもが脱走してしまうとまずいからだ。


対して、アルバン農場長とテランス副農場長は厳守すると約束。

農場スタッフ達へも周知、徹底させる事も約束してくれた。


さてさて!

賊どものケアが終わると……アルバン農場長、テランス副農場長、

そして自警団スタッフの一部を除き、農場スタッフは通常業務へ。


ロックとグレゴリーは、残ったアルバン農場長以下と、

じゃがいも畑を再度確認、更に索敵の情報に基づき、

賊どもの侵入経路をたどって行った。


すると!

獣、魔物除けの魔法が付呪エンチャントされた、

『大囲い』と呼ばれているピオニエ農場と原野の境界線にある柵が壊されていた。


「成る程! いつもの事と言っては何だが……賊が大囲いを破壊し、ここからウチの農場へ入り込んだのは確か、なのだね? ロックさん」


「ええ、アルバン農場長。農場への侵入から、収穫物の窃盗まで、お話を聞いていましたし、自分の索敵、地図で昨夜はおおよそ想定はしていましたが、改めて現場を見て、この侵入ルートで間違いないと確信しました」


「う~む、侵入地点思われるここから先は雑木林、草原、岩山が混在する原野で人間に害を為す獣や魔物が数多、跋扈しています」


とアルバン農場長がしかめっ面で唸れば、


「以前、衛兵隊が捜索した際、野外で人間が生活したらしい痕跡はいくつか、ありました。ですが、盗んだ収穫物を隠しているであろうアジトは、洞窟等々を捜索しましたが、結局、発見出来ませんでした」


と、同じくしかめっ面のテランス副農場長。


そんなテランス副農場長の言葉を受け、アルバン農場長は、


「ええ、街道沿いに出没するのはゴブリンくらいですし、農場の近郊はまだしも、人跡未踏の原野の奥へ踏み入ると、更にオークや、まれにオーガなどの凶暴な魔物も出ますからねえ」


そして、テランス副農場長も更に言う。


「衛兵隊が事情聴取し、捕らえた賊どもが自白すればすぐにアジトを特定出来ます。ですが、もし自白無し、手掛かりも無しの場合、農場長がおっしゃった原野の奥を徹底的に捜索しなければ、アジトは発見出来ないでしょう」


「成る程、ですね」

「原野の奥ですか」


「ええ、ロックさん、グレゴリーさん。原野の奥の危険度を考えると、MAXでも数十人派遣の衛兵隊ではなく、数百人以上の王国軍が出張らないと、危険かもしれませんね。結局、今回も徹底的な探索が出来ず、以前と同じ結果になるのかもしれませんね」


テランス副農場長は「厳しいなあ」という顔つきでロックとグレゴリーへ告げた。


ここでロックとグレゴリーが顔を見合わせ、にやりと笑う。


そしてロックが言う。


「では、テランス副農場長。先ほど野外で人間の生活の痕跡があったとおっしゃいました。ならば! 奴らの侵入の痕跡こんせきをたどり、トレースしてみましょうか?」


「え!? ロックさん! 奴らの侵入の痕跡? ……をたどり、トレース、ですか?」


「はい、奴らが残した痕跡こんせき……魔力残滓まりょくざんしを捉え、奴らが来た道を逆にたどるんです」


笑顔のロックは、きっぱりと言い切ったのである。

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無能と呼ばれた俺が思いもよらず超覚醒!異能冒険者達と組み、成り上がる話! 東導 号 @todogo

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