第42話「まさに立て板に水! ロックは一気に言い切った」

ロックとグレゴリーは、超魔導革鎧に身を固め、

上から超魔導隠形ポンチョを羽織って気配をほぼ消して、身を潜め待ち伏せ。


そして遠距離魔法杖射撃、超魔導威嚇&束縛魔法杖を駆使し、

賊22人、ゴブリン110体を完全に行動不能、とした。


「よし! とりあえず、賊ども、ゴブリンどもは制圧しましたね。接近し、捕縛します」


「了解です! ちゃっちゃとやり、アルバン農場長達へ報告し、安心して貰いましょう」


「ですね! 人間の賊どもは第2号装備、魔導捕縛ロープを使用し、捕縛します。丁度、試したい事もありますし」


「試したい、事ですか?」


「ええ、人喰いの外道、ゴブリンどもだからこそ試せます。いきなり人間では試せない事です」


「分かりました」


「ただ! 決して油断せず、慎重に近付いてください。敵で行動可能な者はゼロと索敵で確認しており、99%安全とは思いますが」


「おお! 石橋を叩いても渡らないって事ですね。了解っす」


先にやりとりしたスタンスをロックはしっかり実行している。

不言実行も良い事ではあるが、

仲間内では有言実行こそ、大切だというのがロックの信念だ。


さてさて!

ロックがグレゴリーの背で風弾魔法杖を構えながら、

ふたりは慎重に『現場』へ近付いた。


ちなみに現場は、じゃがいも畑である。

現場を見やれば、ゴブリンに命じ、穴を掘らせ、

地下に実っていたじゃがいもを盗もうとしたらしい。


近付いてみれば、抵抗出来る者は皆無。

全員が倒れていた。


大部分は風弾、水弾を受け、気絶している。


しかし、最後の10人は超魔導威嚇&束縛魔法杖で行動不能としていたから、

意識はあり、悔しそうな目つきでロックとグレゴリーをにらんでいた。


「人間は全員捕縛する。ゴブリンどもは……こうだ」


ロックがパチッと指を鳴らすと、倒れているゴブリンが消えた。

更には「指さす」だけで、ゴブリンが次々と消えて行く。


そう、ロックは空間魔法を行使したのだ。


試したい事とは、生きている者を空間魔法で生成した亜空間へ入れても、

大丈夫なのか?という実験だ。


これまでに植物、虫、等で試していて、いずれも『仮死状態』となり、

現世へ戻す際、搬出し、約30分から1時間で『蘇生』している。


つまり死ぬ、事はなかった。


最終試験として賊どもを使い、人間でもOKかを試しても良かったが、

まずはゴブリンで試したのだ。


傍らで倒れていたゴブリンが、ぱっと消え、


な、何だ!? 一体何が起こったんだ!? 

という「ぎょっ!」とした目で地に伏した賊どもはロックを見た。


対して「ふっ」と笑ったロックは、

第2号装備、魔導捕縛ロープで、

テイマー以下、22人の賊どもも次々と捕縛、拘束して行った。


補足しよう。

魔導捕縛ロープは、ロックが冒険者ギルドで大量に購入したもの。


賊や獣、魔物などを捕縛する際に使用するもので、投げ縄のように放ると、

対象物へ反応し、ぐるぐると蛇のように巻き付き、緊縛し、

拘束が可能な魔道具である。


そんなこんなで、22人の賊どもは全員ぎっちぎちに捕縛、

110体のゴブリンどもは空間魔法で亜空間へ収容された。


こうして、ロックとグレゴリーは完全にノーダメージ。

敵も今のところは死傷者無し。

被害はじゃがいもは若干、窃盗未遂。掘り返されたじゃがいも畑、のみ。

これはほぼ大成功と言える結果だろう。


「グレゴリーさん、お疲れ様でした。さあ、アルバン農場長へ、報告に行きましょうか」


「了解です! ロックさんもお疲れ様でした」


ふたりは頷き合い、一旦『現場』を離れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ロックとグレゴリーは軽快なスピードで農場本館へ。

少しでも早く、吉報を知らせたいという気持ちからだ。


本館の大型扉を、とんとんとんとんとん!と5回ノックした後、

無事完遂です、オープンセサミ!と示し合わせた合言葉を大声で唱えた。


いくつかのケースを考え、

ノックの回数を合図、セリフの数パターンを合言葉として、

双方を組み合わせた暗号報告である。


するとすぐ反応が。

大型扉上部ののぞき窓がわずかに開き、

中に居るスタッフが戸外のロックとグレゴリーを凝視。


ふたりきりなのを確認したのか、かちゃ!と解錠の音が鳴り、

がちゃっ!と大型扉が開いた。


スタッフが改めてロックとグレゴリーを確認すると、

アルバン農場長が驚きの顔を見せる。


「おお!! ロックさん!! グレゴリーさん!!」


「はい、アルバン農場長! ただいま戻りました!


「ご、ご無事でしたか!!」


「はい、無事は勿論なのですが、かすり傷皆無の全くの無傷でもあります。そして先ほど合図、合言葉でご報告した通り、襲来した全ての賊、魔物を捕縛しました」


「な、何と!!」


「ご安心ください。じゃがいも畑の現場において、賊は全てがっつり緊縛して拘束。ゴブリンも同じく俺の空間魔法で放り込み、反撃は不可。それゆえ危険は皆無です。お手数ですが、ご説明をしますので、現場検証をお願い致します」


はきはき、滑舌良く報告するロック。


一瞬、呆然としたアルバンではあったが、ハッと我に返り、

副農場長のテランス・ビゴーを呼ぶ。


「テランス!」


「はい! 農場長! 現場検証へ赴く準備ですね! 大丈夫です! 今夜は、自警団担当スタッフ全員が本館にスタンバっていたので、すぐに出れます!」


打てば響くテランスの言葉を聞き、笑顔のアルバンは満足そうに頷く。


「うむ! 宜しい!」


そしてロックとグレゴリーへ向き直り、


「お疲れ様でした! 本当にありがとうございます! 深く深く感謝申し上げます! こちらは私以下、すぐ現場へ赴けます」


と言い切った。


対してロック、グレゴリーも、


「では、すぐ行きましょう! あ、22人を運べる台数の荷車もお願いしますね」

「自分達について来て下さい!」


とアルバン農場長、テランス副農場長以下50名を先導。

全員が革鎧で、革兜には探索用の魔導ヘッドライトを付け、

荷車と共に現場のじゃがいも畑へ。


「おお!! こ、これはっ!!」

「農場長!! し、信じられませんっ!!」


魔導ヘッドライトの強い光に照らされた先には……


強固な魔導捕縛ロープでがんじがらめに緊縛され、拘束された賊22名が

まるで芋虫のように、あちこちに転がっている。


「では、早速補足説明を致します。奴ら賊22人、ゴブリン110体は午後7時過ぎに農場郊外に現れ、7時30分少し前に農場へ侵入。


最初からじゃがいも畑を標的にしていたらしく、ピンポイントで到達。

柵を打ち壊し、じゃがいも畑へ侵入。


警報が鳴り響く中、ゴブリンどもを使役し、窃盗を行った現行犯のタイミングで、我々ステイゴールドが遠距離魔法杖射撃風弾、更に同水弾で奴らを狙撃。


その殆どを気絶させたところで、現場へ突入。残党を威嚇スキルで行動不能としたところを緊縛し、捕縛。


人間の賊どもは全員捕縛し、ゴブリンどもはこれまた110体全てを気絶させたまま、空間魔法で確保してあります。


現在は午後9時前ですので、待機時間を除けば、正味2時間弱で、任務は終了致しました。以上です!」


まさに立て板に水!

ロックは一気に言い切った。


簡潔明瞭! 迅速説明!


長年にわたり、悩みに悩まされた窃盗団問題がたった2時間弱で解決!!??

アルバン以下農場スタッフは、ロック達の底知れぬ実力に、

気圧されたように「ぽかん」としてしまう。


「取り急ぎ、簡単なご報告まで! 詳しいご説明、質疑応答は現場検証の後、本館にて行いたいと思います。農場長、厳重に施錠可能で、出入り口がひとつの空き倉庫はありますか? 衛兵隊へ引き渡すまで、こいつらの留置スペースと致しましょう!」


「わ、分かりました……」


まだ呆然としているアルバン農場長。


しばらく、辺りを沈黙が支配した。


ここで先に我に返ったのは副農場長のテランスだ。


「ええっと、農場長?」


「…………………………………………」


「大丈夫ですか?」


「…………………………………………」


いまだ呆然としているアルバン農場長を見て、このままでは!と思ったに違いない。


「申し訳ありません! 農場長! ひとまず自分が指示を出しますね!」


とアルバン農場長へ断った上で、自警団全員へ


「よし、まず皆でじゃがいも畑を確認しながら、拘束された賊どもを引っ立てろ。確認終了後、賊どもは第5倉庫へ収容し、ダブルロックで施錠! 収容後はスタッフを全員、本館へ集合させるように!」


大きく声を張り上げ、農場長の代わりにテランスは指示を出したのである。

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