第41話「了解! では、グレゴリー、発進します! 5,4,3,2,1,クランステイゴールド! アー! ゴオー!」

「高確率で今夜来るだろう」という推測のみで、賊の動きは全く読めない。


多分『長丁場』になるかもしれないと、ロックとグレゴリーは、

午後5時過ぎ、早めにパンとお茶の簡単な夕食を摂る。


やがて陽が落ち、冷えて来て、淡い魔導灯が点いた。


遠くから、何か獣の咆哮らしき声も聞こえる。


張り巡らされたロックの索敵に今のところ、反応はナッシング。


しかし、程よい緊張の中、ロックとグレゴリーは、

賊の襲来を根気良く待ち受けていた。


そのまま何事も起こらず、約2時間が経ち、午後7時を過ぎ……

農場全体は闇に包まれ、ところどころ魔導灯がぼんやりと照らす状態となった。


そして遂に!

3㎞圏内のロックの索敵に反応があった。

とある方角から、数多の気配が一団となって農場へ向かい、進んで来たのだ。


念の為、補足しよう。


そもそも一般の索敵スキルは、対象者の体内魔力、放出魔力を察知し、捕捉。

対象者のおおまかな所在、行動等々、曖昧な情報を認識するもの。

タイムラグは生じるし、有効範囲は上級の術者でも、せいぜい最大で1㎞以内だ。


だが!

ロックの行使する索敵は効能効果が究極レベル。


対象者の体内魔力、放出魔力などを察知し、捕捉するのは変わらないが……


まだまだ延びつつある有効範囲が何と何と! 3倍の3㎞以内。


加えて、所在、武器防具携行品などの装備、意思、行動等々までも、

リアルタイムで詳細に、はっきりと認識する凄まじさなのだ。


という事で、話を戻そう。


この気配は?

……ロックは索敵の精度を増すべく、体内魔力を練り上げる。


すると、やはり!である。


ロックは声を潜め言う。


「グレゴリーさん、確認出来ました。人間の男女が22人、ゴブリンが110体で上位種は無し。人間の賊どもはほぼ戦士で、素人レベルで索敵が使えないシーフ職若干名との混成集団。魔法使い、弓使いは居ません。シーフ職の中にテイマーがひとり居ます。飛び道具は無しです」


「おお、ロックさん、そこまで詳しく分かりますか。相変わらず、もの凄い索敵ですね」


無理やり興奮を抑え、同じく声も抑え、感嘆するグレゴリーへ、

ロックは超魔導夜間兼用望遠鏡を渡した。


「自分の索敵に加え、グレゴリーは視認をして欲しい」という『指示』であり、

これまで何度も行っているので、グレゴリーも慣れている。


「OKっす。……確認しますね。さすが超魔導夜間兼用望遠鏡。夜なのに、昼間のように、よっく見えます。……ええっと、賊どもはロックさんの索敵通りの構成だと思います」


「了解です。そのまま、奴らの視認追跡を続行してください。俺は魔法杖射撃の準備をします」


「了解っす!」


賊ども、ゴブリンどもは標的とした畑を事前に決めていたらしい。

真っすぐ、迷わずに進んで来た。


準備をしているロックの遠距離魔法杖射撃の射程距離は、魔法杖により差がある。

だが、日々の地道な訓練の積み重ねにより、いずれも『倍』に延びていた。

索敵と連動させるようになってから、爆発的に上昇した命中率とともに、だ。


ちなみに、今夜使用する風弾が500mから現在は約1km、

水弾が約400mから同じく800mである。


超魔導夜間兼用望遠鏡で、賊どもの追跡視認を続けるグレゴリーが言う。


「ロックさん、奴ら、盗む畑を決めたようですよ」


「了解です。索敵から分かりますが、多分じゃがいも畑ですね。ここから距離は約800m、俺の風弾の射程圏内ですよ」


ロックは敢えて、射撃を待った。

言い逃れを許さぬ、動かぬ証拠だと、『現行犯』で捕えようという作戦である。


やはりというか、賊ども、ゴブリンどもは、

容赦なくじゃがいも畑の柵を打ち壊し始めた。


その瞬間!


じりりりりりりりり!!!と警報がけたたましく鳴り響く。


大囲いのものは外してあるが、畑の方は当然仕掛けられていた。

柵を少しでも破損したり、乗り越えたりすると、感知して鳴り響く魔導警報だ。


凄まじい大音量なので、各建物にこもっている、

アルバン・コルディエ農場長以下スタッフ達の耳へも、

この警報は届いているはずである。


しかし、ロックとグレゴリーと固く固く約束しているので、

屋外へ飛び出したりはしない。


そしてまだロックとグレゴリーも動かない。


一方、賊どもとゴブリンどもも警報を全く無視。


やがて、柵は呆気なく打ち壊され……

賊どもとゴブリンどもが容赦なく『乱入』した。


そして昨夜の事があるせいか、堂々と畑内で収穫物の略奪を始める。

ゴブリンに命じ、ズタ袋の中へどんどん放り込んでいるようだ。


よし! ジャストタイミング! 現行犯!


ロックは索敵と連動させ、風弾の魔法射撃を開始する。


どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!

どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!


ロックの索敵と連動、相手が発する魔力波動とぴったりシンクロ。

それゆえどんなに離れていても現1㎞の射程圏内なら、

遠距離風弾魔法射撃は百発百中。


重い大気の塊が、賊どものどてっぱらへHIT!HIT!HIT!


がっ! ぎっ! ぐっ! げっ! ごっ!

ぎゃ! ぐわ! あう! あぎ! どあ!


短い悲鳴を発し、倒れる賊がまず10人!

あっさりと風弾で気絶させた。

ロックが言った通り、『単なる的』である。


10人の賊があっという間に気絶させられ、

いきなり、どこから撃たれたのか、理解不可能な一団は完全にパニック状態。


賊は気絶した仲間を焦って運び出そうとする。

片やゴブリンは、逃げだす者も居たが、

どうしたのか賊へ襲いかかる者も居り、敵味方構わずの戦闘が始まってしまう。


どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……

どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……


ロックは更に20発の風弾を撃った。


絶対、殺さぬよう魔力を抑え、撃っている。


すると!

射撃を逃れようと畑の外へ出て来た賊5人、ゴブリン15体が倒れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


自身の索敵で賊15人、ゴブリン15体が倒れたのを確認したロック。


「よし! グレゴリーさん。これで奴らの約1/4は倒しました。と言っても命までは取っていませんが」


「ですね! 出来る限り捕縛という依頼ですからね」


「です! 右往左往する様子を見ると、やはり、奴らは索敵や魔法を使える者が居らず、探知の魔道具も無いようなので、俺達の所在はつかめていませんし、大混乱しています。ただ俺が風弾を撃つ方角だけはある程度想定したようです」


「成る程、ではロックさん、奴らがここへ来る前に、この場所から移動しますか?」


「はい、動きましょう」


淡い魔導灯に照らされたロックとグレゴリーは、頷き合い、移動。


いくつか事前に決めておいた待ち伏せ場所のひとつに、さくっと移動。


索敵&超魔導夜間兼用望遠鏡で、賊どもとゴブリンどもの所在を改めて確認。

さすがに賊どもも気を取り直し、畑の外へ出ていた。

きょろきょろと不安そうに周囲を見回している。


「ははは、ロックさん。気配はつかめない、姿は見えない、その上、全然違う方角から魔法弾をガンガン撃ち込まれたら、驚き惑うでしょうね」


「ですね! では行きますよ!」


「はいっす!」


どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……

どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……


賊、ゴブリン問わず、30の敵を風弾で倒す。


これで戦闘不能にしたのは都合60。


残りは72……


ここでロックは、風弾魔法杖を仕舞い、水弾魔法杖に切り替え、遠距離魔法射撃。


今度はこれまた重い水の塊が賊&ゴブリンを襲う。


どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……

どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……


またも!

賊、ゴブリンを問わず、計22の敵を水弾で倒す。


残りは50……


その中でもう賊はたった3人。

勿論、その中には『テイマー』が居る。


そう!

ロックは着地点を考え、敢えてテイマーを残しつつ、賊を打倒していた。


何故ならば、彼らのあるじが倒れると、コントロール系統が喪失し、

縛りが無くなったゴブリンが大暴走するからだ。


「グレゴリーさん」


「はいっす!」


「再び、移動しつつ、今度はある程度接近しましょう。当然気付かれないように」


「了解でっす!」


先ほど行ったので、二度目の移動はスムーズである。


移動場所も、シミュレーションし、決めてあった。


さくさくさくっと移動し、

索敵&超魔導夜間兼用望遠鏡で、賊どもとゴブリンどもの所在を再び確認。


どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……………………

どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!……………………


またもまたも!

賊、ゴブリンを問わず、何と何と! 計40もの敵を水弾で倒す。


これで残りはたったの10!!

奴らは『風前の灯火』で『全滅』は秒読み段階である。


「さあて、グレゴリーさん、いよいよ仕上げと行きますか?」


「了解っす、ロックさん。突撃、ですね!」


ふたりはそう言うと、まず超魔導隠形ポンチョを脱ぎ、

水弾の魔法杖と共にロックが空間魔法で仕舞う。


「です! そして第2号装備、超魔導威嚇&束縛魔法杖を使用します」


ロックはそう言うと、いつものように魔導しょいこを出し、グレゴリーの背へ装着。

しょいこに乗り、ハーネスで身体を締めた。

手には、ぱっと、第2号装備、超魔導威嚇&束縛魔法杖が現れた。


「準備OKです!」


「了解! では、グレゴリー、発進します! 5,4,3,2,1,クランステイゴールド! アー! ゴオー!」


だん!! と大地を蹴ったグレゴリーは猛ダッシュ!


「うらああああああ!!!!!」


背にロックを乗せ、疾走しつつ咆哮。

猛スピードで接近するグレゴリーを見て、賊とゴブリンは仰天!


そんな隙だらけの賊とゴブリンはやはり『単なる的』である。


ロックはグレゴリーの背から狙いを定める。


しゅば! しゅば! しゅば! しゅば! しゅば!

しゅば! しゅば! しゅば! しゅば! しゅば!


と超魔導威嚇&束縛魔法杖から放たれた強い威嚇魔力が残党を包み込み、


「ひえ!」「ぐわ!」「うわあっ!」「ひいい……」「た、助けてくれ!」

「きええっ!」「ぎゃお!」「うげえ!」「きひい!」「ひえおお!」


賊、ゴブリン全員が悲鳴を上げ、ばたばたばたと倒れ、

行動不能となってしまったのである。

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