勝手にサルベージしたカッピョイイやつ

サクイチ

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 年越しの迫る神社への道を、愛華と手を繋いで歩いた。町の音は普段に比べて、別段、賑やかなわけでもなかったが、それでも冷えびえとした夜の空気に、何か浮足だったものを感じるのは、単なる思い込みのせいだろうか。あるいは案外、これも重要な教養の一部なのだろうか。


 月明りが綺麗だったが、それも街灯をいくつか過ぎるうちにわからなくなった。愛華は話さず、二人の手の重なった感じや、足並みの勝手にそろうのを面白がっては検めていた。僕も同じだったのですぐにわかった。

 

 暗い石段をあがって、境内に足を踏み入れるころには、さすがに大晦日の喧騒があった。盆には櫓が立っていた真中の位置には、篝火というのか、単なる火が剥き出しに燃えて光っていた。変だがかえって暗く感じて、けれど生木の爆ぜる未開の音や、すでに腹のなかみたいな炎熱が、妙な魔性を帯びていた。

 

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