恐怖、足りてる? ~短編集~

木暮 悠

かっこー

 フリーライターの佳奈は、今日も自宅のパソコンに向かって仕事をしていた。静かな部屋でキーボードを叩く音がリズミカルに響く。仕事に集中していると、リビングの壁にある立派なカッコー時計が「かっこー、かっこー」と鳴り始めた。

「もうお昼か…お腹すいたな。」

 佳奈は立ち上がりながら、カッコー時計を見る。祖母から譲り受けた古いもので、毎日お昼を知らせてくれる。だが、最近はこの時計以外にも、彼女の昼の生活に奇妙なものが入り込んできていた。

 それは、いたずら電話だ。ある日から、昼頃になると必ず非通知で電話がかかってくるようになった。最初は無言だったが、何度か出ると、しばらくの沈黙の後にかすかな曇った男の声で「見ているよ」とか「そばにいるよ」と喋るようになった。佳奈はその声に恐怖というより、苛立ちを感じていた。


 数日後、幼馴染の優子とランチをするため、佳奈は外に出かけた。久しぶりの再会に、二人は懐かしさを感じながらも話が盛り上がる。ランチの途中で、佳奈は最近の奇妙ないたずら電話について優子に相談し始めた。

「最近、毎日お昼になると変な電話がかかってくるの。無言の時間が続いた後に、近くにいるとか、見ているとか言ってくるんだよね。」

 佳奈は愚痴をこぼしながら、苦笑いを浮かべた。優子は少し不気味そうな顔をする。

「うわ~、気持ちわるっ。ストーカー?非通知拒否しちゃえばいいじゃん。」

「まぁ、ただのいたずらだと思うけどね、非通知拒否はなんか負けた感じがして嫌じゃない?もうそろそろお昼だから、きっとまたかかってくると思うよ。」

 佳奈はスマホをテーブルの上に置き優子と話を続ける。すると1分もしないうちにスマホが震えた。着信画面には、やはり「非通知」の文字が表示されている。佳奈はため息をついた。

 「はぁ、ほらね。」

 佳奈は優子にも聞いてもらおうと思い電話に出てスピーカーに設定した。いつも通り、しばらくの無言。相手は何も言わない。だが、しばらくすると、曇った声が聞こえた。

「今日は、、、おでかけ」

 その言葉に、佳奈も優子も顔を見合わせた。いままではどちらかというと悪戯だと思っていた。しかし、本当に誰かが自分を見張っているかもしれないということわかり怒りと恐怖が入り混じる。そして二人が言葉を交わす間もなく、恐ろしい音がスマホから聞こえた。


「かっこー、かっこー」


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