その心は満ちていた。

 ずっとつまらなそうに話していた。小夜の言葉はいつも単調だった。

 しかし、小夜の表情はたしかに幸せそうだった。


「本当に会いたくないの?」


 満月は、小夜が最後に言った言葉を確かめる。

 それが恋でなければ、それでいい。ただ、無意識のうちに小夜が諦めているのだとしたら、それは。


「うん」


 少しの間も無く、小夜は答えた。

 その表情からは、強がっているようにも、ましてや嘘をついているようにも見えず、やはり幸せそうだった。


「だって、恥ずかしいもの」

「……恥ずかしい?」


 その問いには、微笑をもって答えた。


「弱音を吐いて、泣きじゃくって、心の底では慰めを期待していた。それが、とてつもなく恥ずかしい」



 恋でなければ、よかったのだ。

 小夜が無意識に諦めているのなら、それは、きっと小夜にとって綺麗な思い出として残るだろうから。


「うん……そっか」


 恋でなければよかった。

 それならばきっと、この気持ちを友愛だと思うことができた。もしかしたら、この気持ちを伝えることができた。 


「どう? これでも恋だと思う?」

「……どうだろう。でも、そうだね」


 恋だよ。

 会いたくないなんて、いざ会うとなれば、忘れてしまうだろうから。

 好きじゃないなんて、少し話してみれば、もう一度好きになってしまうだろうから。

  

 そんな、私みたいな気持ちだろうから。


「恋だと、想えないよ」

 

 君はまぎれもなく初恋だった。

 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君はまぎれもなく初恋だった 菖蒲 茉耶 @aya-maya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画