その話は単調だった。
なんか、恥ずかしいな。笑ったりしないでね?
去年の夏のちょうど今頃。私、家出したの。
と言っても、結果的には次の日の朝に帰ってくることになるんだけど。でも、一日にも満たないその時間は、たしかに家出していたの。
きっかけは……まぁ、珍しくもないよ。
人付き合いが苦手だからバイトもせず、だからって将来設計があるわけでもないから勉強もせず。それで両親と言い争いになって、衝動的に、って感じ。
結構、遅い時間だった。空にはもう赤がなかったし、他の人とすれ違うこともなかったかな。財布もスマホも持たずに、前だけ見て走ったの。
絶対に笑わないでね?
それで、転んだの。
……笑わないでって言ったのに。
こんな田舎の島なんて、舗装されてる道の方が少ないでしょ。そのときローファーだったし、仕方なかったの。私だって、スニーカーだったら転ばなかった。
割と派手に転んだけど、幸い、片方の膝を擦りむいた程度だったよ。まぁ、転んですぐはメンタルも弱ってたから、本気で骨折してると思ったけど。
それでさ、泣いちゃったんだよ。痛かったわけじゃない、悔しかったわけでもない。
そのとき、なんとなく、自分が正しくないことに気づいちゃったんだよね。
最低限の社会性も持ち合わせずに、すぐ先の準備もできないなんて、そりゃ両親も納得できるはずないよなぁ、って。
そうわかったら、もう関が外れたみたいにドバドバ泣いて……え、想像できない? そんなダサいところ、友達に見せたくないよ。
何分か倒れたまま泣いて、落ち着いてから近くにあったベンチに座ったの。
ここら辺って、ここかしこにベンチあるでしょ? あれなんなんだろうね。
何もすることないから流れ星でも見つけようって見上げて……三十分くらいした頃かな、誰かの足音が聞こえたの。
言っとくけど、ここからホラー展開になるわけじゃないからね?
そっちを見たら……うん、まぁ、その……その人がいて。
好きだったわけじゃないよ。弱ってるときって、話しかけられただけでも救われたって思い込んじゃうでしょ? 多分それ。
それで、どうせこれから関わることもないだろうからって、話してみたの。まぁ、本当は知らない人に話しかけられて逃げられなかっただけなんだけど。その人も、ナンパするつもりで話しかけたんだろうから罪悪感なかったし。
……たしかに私も今なら危ないと思うけど、そのときはパニックになってたの。
話してる内に情けなくなって、その度に、励ましてくれて。
全部ぶちまけてスッキリした。多分私は、その人に救われたんだと思う。
きっと、そのまま星空を見上げてただけでも、すぐに忘れるような一瞬の悩みだったと思うけど。それでも私は、その人に救われたんだと思ってる。
それだけだよ。ただ、それだけ。
恋なんて名前を付けれるほど、私は好意を持っていないし、なんの行為もしていない。
ただ、一人の女の子が、一人の男の子に、惚れかけたって話だよ。
え? それが恋?
違うよ。だって、私だけじゃなくてその人も、もう会いたくないって思ってるだろうから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます