第12話 王国 5
「待っていたよ」本拠地に入るといきなり上の方から声が聞こえた。俺は反射で蒼を使って攻撃を仕掛けていた。
「いきなり攻撃とは,,,そのくらいがちょうどいいか。我々の禁忌の力の実験台にはな!!」男は声を荒げ魔方陣の展開を始めた。緑色の髪が凄まじい魔力で巻き上げられているのが見える。これは危険だ。
「レン!!」この魔法を食い止めるために男のもとに走る。階段を使っている時間もない。すぐ理解した俺らは跳躍をして、男がいる二階に着地した。
「させるかあぁぁぁ!!」太刀から放たれた抜刀術は以前よりも格段に威力が高くなっていた。この期間でそこまで鍛え上げるのが可能か疑うレベルだ。
「うおおぉぉ!!」蒼で追撃をする。様々な形に変形した蒼は男の急所を確実に狙っていた。
「一足遅かったな」俺たちの攻撃は虚空に消えていった。目の前には男ではなく、キメラのような怪物が佇んでいた。
しかし、俺が見たのとは見た目が大きく違っていた。あの時の怪物は人間の要素が殆どなかったのに対して、今目の前にいるのは人間の要素を大きく残した状態だった。
頭が三つに眼が六つ。胴体にはむき出しの心臓が二つに、腕が六本付いていた。足は馬?のような見た目になっていた。血は拍動に合わせて絶えず体から滲み出ていた。
「それが研究の成果か?」あまりの悍ましさに、腰が引けてしまう。だが、戦意は挫かれたわけではない。隣にいるレンも太刀に手をやって反撃が出来る状態を作っている。
「あぁ!!そうだとも!!この美しい体!他者の追随を許さない力!!」怪物は嬉しそうにしながら喋っていた。
「どこが美しいんだ?俺には醜悪な作り物にしか見えないが?」レンが放ったこの言葉によって、場の空気が一気に凍り付いた。氷点下いや、絶対零度に近いくらいまで。体がピクリとも動かない。
「これだから、剣を振るしか能の無い人間は嫌いなんだよナ」怪物は視線だけでも生き物を殺せるくらいの眼光を鋭くさせていた。六つの目がじっとこちらを見ている。
「本当のことしか言えないんでね」凍り付いた空気を溶かしたのは、この状況を作り出したレンだった。
「紅蓮一閃」目の前が紅く染まる。肉の焼ける臭い、建物が崩れていく音、声にもならない、怪物の絶叫。混沌そのものだ。
そこからは長い間耳を塞ぎたくなるような怪物の慟哭を聞いていた。それが途切れる頃には、建物は崩壊を始めていた。気が付けば俺たちは外に居た。
全てが終わった。建物は跡形も無く砕け散り、怪物も姿を消した。眼の前にあるのは草原だけだ。
太陽が俺らのことを不気味に照らしている。太陽に気が付いた時に直感が、本能がここは元居た場所ではないことを悟った。そのことにレンも薄々気が付いているようだ。
バリバリッ!!何もない空間が、ガラスが割れたような音とを立てて、崩れ始めた。そして、即座に修復を始めていた。やはりこの空間は作り物だったんだ。そうだよな、簡単に倒せる相手じゃないよな。
「もう分かったのですか?早いですね。僕からすれば余りにも遅いのですが」
「その状態をあとどのくらい続けられるかな?」俺は発動が可能な限り蒼を具現化させていく。その数は百を超えていた。形も維持できないし、いつ飛んで行ってもおかしくない。
でもそれでいい。俺の目的はこの世界を不安定にさせて、完全に崩壊をさせること。だから好きなだけ暴発させられるってことだ。
「レン。離れてろよ」限界を迎えた俺は注意だけをして蒼を暴発させた。自由を求める蒼は偽りの空間を破壊しようと、剣や槍、雷や炎と言った感じで様々な形態をとった蒼が縦横無尽に暴れていた。俺の狙い通りだ。
「ブレイク!この状態がそれだけ続くんだ!?」後方から慌てているような声が聞こえた気がしたが気のせいだな。壊れるまで徹底的に発動させてやるからな!
バリッ!バキバキッ!!この空間が悲鳴を上げ始めている。崩壊はそう遠くないな。火力をもう一段階上げて蒼をそこら中に飛ばしていく。
バキバキッ!!バリンッ!!完全に壊れた音がした。世界が一点に集まっていくのを感じる。これでこの糞みたいな世界とおさらばってわけか。身を委ねて崩壊を待つ。恐れることは無い。
「気づいてからもう崩壊,,,思っていたよりも、強いんですね」さっきと同じ光景だ。男が上に居て、俺たちが下に居る。違うのは本物か偽物かってことと、魔法の範囲外ってことだ。
「伊達にギルガ家を名乗って無いんでな」お前は何もしてないだろって突っ込みしたかったが、異変に気付いたきっかけはこいつだった。
「でもモウ遅い」男はまたキメラの形をとった。ここからが本当の勝負ってわけか。大剣を取り出して構える。ここからは蒼だけじゃ厳しそうだからな。
「コレガセカイヲクツガエス、真の力!!」怪物は全身に強化魔法をかけ、暴れ始めた。建物が見る見るうちに壊れていく。本棚が倒れ、壁に穴が空き床が舞い上がる。
「このままだとじり貧だな!レン行くぞ!」外まで押し出された俺たちは怪物を中に戻すために、防衛から攻撃態勢に入る。
「やっとか。好機を待っていたんだ。決めるぞ」太刀を腰に戻して態勢を低くしているのが見えた。オーケー俺はタンク役な。
「タイミングは任せたぞ!!」怪物に駆け出していく。一見無謀にも思える戦い方だが、俺たちには一番合っている。ハイリスクハイリターン。たまにはこういう戦いも悪くは無いな。
「自由の咆哮!!」限界まで接近しスキルを発動する。怪物ぼ動きが一瞬止まった。レンの攻撃はまだ来ない。ここじゃないのか。ならもっかい時間を稼いでやるか。
「どこ見てんだ?相手はこっちだぞ」素早く後ろに回って大剣を突き刺す。この角度ならむき出しの心臓に当たっているはずだ。
「があああぁぁ!!」耐え難い苦痛に悶絶をしている。時は満ちたな。時間の流れが遅く感じる。素早く怪物から離れて衝撃に備える。
「紅蓮三閃」視界が、世界が紅く染まる。間合いが全て攻撃範囲。左右の横薙ぎ、そして上段からの振り下ろし。圧倒的な破壊力は建物を両断し、草原を焦土に変えた。
怪物に致命傷を与えたのは間違いない。このままゆっくり確実に王手を狙いに行く。レンも同じ考えのようだ。大きなリターンが得られた以上これからはリスクを冒してまで攻撃はしたくない。
「ソレガ,,,,,,,,,,,本気か?」炎に抱かれながら怪物は不敵に笑う。まるでここまでのことを予想でもしていたかの様に。
ドクン。怪物の拍動が聞こえる。ドクンドクン。拍動が二つに増えた。まじか,,,今までの出力は三分の一ってことかよ。再び動き出した心臓と怪物を見る。
俺たちが与えた傷は完全に再生している。さらに筋肉が肥大化し、黒味がかかっている。第二形態ってところか。
「俺らもやっと五割の力で戦えるかもな」大剣を握り直す。今言った言葉は完全に嘘だ。限界が近づいてきているのが分かっている。レンの体も痙攣を始めている。
「ここで退いたら男じゃないな」太刀を鞘に戻さないで下段で構えを取っている。真剣な顔じゃなくて少し笑っているように見える。
「「なぁ、まるで英雄譚だな」」言葉が被った。思い浮かんでいる物語は違っていても、場面は同じだろう。絶望が前に来ていても、勝てないと分かっていても、運命に抗うために剣を握って戦う。
「コレが終わったら,,,」「ぐおおおぉぉ!!!」会話の途中で怪物は俺たちに突進をしてきた。単調だが速い。残像が見える。俺は紙一重で回避することが出来た。レンも太刀を切り上げることで、進路を変えることに成功していた。
「話はここまでだな。行くぞ」蒼を撃ちながら怪物に接近する。目くらましくらいだが、決定的な攻撃をするんだったら全力じゃないと駄目だ。出し惜しみはしてられない。
「火炎の調べ」レンがスキルを発動させたのが見えた。太刀が火炎で覆われている。こいつの弱点属性が分からないから手探りなんだろう。
「ムダダ」考えを見透かすように巨大化した腕を地面に振り下ろした。地面が抉れ、土が飛び散り、煙が舞い上がる。煙の中で影が高速で動いているのが見えた。奇襲までしてくるのか。ポテンシャル秘め過ぎだろ。
「レン!!」背後に回っていたのが見えた。俺は大声で教えたが、その必要は無かった。
ザンッ!縦一文字。怪物の左腕三つが地面に転がった。完璧なカウンターに属性の相性が合わさって、桁違いの威力を見せた。
「ぐぎゃああぁぁ!!」奇声を上げながら怪物は後方に飛んだ。これはかなりの痛手だろう。
「レン、お前はちょっと休んでろ」全身が震えているレンにポーションを渡し、怪物に向かって疾走する。
「アクセラレーション」魔法を唱え加速をする。体が悲鳴を上げているのがはっきりとわかる。それでも立ち向かわなくてはいけない。この国のためにも。あいつのためにも。自由のためにも!
「感情の奔流!!」凄まじい数の蒼と同時に攻撃を仕掛ける。正真正銘の必殺技。これで無理なら諦めるしかないな。
「自由の咆哮!」大剣に蒼を纏わせて怪物に斬りかかる。一撃は拍動している心臓に、二撃目は右腕すべてを斬り落とした。蒼はもう一つの心臓に突き刺さり、活動を停止させていた。
「ガ,,,アア」うめき声をあげながら怪物は地面に倒れた。これで終わりのはずがない。奥の手を隠しているはずだ。俺は警戒をするが何も起きなかった。
「やけに静かだが終わったのか?」回復が済んだレンがこちらに歩きながら聞いてきた。
「恐らくな。拍動も止まったままだ」怪物の三つの心臓は全て止まっていて、動く気配も見せない。
「俺たちの勝利ってことか」手を差し出してきた。その手には分厚い剣だこが出来ていて、才能だけで剣聖まで上り詰めたということを否定していた。
「そういうことだな」出された手を握り体をぶつけ合わせる。勝利の余韻は一人よりも二人のほうが心地がいい。
「ここら辺でちょっとゆっくりしていくか」その場に座り込んで、魔法空間からコーヒーとジュースを取り出す。
「そうするか。のどかな雰囲気で気分が落ち着く」レンはジュースを受け取って草の上に座った。俺も手ごろなところに座るか。いい感じの石は,,,あったあった。直に座るのはなんか嫌なんだよな。
風で草が波の様に一定の周期をもって時に強く、時に弱く揺れている。戦いの後の一杯は至高だ。この世で一番うまいと言っても過言じゃない。それくらい勝利というのは良い。
だが、忘れてはいけないのは自分が敗北する可能性があるということ。そして、敬意を払うということだ。勝者は敗者がいないと存在しない。故に最大限の敬意を示さなくてはいけない。ダリア家は例外だ。こいつらはゴミだからするだけ無駄だ。
ゆったりと時間が流れていく。こんなに落ち着いて入れるのは久しぶりだな。空を仰ぎ、この後の動きを考える。
順当にいけばオーバー家を倒し、下級貴族を倒したら革命は終了だ。民衆も保守派の貴族を疎んではいたし、何より自由が欲しいのだろう。貴族は自由で自分たちは自由ではないのだから。
犠牲は出したくはなかったが、少しは出てしまった。完全に俺が弱かったから起こってしまった事態だ。解散した理由にまた悩まされてしまうとはな。
弱いという足枷は俺のことを縛っていたいらしい。だがそれも「自由」という鍵で開けれそうだ。今じゃフェインの宿命も背負っているしな。こんなものに邪魔されたら顔向けができない。
時間があると変に考え込んでしまうな。無心になるのも難しい。この革命が終わった後の計画でも立てておくか。レンと一緒に行ければ,,,
ドゴオオォォォンンッッ!!!!突然首都の方向から爆音が聞こえた。ただ事ではないことを察知した俺たちは休憩をやめた。
「今の聞こえたか?」
「お前に聞こえたってことは幻聴じゃないな戻るか」なんか馬鹿にされたが怒っている場合じゃない。
「早くスクロールで城に戻るぞ」レンを急かす様に背中を叩く。俺の第六感が今回は本当にやばいということを教えてくれている。
「了解」レンは魔法空間からスクロールを取り出して魔力を込めていく。帰りの時は行きと逆の色の変化を見せるんだな。
行きと同じように光に包まれる。今度は不快な感じだな。視界がぐにゃぐにゃ曲がっていて吐き気を催しそうだ。
気持ち悪さが消えると王の目の前に立っていた。座標が指定されているスクロールか。それよりもなんでこんなとこに指定してんだよ。もうちょっとずれていたらチューしてるぞ。
「戻ったか。今この近辺でダリア家のローという人物が暴れている。そやつがダリア家最後の生き残りじゃ。どうか,,,楽にさせてやってくれ」顔を伏せ、泣きそうな声色で頼んできた。見た目は青年だったがいい年だったから。王の気持ちも理解できる。
「任してくれ」マントを翻して王に背を向ける。レンは天井を見てため息を吐いて俺の隣に来た。
「王はああいってはいるが、ローとは長年の親友なんだ。どうにかできないか?」誰にも聞こえないように耳打ちをしてきた。
「実際に見るまでは分からないからな。だが善処しておく」はぐらかして俺達はローの居る場所へ向かう。善処するとは言ったが俺は絶対に殺してしまうだろう。目の前で犠牲を払ってまで成功させようとした人が殺され、実験台にまでされているのだから。
ローが暴れていると聞いたクロスストリートの中央では、巨大な肉の塊が人の形を模して暴れていた。核であろう箇所にはローと思わしき人物が露出していた。
「派手に暴れてんな」人間を持ち上げては投げ、建物を崩して逃げ道を無くしたり、足元に居る人間を踏んだりしている。なんであの時に逃げてないんだよ。
殺された人間は肉の塊に統合され強化されていく。負の連鎖だ。早いところ止めないと取り返しのつかないことになりそうだ。
しかしどこから攻撃をしようか。闇雲に攻撃しても再生するだろうし、二次被害も発生するだろう。
「どこから攻撃をしていく?それとも近くに居る奴らを避難させてから戦うか?」隣で怪物を見上げているレンにどっちのほうがいいかを聞く。こういう都市での戦い方はこいつのほうが詳しいだろう。
「避難させた方がいいな。強化も二次被害も抑えられる。俺たちは時間を稼ぐために核を狙ってヘイトを高めた方がいい」太刀に手を添えていつでも行けるぞ、という顔をしている。
「お前ら!!王から命令を受けた俺たちが時間を稼ぐ!!今すぐ避難しろ!!!」生きてきた中で一番の声量で住民や騎士たちに呼びかける。
俺が声を上げ終わった後にレンがコアに向かって斬撃を放つ。予想通り肉が核を守り、俺たちの方を向いた。ビビッて足が動かない奴らもこれで動けるようになるだろう。家の中に籠っている人も避難し始めている。予想外だったが被害が減るならいいな。
「ありがとう!助かった!俺たちは避難の補助に入る!!」王国騎士たちは統率のとれた動きで攻撃を止め、避難経路を確保し始めていた。流石、王を守ってきた人間たちだ。臨機応変に対応してくれる。
「このままヘイトを買いまくろうか」蒼を核に向かって放つ。これで肉の巨人は核を守る行動をとるから、俺たちに攻撃を仕掛けることが出来ない。もし攻撃をしようものなら、レンが文字通りの超高火力の斬撃をお見舞いしてくれる。完璧な作戦だ。
「この後はどうする?」力をいまだに溜め続けているレンがこの後の計画を聞いてきた。この調子だとレンの一撃で決着が付きそうな感じがする。
紅を超えて白くなり始めている鞘を見てそう思う。どこまで蓄えられるんだろうな。
「避難が完了したら合図を送るからどでかいのをお見舞いしてやれ」近くに建っていた塔に登って状況を把握する。逃げ遅れていた人も少なくなっている。死体の搬送をしようとしている人もいたが、騎士たちに抑えられて、街の外に向かわされていた。
「もう少しで行けるぞ!!」下で構えているレンに伝える。あいつの威力は本当にシャレにならん。もう刀身が真っ白になっている。太陽が二つあるのかと錯覚してしまうくらいだ。
「,,,,,,,,,,,」極限までに集中しているレンの耳に俺の声はもう届いていないな。蒼を盛大に爆発させればアイツも抜刀してくれるだろう。
核に打ち出している蒼とは別に、威力を高めた蒼を作り始める。前まではこんな複雑な動きは出来なかったが、質の高い戦いを通していくうちにできるようになっていた。
怪物の動きは依然止まったままで、反撃のチャンスを窺っていた。そんな状況は来ないんだが。膠着状態が続いていたが、住民の避難が済んだことで一気に変化した。
「全員逃げたな」一応周りを確認して、人がいないことを確認する。巻き込まれたら申し訳ないからな。
「レン!行けるからな!」火力を馬鹿みたいに上げた蒼を核に向かって撃ち出す。音に迫る勢いで怪物に当たり、そこを中心に青色の大爆発が起きた。それに追い打ちをかけるようにレンが攻撃をした。
「真・紅一閃」太陽が鞘から引き抜かれ、数百メートル離れた怪物を両断した。紅に染まった衝撃波は扇状に広がり、範囲内のもの全てが灰塵に帰していた。後ろに数十メートル離れていても、肌が焼けているのが分かる。こんなのが直撃したら死は免れないだろう。
「すげぇ威力だな」回復魔法を掛けながらレンの横に駆け寄る。汗は滝の様に流れていて、立っているのも奇跡だと思うくらいに体中が震えていた。
「当たり前,,,だ」そう言うと力を使い果たしたのか、その場に倒れてしまった。スタミナポーションを与えて動けるようにしないとまずいよな。魔法空間から、二種類のポーションを取り出す。
いくらスタミナが回復していても、体の傷が癒えていないと、また倒れてしまう。そうならないようにするための回復ポーションだ。
「剣聖は本当にすごいんだな。抜刀だけとか言ってたが、ほかのも圧倒されるくらい洗練されてたぞ」気を失っているレンにポーションを与えながら思っていたことを漏らす。普段だったら褒めないが今くらいはいいだろう。血の滲むような努力の果ての業を見せてもらったのだから。
「それにしても状態が酷いな」腕は焼け落ちて体中に火傷を負っている。常備しているポーションが無くなってしまった。仕方ないハイポーションを使うか。高価な代物だからアイツらに使おうと思っていたが、こいつも同じくらい大事だ。
魔法空間から、手のひら位の小瓶を取り出す。中には緑と紫が混ざりそうで混ざらない状態を保っている。これが混ざってしまうと普通のポーションになってしまう。
蓋を開けて霧状になるように風魔法を使いながら全身に振りかけていく。腕のところは重点的にかける。剣を持つものにとって腕が一番大切なところだからな。
ポーションを振りかけると、みるみるうちに傷が癒えていくのが分かる。肉が生成されて結合していくところがはっきりと見える。なんでここはファンタジー仕様じゃないんだよ。見ててめっちゃグロい。
完全に治ったところでスタミナポーションを飲ませていく。これは体中を勝手に巡ってくれる都合のいいものだ。本当は疲労が蓄積されている箇所に微生物が行って、癒してくれるからだぞ!本当だぞ!
「ん,,,ここは,,,ブレイクが回復してくれたのか」むくりと起き上がって状況の確認をして感謝の言葉を言ってくれた。
「ハイポーション使ったからな。それよりローは生きてんのか?」塵一つ残らない戦場を見てレンに聞く。
「そのことなら心配するな。しっかり加減しているから生きているはずだ」まだ回復して間もない体をゆっくりと動かしながら、攻撃の当たった中心に指をさした。
「回収してくるからお前はここで休んでろ」ジュースを渡して、ローが居るである場所に向かう。本当に生きてんのか?まったく見えてこないんだが。
待つこと数分地面に大きな窪みがあるのを見つけた。恐らくこの中にローが居るだろう。レンと王には申し訳ないが、殺させてもらう。
レンには見えないように、真正面から蒼を窪みに向かって発動させる。
「ここまでするなんて,,,酷いなぁ」窪みの中からローの声が聞こえた。こいつまだ生きてんのか!?急いで窪みを確認するが中には何もなかった。
「真の禁忌を見せますよ」地面が大きく揺れる。この大陸では地震がめったに起きない。間違いなく人為的なものだ。ローがまた何かをするつもりだ。だが止めようにも姿が見当たらない。
「さようなら。愛しかったこの世界」地面が大きく膨れ上がり爆発した。飛び散る焦げた土と石。正面に居るのは百メートルを超える、骨で出来た巨人だった。
「最後の最後まで手を焼かせるんだな」遠く離れているはずのレンの声が聞こえた気がした。本当にローはみんなから信頼されていたんだな。なんでこんなことをしているんだ。そんな疑問が浮かんだが、考えてる余裕もない。今はこの巨人を倒さないと。
大剣を二つ取り出す。一つは空中に浮かせ、もう一つは手で握りしめる。これがダリア家との最後の戦いか。焼けた土地の真ん中で骨の巨人と対峙をする。どうやら地獄が現世まで来ているようだ。
ワールド・ジェイル 遊者 @liberalarts
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