第11話 王国 4
このままだと完全にやられてしまう。何かこいつを突破できる起死回生の攻撃があれば。蒼もこいつの近くに居ると上手く発動できないし。どうするのが正解なんだ。
鎌を研ぎ始めた怪物を見ながら考える。こいつは今俺のことを完全に獲物だと思っている。油断しているうちにどうにかしたい。
こいつがダリア家の魔法で作られた怪物だとしたらデュランダルが有効かもしれない。賭けになるが仕方ない。
魔法空間から、魔剣を取り出す。その瞬間に怪物は鎌を研ぐのをやめ、一気に間合いを詰めてきた。大剣を思いっきり横に振って進路をずらす。怪物は思わぬ反撃に反応できずに壁に衝突した。
やっぱり予想が当たっていたみたいだ。魔法特化の魔剣に反応を示した。こいつは魔法で生み出されたキメラに過ぎないな。
「魔剣デュランダル!!」怪物に向かって剣を振る。同時に怪物の内側から赤色の炎が漏れ出した。こいつにはこの方法が有効みたいだ。
「GYAAAA!!」怪物は雄叫びを上げて突進をしてきた。体が内側から燃えているのに殺しに来るとはな。
「動きがさっきよりも甘いぞ」俺は身を翻して突進を躱し、魔剣をもう一度振る。怪物の体から一回目よりも激しい炎が噴き出した。
「があああぁぁ!!」あまりの苦痛に怪物が悶えている。自身から出ている火を消そうと、地面を転がっている。俺はもう一度追い打ちをかけるように魔剣を振り下ろす。
「,,,,,,,,,,,」三回目の攻撃で怪物は完全に動きを止め、その場で呼吸をするだけになった。殺すならこのタイミングだな。魔剣を空間に戻し、大剣に持ち替える。
「じゃあな」怪物の首に向かって大剣を振り下ろした。はずだった。当たる瞬間に俺の体が動きを止めた。俺の行動を拒絶するように。
「フェイン?」怪物の顔の鱗が剥がれ落ちたところから、見覚えのある顔が見えた。金髪に整った顔。見間違えるはずがない。
「クソが!!どこまで外道なんだよ!!」俺の叫びは行き先を探す様に辺りに響いた。
「本当に,,,すまない」俺は怪物に背を向けて蒼を発動させた。肉が骨が砕け散っていく音が聞こえる。俺はどこで間違えたんだ。地面を見ながら考える。この革命自体に加担したこと自体が間違いだったのか。それとも,,,
いろんな考えが頭の中を巡る。正解がないのを分かっていても考えることをやめることが出来ない。どうすればいいんだよ。地面が湿っていく。
〈大丈夫。ブレイクは何も間違ってないよ〉後ろから、俺のことを肯定する優しい声が聞こえた。フェインの声だ。最後まで迷惑をかけっぱなしの駄目な人間だな。必ず華を添えてやるからな。
俺は怪物との戦いの場所を後にし、レンの居る城のほうに向かった。道に出るとアンデットや、魔法で操られたモンスターで溢れかえり街は地獄の様になっていた。
赤い目をしたモンスターに勇猛果敢に戦いを挑み死を迎える者、言葉の知らぬ怪物にひたすらに救いを乞う者。叫び声や発狂した人間の声、咆哮が入り混じっている。
これも全てダリア家のせいなんだろうな。怒りが体の芯から滲み出ているのが分かる。今にも爆発しそうな感情を抑えながら街道を歩いて行く。
前よりも強くなったような蒼で敵対するものを薙ぎ払っていく。街もモンスターも関係ない。俺にはフェインの、自由を掴むという役割が存在しているから。
「助けてください!!」城に向かっている途中で沢山の人にそう声を掛けられた。俺は善人ではない、故に助ける道理もない。頭の中ではそう思っていたのだが、体は人を助けるように勝手に動いていた。
「ありがとうございます!!」助けた人がお礼の言葉を言って安全圏に向かっていることを確認すると、なぜだか心が温まるような気がした。
あぁ、そういうことなんだな。俺にはその資格があるんだ。金色に染まる空を眺めながら、人を助けていた。
城に着いたのは空が暗くなった頃だった。そのころにはモンスターのほとんどが死んでいて、多くの人間が街から避難を完了させていた。フェインの望んでいたことだろうな。
空を見ながら城の中に入っていく。中は来たときよりも落ち着いていて、警備がしっかりとしていた。この国で被害が少なかったのはここなんじゃないかって思うくらいだ。
「戻った」俺は城の警備に通されて、王の間に足を踏み入れた。高い位置にある玉座にはやはり、二人の人間が座っていた。
「成果はどうだった?」王が口を開いて俺に問いかけた。
「ダリア家の壊滅は出来なかった。またダリア家がフェイン,,,いや、人間や魔物を使い兵器にしていることを確認した。あと、この国から大勢の人間が外に避難をした」今回起こったことを簡潔に報告する。
「そうか,,,ダリア家は禁断の領域に足を踏み入れてしまっているのか」王はどこか悲しそうに虚空を見つめた。
「ところでレンは城に居るか?」しっかりと狙って飛ばしたから居ると思うんだが。
「あぁ、空からやってきたギルガ家の人間か。来賓の部屋で休息をとっているよ」王は口頭でどこに居るのかを教えてくれた。
「俺も少し休んでからダリア家の壊滅をしてくる」王にそう言って王の間を去った。出る途中で後ろの方から、涙を堪える様な声が聞こえた気がした。
レンの居る部屋で軽く休めばいいか。あいつの状態も気になるしな。来賓の部屋はどこだろうか。周りを見ながら城内を歩く。
廊下ですれ違う人からは「お疲れ様です」と頭を下げられた。王はしっかりと根回しをしてくれたみたいだ。
会う人に道を聞くのもいいが、自分で歩いて場所を確認する方がいいだろう。此処に戦火降りかかっても大丈夫なように。
「ブレイク、こんなところに居たのね」目の前から聞いたことのある声が聞こえた。リズレットだ。
「よう。元気にしてたか?」俺は片手をあげながらあいさつをする。
「元気,,,だったわ。それよりも死なないでよね」リズレットはそう言って後ろの方に走り去っていった。
アイツの元気そうな姿が見れて良かった。もしも体調なんか崩していたりしていたら心配で動けなくなるところだった。
そういえば横を過ぎる時に顔が赤かったが熱でもあるのだろうか。時間があったら訪ねてみるか。
それにしても城は広いな。レンがどこに居るのか全く分からん。適当に歩いて見つかるかな。段々不安になってきたぞ。戦闘の時よりも焦っているかもしれない。
少し早足になりながら、来賓の部屋を探し回る。二階に行ったり、三階に行ったり、絶対に存在しない庭園のほうにまで足を運んだ。
「まじで見つからんな」色とりどりの花が咲いている庭園の真ん中の休憩所にはお洒落な空間で上を見ながら呟く。あの王、俺のこと騙してんじゃねぇか?ちょっと疑いたくなる。
「ん?ブレイクじゃないか」声のほうを見ると、レンがいた。
「レン!無事だったか!?」俺は急いで駆け寄る。
「飛ばした人が良く言うよ。ま、あの時は助けられたから文句は無いな」笑いながら、無事だったことを教えてくれた。
「あの時はな,,,それよりも,,,」俺は王に会ってからのことを話しながら、明日戦えるのかどうかを聞いた。
「いつでも行けるぞ」レンは力ずよく頷いてくれた。
「太陽が上ったらここに来てくれ」俺は一回動くと分からなくなるから、場所を指定してきてもらうことにした。
「分かった。また明日な」レンは自分の部屋に戻っていった。足元もふらついていないから、問題ないだろう。
明日には決着を付けようか。ダリア家首を洗って待ってろ。俺は庭園にテントを張りながら、作戦を考え眠りに落ちた。
空が明るくなってきたころに俺は自然と眼を覚ました。分厚いテントの中からでも聞こえてくる鳥のさえずりが心地いい。外の出て、朝一番の綺麗な空気を肺いっぱいに吸い込む。
「ふー。体が綺麗になった気分だな」浄化魔法をかけて汚れが無いようにする。汚いと気分も雰囲気もすべてが台無しになるからな。こういうところを気にしている間は人間で存在できるだろう。
「今日で終わるといいな」テントを魔法空間に適当に戻し、コーヒーを飲みながらレンが来るのを待つ。寒くも無ければ暖かくもない。快適な温度だ。
ダリア家を倒すために一晩考えたが抵抗できるものが余りにも少ない。蒼は怪物を前にすると発動させにくいし、魔剣のデュランダルは強いが対策はされているだろうし。本当に手詰まり状態だ。
「何か使えるものはあったかな」もう一度魔法空間の中身を確認する。テントやランプ、日用品ばっかだな。剣や盾、鎧なんかもあるが鑑定が無いからどんなものか分かんないんだよな。
鑑定は武器や防具、物に付与されているものが分かるスキルだ。また名前が付いていればそれが見えたり、定義された枠組みの中なら種類が見える。デュランダルを鑑定すれば恐らく、魔剣・デュランダル・対魔法って出るだろう。
レンが来るまでの時間を俺は魔法空間の整理に使っていた。改めて思うが本当に俺は終わっているな。生活という生活が出来ていない気がする。もしかしてアクセルとブランのヒモになっていた!?それだけは勘弁してほしい。
「待たせたな」昨日と同じ方から声がした。
「遅いな。お前が来るまでの間に魔法空間の整理が終わったぞ」笑いながらレンにコーヒーを渡す。
「掘り出しものでもあったか?」コーヒーの苦さに顔を歪めながらレンが聞いてくる。こいつブラックが飲めないのか。可愛いところもあるじゃないか。
「全く分からん。鑑定も鑑定石も無いから何があるのかもわからない」首を振りながらレンに砂糖を渡す。
「鑑定か。そのスキルなら俺が持っているぞ。気になるものがあったら見せてくれ」砂糖をドバドバとコーヒーに入れながら、レンが使えることを教えてくれた。
「本当か?なら鑑定を頼みたいものが三個あるんだ」俺は魔法空間から歪な形をした短剣、悪魔の顔のような彫り物がされた盾、見る角度によって色が変化する石を取り出して渡す。
「これだけか?」レンが俺に確認を取ってから鑑定を始めた。へー、鑑定を使う人間は目の周りが緑の魔法陣みたいのに覆われるんだな。
不思議な光景を眺めながら結果を待つ。ダリア家に対抗できるものがあればいいんだが。
一時間くらいで「終わったぞ」とレンは言ってその場にドサッと座り込んで物と詳細の書かれた紙をくれた。
「ありがとな。ちょっと休んでいてくれ」レンにジュースを渡して紙に目をやる。こんなに細かく書いてくれるのか。一枚の紙には膨大な量の文字が書かれていた。要約しながら見ていくか。
まずは短剣からだな。分類は魔剣。振りかざすことに属性が変化する。素材は不明。銘は無し。お世辞にも使い勝手がいいとは言えないな。次にいこう。
盾の分類は魔法盾。相手の魔法攻撃を無力化する。使用者は体力を徐々に吸われていく。体力が空になると死亡する。銘はドレイン・ドレイン。最悪これは使ってもいいかもしれないが、いきなり死ぬのは嫌だな。
最後は石か。まともなものであってくれ。分類はただの石。どこにでもあるカスみたいな存在。見た目に騙される馬鹿が多いことから七馬鹿石と呼ばれている。
ふざけんなじゃねよ!一番期待してたのに!俺は勢いよく石を地面に叩きつける。レンは俺の行動に笑っていた。あいつ知ってて渡したな。
「ブレイク、お前本当に面白いな」膝を叩きながら笑っている。憎めない笑い方しやがって。
「使えないものは無いが使えるものも無いな」肩を落としながら魔法空間にしまっていく。
「仕方ないさ。己の力で行くしかないだろ」レンは太刀の手入れや防具に不備が無いかを確認している。休憩しとけって言ったのに休んでないな。それもこいつの個性か。
「剣聖が言うと説得力がありますな」俺もレンを見習って長い間手入れをしていなかった大剣たちを磨いていく。欠けていたり、血で錆びてたり酷いな。これは元通りにするのは時間がかかるな。
「お前の剣汚いな。俺が手入れしといてやるから別のことでもしてろ」俺の手入れの雑さが分かったのかレンが怒り気味で手入れを変わってくれた。ありがたいと思うと同時に、情けないという感情も湧き上がってきた。
「すまないな。それじゃ俺は蒼の検証でもしてくるよ」蒼を使ってはいるがあまり性質が掴めていない。時間が余っている今のうちに把握できるところまでしておこう。
「蒼って俺との戦いで見せた不思議な技のことか?」手を止めてレンが聞いてきた。こいつは俺のことになるとすぐに興味をもつな。こいつもしかして,,,俺はそんな気はないからな!?本当だぞ!?
「あぁ、まだ全然感覚が掴めていないから、練習でもしとくかってな」
「そうしてくれ。俺はもっと強くなったお前と剣を交えたい」今までにないくらいに真剣な表情で言われた。この瞬間から戦闘が起きそうなくらいに。
「そうしたらお前はもう俺に勝てないぞ」笑いながら俺は蒼の検証を始めた。
蒼の検証自体は一時間程度で終わった。やったことはどこまで圧縮ができるのか。どこまで形を変化させられるのか。どれほどの数を一度に放出できるのかだ。結論から言うとおそらく際限なく操作できるということが分かった。
五分間続けていても圧縮は出来たが、維持するのが困難になったので切り上げた。形に関しては想像通りに変化させることが出来た。柔軟な考えがあればより良いものになるだろう。放出は五十までは維持できたが、それ以上は精度が無くなるため、五十で断念した。ここからは鍛錬によって成長するだろう。
「検証は終わったのか?」手入れを全て終えたレンが武器を渡しながら聞いてきた。俺にタイミングを合わせてくれたのだろう。
「あぁ、おかげさまで」魔法空間に収納しながらどこまでできたのかを伝える。
「そんなことまでできるのか,,,」俺の話を聞いていたレンは興味津々で真剣に聞いてくれていた。途中で実際に見せてくれと頼まれたから見せておいた。別に隠すものでもないし、戦闘の時になったときに状況が把握しやすいだろう。
「いつの間にか太陽が一番上まで来ているな。行こうか」俺は話しが一区切りついたタイミングで、出発の準備を始めた。
「もうそんな時間か」レンも俺に合わせて準備をし始めた。と言っても武器を身に着けるくらいしかなかったのだが。
「ブレイクは武器を持たないんだな」太刀を佩いているレンに指摘された。
「見た目ばっか気にしても仕方ないしな。戦闘になったときにいきなり剣が出てきたら動揺するだろ?色々考えてんだよ」魔法空間から剣を即座に取り出して、嘘ではないことを教える。
「一理あるな」レンは納得した顔で頷いた。
俺にとって戦闘は自由のために勝利しなくてはいけないものだからな。あの手この手で貪欲に、狡猾に手を進めていかないといけない。
「準備は出来たな」俺らは城から出て、郊外にあるダリア家の本拠地に行くことにした。王曰くそこに一番居る可能性が高いらしい。
「ここからだと結構時間がかかるがどうするんだ?」レンに地図を見せながら聞く。歩きだと三日はかかる距離にある。
「ん?あぁ、そのことなら心配いらない。これがあるからな」得意げな顔をして、一枚の紙を見せてきた。
「それって転移スクロールか?よくそんな高価なものを手に入れられたな」スクロールは安定した出力が出来てなおかつ、嵩張らないのが特徴だ。ものにもよるが今回の転移スクロールは城を一つ買えるくらいの価値がある。
「王が貸してくれたんだ。革命のためなら安いもんだってな」話をしながら、レンがスクロールに魔力を込めていく。赤から青。青から緑にといった具合に色が変化していく。とても綺麗だ。
「準備はいいな?転移するぞ」目の前が光に包まれていく。不思議なことに眩しく感じることは無く、とても心地よかった。
気が付けば果てしなく広がる草原の中に建造されている屋敷の前に居た。此処が本拠地か。
「先陣はどっちが?」俺が笑いながら聞くと「任せてもらおうか」レンは太刀に手を掛けた。
刹那、轟音と赤色の爆発。草木が焼けていく匂いが俺らの五感を支配した。今度こそ殺してやるからな。
壁に大きく空いた穴に勢いよく二人で突入した。この後まさかあんな展開になるとは、神すらも想像できないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます