願い


 あれからハチ達は、一言も話さずとこしえの杜に戻って来た。


「やあ、どうやら無事に全部集めて来れたみたいだね」


「は、はい」


 返事をしたハチの様子が少しだけ変だと思った男は、ハチに聞く。


「何かあったのかい?」


「いや、何も……」


「そっか、じゃあ集めて来た物をもらおうか」


 ハチは、大月の種と生命の杯に入った天の雫を男に渡す。


 それでは、これをと男は言いながら手に持つ大月の種を握り生命の杯の上に持っていくと指の隙間が光りだし、赤い液体が生命の杯にぽちゃぽちゃっと数滴落ちると、生命の杯から赤い光りが天に登って行く。



「さあ、そこに立って」


 男が指差す場所にハチは立つと男はハチの周りに円を描く様に生命の杯に入っている液体をかけていく。


「これで、創世の書がある星の書庫行ける。そこに着いたら、このペンで創世の書の世界記憶の項に自分の名前を書けば向こうの世界に帰れるよ。それではこれで私の役目は終わった」


 男が話し終わると地面が光りだす。


「やっぱりナナも一緒に行こう」


 ハチは手を伸ばすけどナナはその手には触れず。


「それは出来ない、でも私が向こうの世界に行った時に、私にかわいい名前をつけてね…」


 ナナは、目に涙をためながら手を振る。でもハチはナナの最後に言った言葉に驚く。


 光りは、さらに強くなっていく。そしてハチの意識もだんだん薄くなっていく。


「さようならまたね」


 最後までナナは、手を振りハチが向こうの世界に行くのを見送った。



 ハチは目が、覚めると周りに沢山の星があった。


「綺麗だな。ナナと一緒に見れたら良かったのに…」


 そしてハチは、前を見ると大きな本が、浮いていた。


「この本に自分の名前を書けば良いんだよな」


 ハチは男からもらったペンで創世の書に自分の名前を書く。


 すると周りの星が輝きだしハチはそのまま意識を失う。



 目が覚めて体を起こすと髪がはらりと目を隠す。


 周りを見渡してみると自分は、白い部屋に寝ていたようだ。


 そして頬をつたい一滴の雫が手に落ち腕で目を拭く。


「また、会おう。ナナ」







「ねえ、あなたこの子の名前は決めた?」


「うん?ああ…決めてるよ。名前は奈那」













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緋月行人 @yunokiaki

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