第16話 赤子の名

「あッ」

 マロイが叫んだ。マロイの視線を追うとキコニアが天空へ飛びあがるところだった。あたりが急に明るくなり木々の枝葉や草花が躍りだし、田畑は勢いを増して季節も動きはじめた。4人はキコニアに深々と頭をさげた。

「マロイさま、子どもの名前は何と」

 媼が問うた。マロイはキコニアの飛び去ったほうを指さした。

「それは善い御名ですのう」

 翁が称賛した。カワビが重ねた。

「この杜に眠っておいでのオキさまもさぞかしお喜びでございましょう」

 マロイは大きくうなずいた。赤子は神の社においてキコニアと命名され、長じて武蔵の国の安寧に大いなる力を尽くしたという、鴻巣キコニア伝である。



(――▲ 幕)

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鴻巣キコニア伝 鬼伯 (kihaku) @sinigy

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