第29話 帰還者 園田静香
シンの失踪から一月あまり。
シンの母親である
シンの捜索のためにした無理が祟って、体を壊したのだ。
しかし、入院していてもできることはあって、今度はパソコンで情報を集めていた。
差額ベッド代を払って、個室にしてもらっている紗希は周りを気にすることなく調べられる。
(パソコンの音って、割とうるさいから、個室なら安心ね)
紗希は過去に同じようなことが起きていないか、オカルト的なものも含めて、広く情報を集めた。
それで、分かったことは世界では割と頻繁に同じようなことが起きていることだ。
個人が失踪して、何年もして地球の反対側に現れたり、飛行機が丸ごと失踪して、それも全く違うところに、失踪当時のままで現れたりしている。
情報のほとんどは信ぴょう性もなく、与太話ばかりだが、信じてもいいんじゃないかという証拠を残しているものもある。
そのほとんど全ての情報が、世の中不思議なことがあると締めくくられているが、直面している紗希にとっては、終わらせたくない。その先のことを知りたい。
(なんとか、この現象にあっている人の誰かと、連絡が取れないかしら)
考えていると病室のドアが開いた。
「また、パソコンばっかりしちゃって、ちゃんと休まないといけないでしょ」
「お母さん、そうは言ってもシンちゃんが心配なのよ。休んでいられないわ」
「それで、体を壊してしまったら、あの子が悲しむでしょ」
「う……それもそうなんだけど、やれることはやりたいのよ」
「もう、ほどほどにするのよ」
「分かってるんだけどね。でも、シンちゃんに早く会いたいの」
「私も早く会いたいわ。こんなことだったら、あの人に気兼ねしないで、会いにきていればよかったって後悔しているわ」
紗希の母、陽子はシンの祖母ということになる。
紗希が陽子の20歳の時の子だから、陽子はまだ44歳ということになる。
陽子はシンに会いたかったのだが、陽子の夫、紗希にとっての父親にシンの出産を学生ということで反対されていた。
そのためにお互いにしこりがあり、陽子が会いにくるのが憚られていたのだ。
「シンちゃんが帰ってきたら、会わせてあげるわよ。だから頑張らないと」
「そうね、私も協力するから、体を壊さないようにね」
「ありがとう、お母さん」
沙希は退院してからも、精力的に動いた。
ただし、以前は焦りから、休まずに動いていたのだが、今はきちんと休むことを自分に課している。
(シンちゃんが帰ってきたら、笑顔で迎えられるようにしないとね。病気はもってのほかよね)
紗希は色々調べているうちに、日本でも失踪者がいるということを知った。
その中の1人と連絡を取り、アポイントを取ることができた。
意外なことに近所に住んでいるようだった。
約束の日になって、待ち合わせの場所に行くとそこはヒーリングサロンだった。
のぞいて声をかけると、紗希と同い年くらいの綺麗な女性が現れた。
「初めまして、山村紗希と申します。今日はお時間をいただきありがとうございます」
「初めまして、私は園田静香と申します。よろしくお願いします」
勧められて、テーブルにつくと、香りのいいハーブティーを出してくれた。
一口飲むとはやる心が落ち着いて心地いい。
「お店をやっているとは驚きました。お忙しいでしょうに申し訳ありません」
「いえ、おかげさまでうちは口コミだけで広がっていて、それも高額でやっているので、あくせく働いていないんですよ。
今日ももう仕事は終わらせてしまったので、あとは娘の保育園のお迎えまで自由なんですよ」
「娘さんがいるんですか? おいくつですか?」
「私は24歳で娘は4歳です」
「私もシンちゃんも一緒なんですね」
「私たち同い年なのね。シンちゃん。失踪したというお子さんですか?」
「はい、私の一人息子です」
「旦那さんはいらっしゃるんですか?」
「いえ、離婚してるので、シンちゃんと2人でした」
「そうなんですね。私もシングルマザーなので同じですね。私の場合はあっちの世界で亡くなったのですが」
「それはお辛かったですね」
「いえ、そういう危険があると分かっていた仕事だったので」
「あの、あちらと仰りましたが、それは園田さんが失踪した先でのことですか?」
「静香って呼んで。あと、敬語もなしにしましょう。これから深い話もしないといけないし。私も紗希ちゃんって呼ぶわね」
「じゃあ私も静香ちゃんって呼ぶわ。よろしくね、静香ちゃん」
「うん、よろしく」
「それで、あっちっていうのは?」
「うん、異世界ってこと」
「異世界?」
「異世界転移とか異世界召喚とかって聞いたことある?」
「色々調べたから、それくらいなら知ってるわ。創作物でよく使われているみたいね」
「そうなの。だから、こんなことを言うと、疑われるんだけど、私は異世界召喚されたのよ」
「その時のことを詳しく教えてもらえる?」
「うん、いいよ」
静香は話した。
15歳の高校生の時、突然、地面が光ったと思ったら、全く知らないところに倒れていたこと。
そこには魔法士や騎士や貴族や王様などもいた。
その国の名前はシゲツ帝国で魔王国との戦争のために召喚された。
召喚者には不思議な力が宿る。
静香は治癒士としての力が宿った。
戦力が欲しかった、シゲツ帝国側には失望された。召喚は一度すると、数百年はできないし、莫大なコストがかかるからだ。
戦地で軍の治癒士として働かされたおかげで治癒の腕前が上がり、軍からは信頼されていた。
しかし、命を狙われることもあり、その時は撃退できた。召喚者は身体能力も高まるため、護身術を習った。その結果、普通の兵士では相手にならないくらいには強くなっていた。
命を狙われるのが嫌で、軍をやめて隣国のカンアテ王国に移住した。
19歳の時、怪我をしやすい冒険者相手の治癒士をしていたが、そこに金髪碧眼の男性が運び込まれてきた。
かなり酷い怪我だったが、それを治すことができ、調子が戻るまでしばらく看病をしていた。
その男性に好意を抱かれて、猛烈にアタックされて結婚をした。まもなく妊娠した。
しばらく幸せな日々を送るが、夫はダンジョンと呼ばれる、冒険者の稼ぎ場に行ったまま帰ってこなかった。
数ヶ月帰ってこなかったから、もう諦めた時、急にこちらに帰りたくなった。
帰る手段などなかったのだが、漠然と帰りたいと考えていると、転機が訪れた。
病気で動けなくなった旅の老人を治癒したのだが、その老人はしばらく家に居着いた。
そして、異世界召喚のことも含めて、色々話をしたら、ある宝玉を出して言った。
「これは、世界を渡れると言われている宝玉じゃ。本当に帰りたいと思っているなら、その世界を思い描いて、魔力を込めてごらん。きっと、自分の世界に帰れるだろう。これは普通では手に入らない貴重品じゃぞ」
と、言われた。
最初は疑っていたが、使うことにした。
子供を育てるなら、日本の方がいいと思ったからだ。
その宝玉は本物で、イメージした自分の実家に帰ることができた。
帰ってから、実家の助けを借りて、ヒーリングサロンを始めた
今は「高卒認定試験」を合格したので、大学入試に向けて頑張っている。
「シンちゃんの時と同じ」
「そうだね、シンちゃんも同じだと思うよ」
「シンちゃんが異世界に……」
紗希がシンのことを思い茫然としていると、静香が口を開く。
「あの世界は厳しいから、心配なのはわかるけど、私の時とは違って、シンちゃんの他に6人も召喚者がいるみたいだから、その中の人に面倒を見てくれる人もいるかもしれないよ」
先は、シンのボールを拾ってくれた女の子を思い浮かべる。
(あの子が仲良くしてくれたらいいのだけど。でも)
「自分が生きるのも精一杯の世界じゃないの?」
「うん、そうね。気休めなんか言ったらダメね」
「私が行く方法はないの?」
「おそらく、こちらから自分で行く方法はないわ」
「そう……。」
「シンちゃんが戻ってくる宝玉を手に入れられればいいんだけど」
「でも、子供に手に入れるのは難しいんでしょうね」
「そうね、難しいかもしれないわ。でも、希望は捨てないで。時間がかかってもシンちゃんに戻ってくる意思があるなら、可能性はあるよ」
「ありがとう。そうね。希望は捨てないわ。シンちゃんをいつでも迎えられるようにする」
「そうね。気持ちをしっかり持ってね」
「静香ちゃん、今日はありがとうね」
「いいのよ。向こうの世界のことを話すことができたのは、私にとってもありがたいことなの。
お友達になってくれないかな?」
「静香ちゃんがお友達なのは心強いわ。よろしくね」
それ以降、紗希と静香の間には友情が生まれ、度々行動を共にするようになった。
ーーーーーーー後書きーーーーーーーーーー
読んでいただきありがとうございます。
全然読まれていない当作品ですが(笑)
そんな中でも読んでいただいて本当に感謝いたします。
そんな中、致命的なトラブルに遭ってしまいまして、更新が不可能になってしまいました。
具体的に言うと、当作品は4歳スタートの話なのですが、18歳くらいまでのプロットがありました。
かなりの長編にするつもりだったのですが、作り込んだ設定、キャラクター、プロット、地図全て消えてしまったのです。
このままでは更新が不可能で、作り直すべきかとも思っているのですが、地図も無くしてしまったので、あらゆる設定を作り直すことになり、とはいえ、同じものは絶対にできないと思いますので、現段階でその気力もなく、長期の休載、あるいはエタるしかなくなりました。
ここまで読んでいただいた方には本当に申し訳ないのですが、ご了承ください。
応援いただきありがとうございました。
[休載中]4歳で異世界召喚に巻き込まれた! めのめむし @pmroroca
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