第一章 伯爵令嬢は婚約します③
もう少し街で時間を
だというのに──屋敷に戻ったエリネは我が目を疑った。
「ああ。おかえり」
屋敷に、なぜかフラインがいた。どういうわけか両親とライカに交ざって
(頭が痛い……どうなっているの……)
「お姉様、おかえりなさい。戻るのを待っていたのよ。フライン様のお話がとても
知り合いといえばそうだが、街で少し話しただけだ。
フラインは恐ろしいほどに
「では、僕はエリネと話してくるよ。このまま話していると楽しすぎて、本来の目的を忘れてしまいそうだ」
「あらあら。もっとゆっくりしてくださってもよいのに」
「……どうして、ここがわかったの?」
自室に入り、使用人が茶と
フラインはというと、茶を飲んで
「
「あなたが
令嬢として
「君が僕の名前を知っていたのに、僕は君の名前を知らない。これは不公平じゃないか。だからここに来たんだよ。僕、そういうの調べやすい立場にいるから。君も知っているでしょ、ミリタニア
フラインは満面の
この
(早駆けの魔術で王宮に戻り、私のことを調べたんだろう)
興味を持ったものには
(
「君の妹から聞いたけれど、騎士になりたかったんだって? やっぱり僕の言った通りじゃないか。君は騎士に向いているよ。それで入団試験を受けたの?」
「私は騎士にならない。だから試験を受けるつもりはないよ」
「ふうん。ねえ、それって
軽い口調で、流れるように問いかけてくる。言い当てられた気まずさに顔を
「君の妹に教えてもらったんだよ。ええと、ゼボル
いったい、ライカはどこまでを話したのか。フラインの厄介さに気づかず、呑気にあれこれと語ってしまったのかもしれない。
こうなれば
「縁談を受けるつもり。だから
「……縁談、ね」
聞こえてきたのは、何やら考えこんでいるフラインの声だ。見れば顎に手を添え、俯き気味である。反応が気になりじっと見つめていると、ウィスタリア色の
「人を助けに飛び出そうとしていた君が縁談? 相手が
「あれは違う。フラインの見間違いだから」
「でも、指をぽきぽき鳴らして手首をぐるぐると回して、今にも飛びこもうと準備をしているようだった」
「くっ……て、手首と指の運動をしただけ!」
そこまで観察されていたとは予想外だ。無理やりでもごまかし続けるしかない。
「私は令嬢として生きる。だから、この縁談は私が受ける」
「騎士ではなく令嬢として生きたいのなら、縁談を受ける必要はないよ。別に君が
「私が受ける!」
ただの話し合いのつもりが、だんだんと口調が
(この縁談は私が受けなければ大変なことになる。だけど、どう話せばフラインに理解してもらえるだろう。過去に戻る前のフラインなら相談できたけれど……目の前にいるフラインは、あの
未来を知っているがゆえに、エリネはこの
「どうして君が結婚をするの?」
フラインはなかなか折れず、質問を
ついにエリネの
「幸せになりたいから、結婚する!」
強い口調でエリネは言い放った。
それがどのような
(う、嘘ではない。縁談を受けることで家族を守って、私も家族も幸せになるんだから)
とはいえ、これまで息巻いていたフラインの態度が急変したことで、気まずさが生じていた。よくない発言をしたような
「……君が? 幸せ?」
ようやくフラインが動きだしたと思えば、手で口元を
(嘘は……言っていない……)
「なるほど。よくわかった。君は面白いね」
打って変わって、今度は満面の笑みである。
そういえば、彼がこのように笑みを浮かべる時、エリネの身に降りかかるのは
「じゃあ僕は、君の結婚を見守ろう」
「は?」
見守る、とは。予想外の提案である。気の
「君は面白いからね。もう少し観察しようかなって」
「あ……いえ、それは結構です」
「断るなんて悲しいよ。僕は口が軽いからね、騎士団に入れば
フラインの笑顔が隠す意図に、エリネも気づいた。さあっと顔が青ざめていく。
「人助けに飛びだそうとしたり、騎士に
これは
「そ、それは困る!」
「じゃあ僕が口外しないためにはどうしたらいいかな?」
「うぐぐ……」
ゼボル家はエリネをごく
(……フラインめ!)
弱みを
死に戻り騎士団長は伯爵令嬢になりたい 松藤かるり/角川ビーンズ文庫 @beans
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