Chapter 041 英雄現る


 港町プランナ──

 商国パームの漁業を一手に担い、海人族の国家マルボロの首都テレロがあるアーク島を経由し、東大陸との交易も盛んで商国パームの中でも特に重要な都市。


 港のほど近いところにチャイチャイの生家がある。彼の家はこの港町でも有数の豪商の家筋で、父は港町プランナと国内外の陸上輸送を一手に担っている「白羊パーム運送」を経営している。


 家に寄りたいところだが、今はとにかく人目を忍びたい。そのまま港ギルドの受付に直行する。


 港ギルドに寄った理由は依頼をするためで、安全圏域とされている沿岸沿いを航行し半島をぐるっと周回し、ナミシマあるいはオルズベク皇国への客四名を送り届けるという条件で依頼を出そうとしたが、受付であえなく断られてしまった。


 断られた理由を聞くと、この港町プランナより沿岸沿いの安全圏域を進んだ先に半月ほど前から 未確認の謎の島が突如現れ、その周辺で強化された海の魔物が多数目撃され被害も出ていて、現在南ルートは封鎖されているそうだ。


 北ルートについては直行航路がなく、一度山林国ケルウッドのフィーリー海に面している「港町フォルタン」で下船し陸路でオルズベク皇国に入る経路もあるが、船より時間が掛かるし、他国からの入国だとチェックが通常より厳しいため、手配書が回っている場合、最悪捕まるリスクもある。


 南ルート封鎖というこの厳しい状況をどうするかと考えていると、「これは余談ですが……」と受付から海人族マルボロより精鋭が派遣されてきていて、この街に昨日から逗留して街の冒険者等を雇い戦力を補強して、本日午後に謎の島の調査に向かおうとしていることを教えてもらった。


「マルボロから来ている人たちが今どこにいるのか教えてもらえますか?」


 













「もういいや……ラック、俺たちだけで行こうぜ!」

「いやいや……海の中ならいざ知らず、島の探索だったらプロの冒険者を雇わないと……」

「なんで?」

「俺たち陸に上がると、戦闘はできても、探索系は素人だし……」

「まあ確かにそうだな……」

「そういえばダミュー、頼りになりそうな冒険者は見つかった?」

「いんや、依頼出しているけど、てんでダメ~」

「昨日の連中は?」

「昨日来た連中も全員ダメ……動きが素人に毛が生えた程度だったよ……」


 双子の海人族が会話をしている。

 髪と目の色が金色の方がラック、緑色がダミューという。彼らは、港町プランナの港ギルドの応援要請を受けて、マルボロから派遣されてきた本国でも期待の新人と言われている


「じゃあ、アイツ呼ぼうぜ? 海上商港オーレンのトルケル!」

「ああ……あの本国の祭りで対戦したヤバい奴?」

「あと、あの可愛い子ちゃんも」

「あはははっ……ってバカッ……オーレンからここまで何日掛かると思ってんだよ?」

「結構かかる」

「あと、可愛い子ちゃんに手でも出してみろ……間違いなくこの世から消されるぞ……お前?」

「嘘だよ~~トルケル怖いもん、そんな無謀なことしないもんねぇ~」


 彼らは以前、マルボロの首都テレロで開催された祭りの行事〝地域対抗競技〟でトルケルと対戦し、悲惨な目に遭っている。

 その時、彼らのいう「かわい娘ちゃん」ことミズナに視線を送っただけでトルケルに目をつけられた。


「こんにちは~、ラックさんとダミューさんって方はこちらにいますか~?」


 また来た。今日の連中はどうだ?

 見ると荷馬車を連れた羊人の青年が建物の入口の前に立っていた。


 動きは……。これは当たり・・・だ。

 羊人の青年から只ならない気配を感じる……。後ろに控えている少女も動きに無駄がなく何かしら訓練を受けていると思われる。


「俺たちがラックとダミューだが?」

「初めまして、私の名前は……」


 羊人の青年は軽く自己紹介してきた。


「で……例の島の調査の協力をしてくれるってことでいいのかい?」

「ええ、それで相談なんですが……」


 羊人の一行は、島の捜索に協力する代わりに調査を終えた後、海上街道ナミシマかオルズベク皇国に降ろしてほしいという交換条件を提示してきた。


 なんでまた? という野暮な質問はなし。なんとなく訳アリなのは確か。これは勘だが、荷車の積み荷でフードを被ってビクビクしている男絡みだろう……。


 まあそっちはどうでもいい……。目の前の羊人と後ろの少女は明らかにこちらの期待以上の戦力だ。


「あんたらの条件は呑むよ。準備してからすぐ出発したいけど、そちらさんの都合は?」

「こちらも早めに出発したいので好都合です」


 商人特有のやわらかい物腰だ。柔和な笑みの奥に人を騙そうといった魂胆は微塵も感じない。普段はどうか知らないが信用できるかもしれない。


 出発時間と船の係留場所と船の特徴を伝えると彼らは準備があるらしく足早に俺たちの前から立ち去った。


「ダミューどう思う?」

「そうだな……俺はすぐ後ろにいた気の強そうな子より御者席にいた侍女服姿の子が好みだ……」

「いやいや、女の子の好みなんて聞いてないし……俺も御者席の女の子に一票」


 気の合う双子ラック&ダミューがまた、他愛もない話に花を咲かせ始めたときにまた訪問者が来た。


「──っ!?」


 












 チャイチャイ達は、街中で必要なものを手早く揃え、指定された時間より早く港の海人族の船を見つけ、荷馬車を船に積み込む。荷馬車は組み合わせユニット型構造になっていて、組み立て、解体が楽にできるような造りになっている。


 荷馬車を積み終わってすぐくらいに先ほどの海人族の二人が別のものに付き従いこちらに向かってくる。


「君たちが海上街道ナミシマ行きを希望している商人と冒険者だね?」


 ──この人物は相当どころか恐ろしくデキる。

 双子もかなりの腕と推察できたが目の前の男はチャイチャイがこれまで見てきた人物の中でも傑出している。今まで磨き上げてきた商人としての目がそう見定めた。


「私は 〝ジオ・アルマニ〟── マルボロ国王の弟にあたるものだ」


『──ッ!』

 

 ちょっと驚きました……。目の前の人物はこの世界で数少ない、二つ名持ちダブルホルダー、「銀閃のジオ」と呼ばれている超有名人。


 なぜそんな大物がこんなところに?


「俺がここにいるのは、非公式なんでな……これ以上は互いに詮索しない方がよかろう? なに……悪いようにはせん」


 こちらの情報逃亡中は伝わっていると見た方がいいでしょう……。

 そのうえで、話してくれている。ここは王弟殿下のいいでしょうね。


 チャイチャイはスキル【念話】でモンテールだけにこのことを伝え、彼女から了解をもらうが少し雑音が入っている。これは【盗聴ワイヤタップ】の上位スキルで希少性が高くほとんど知られていない幻のスキル【念話傍受】インターセプション。誰がそんなことを……。


「分かりました。よろしくお願いします」


 海人族の調査団とチャイチャイ一行は謎の島に向かい、出発した。


 












 神の箱庭監視室では、チャイチャイとジオのやり取りをとある女神が画面上で観て笑い転げている……。


「ひーっ、””と””だって……これは””に乗らねば……ぷぷっ…」


 周囲の天使はやや哀れそうにちらりと目をやるが、誰も話しかけない。


「ふぅぅ……落ちついた」


 ようやく一人で勝手にツボに入って笑い転げるモードが解除されたようで真顔に戻る。


「まったく……私を笑い死にさせる気か! って私、神だからそんなことじゃ死にませ─ん……ぷぷっ……」


 また始まった……。

 このダジャレ地獄は、いつまで続くのだろうか?

 それは神のみぞ知る……。  



 ぷぷっ。


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2025年1月11日 19:47

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