第9話
俺は廊下を走る。
正面玄関を飛び出して正門へ向かう。唖然とした数人の生徒たちの間に立つ女……ウサ耳をつけた肩もあらわなバニーガール姿。団員募集用紙の束を握りしめている。もう一人のあられもない姿をした女の子は泣きじゃくっている。好戦的な目つきで俺を見つめている女こそ高校一年の涼宮ハルヒだった。
俺は朝比奈さん、古泉とともに再びこの時空に戻った。長門は過去の自分に同期して全データをこの時点の長門に転送している。
俺の居場所は一つしかない。名前や経歴は『機関』と朝比奈(大)さんの手によって改ざんされている。顔つきまで変えてしまった。
俺が教育大学に進学したのもハルヒに影響されたことは間違いない。おそらくそのお膳立てをしたのも古泉と長門だろう。ひょっとすると勉強を手伝ってくれた国木田や谷口もそうかもしれない。そう、ハルヒが失踪した直後から対策が練られていたんだ。
俺の任務は一年五組の担任として涼宮ハルヒを監視すること。そしてSOS団を陰ながら支援し、守ることなのだ。
古泉は正体を完全に隠匿し、若い自分を部下として指導する。その上で『機関』を拡大強化し、高校一年三学期にあらわれる「敵」に備えるらしい。幸いなことに、古泉はこの世界に到着した瞬間に自分の能力を再び取り戻している。高校生の古泉はとてつもなく強力な味方を得たことになる。
もちろん大人の朝比奈さんは今の朝比奈さんを監督する。このあたりは因果律的に俺の理解の届くところではないが、ここに到着した直後の朝比奈さん(大)は、別の朝比奈さん(大)を感知することはなかったらしい。
同期を終えた長門はもう高校一年冬の事件は発生しないと予測していた。ただ、あのクラス委員長との対決はまだわからないそうだ。だが負けることは絶対にないのはわかっている。
こうして妙な形で大人の俺達と、高校生の俺たちは走り出した。時々思うのだが、俺たちがやってきた世界はハルヒが失踪しなかった世界から見れば異世界でしかない。とするならば俺たちは異世界人だろう。
さらに俺は考える。ひょっとして、この七年というループはもう何回も繰り返されていて、オリジナルの未来人、超能力者は失われているのかもしれない。
だが、今はどうでもいいことだ。
俺は目の前のハルヒを見る。もうなんども、いや何千回も遭遇した強い意志を秘めた瞳。こうと決めたらあらゆる障害をぶっ飛ばし、絶対にやり遂げる涼宮ハルヒがそこにいた。今頃、部室では高校生の俺がハルヒの脱ぎ散らかした衣類に困惑の極みにいるはずだ。
今度こそ朝比奈さん、長門、古泉……俺の意志を実現するために、ハルヒがよその世界に行っちまわないようにするだけじゃなくて、だ。世界は涼宮ハルヒが存在するにはたぶん狭すぎる。だったら逃げ出さないで拡張すればいい。世界も自分も変えていけばいい。ハルヒにそう気づかせるのが教師としての俺の役目だ。
俺はこみあげてきた笑いを堪えるのに必死で唇を噛んだ。はたから見れば怒り心頭に見えなくもないだろう。
でもそれでいい。今の俺にできることはこれしかない。
一年五組、涼宮ハルヒの担任として、ハルヒだけじゃなく、高校生の俺の心がわかるのは俺しかいないわけだし。
ようやく俺の腹は決まった。
「涼宮! いいかげんにしなさい。その姿はなんだっ!」
まったくもう……。なんでハルヒはこんな格好を思いついたんだろうね?
七年後 伊東デイズ @38k285nw
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