第2話 フラッペのクリームってどうするか?

 一昔前に結成された小学生デュオ・『パンダ兄弟』をご存じだろうか。十年以上たった今、兄のげんは芸人として、弟のいくは歌手として再ブレイクを果たしている。今日は、偶然グルメ番組で共演することになり、その収録が終わったところであった。

「あのカフェで一休みしよか」

「じゃ、ごちそうさまです」

「なんでやねん」

 そう言いながら二人は、近場のカフェに入って行った。メニューは多種多様であり、コーヒーはもちろんのことラテやフラペチーノなどの飲みものや、サンドウィッチやワッフルなどの軽食も多く揃えられていた。

 何にしようかなと悩んでいた二人だったが、後ろにも列が並び始めてしまったので、急いでキャラメルフラッペとワッフルを二つ注文をした。

「お持ち帰りですか? 」

 店員の女性が玄に尋ねる。

「持ちか……」

「ここで食べます」

 意に反して郁に決められてしまったことに、思わず玄が呟いた。

「持ち帰ったほうが目立たずに帰れるし、軽減税率で安くなるやろ……」

「仕事終わってプライベートだし、昔ほど人気ないから大丈夫」

 そう言って郁は上機嫌で二人分のメニューを二階席へ運んでいった。

 二階席には、カウンターと喫煙席、そして禁煙の個室席も用意されていた。玄は先回りして、個室席のスライドドアを開けて、郁を促す。郁はどうもと言ってそれぞれのメニューをテーブルの上に置いた。

「いただきます」

「いただきます」

 二人は、それぞれキャラメルフラッペにストローを刺し、一口飲んだ。二人とも美味しさのあまり笑みがこぼれていた。

「これ飲んだらパンダに変身みたいなの昔やったよな」

「CMでやったねえ。それ以来ハマっちゃったけど」

 思い出話も絶えなかった。実を言うと、二人は実の兄弟ではない。どことなく似ているということで兄弟として組まされたというのが本当のところだ。しかし、お互い仲良くなり、一時は長者番付に載るほど名が知れるようになった。しかし、時というものは残酷なもので、三年ほどして解散という形になった。それぞれ別れてからは、長い下積み期間があったものの郁が歌手としてヒット、玄はピン芸人として段々とテレビ出演を果たすようになっていた。

 郁は上からストローを刺し、玄は蓋を開けてストローでクリームを掬っていた。その様子に郁は少し訝し気に見ていた。

「クリーム別にして食べるの?」

「最初は全部かき混ぜて飲んでたけど、今は別々に食べるのも美味しいって気づいた」

「変わった飲み方するね」

 郁は心の中で個室でよかったと思いながら、またフラッペを一口飲む。

「そういや、また曲出すんだって?」

「四作目になるけどね。少しずつ売り上げてるらしいよ」

「いいなあ……」

「なかなかうまくいかないよ」

 沈黙が二人を包んでいく。手持ち無沙汰になった玄はとりあえずワッフルを半分に切って、大きく口の中に入れた。郁は玄のおかしな様子に失笑した。玄は少し顔をしかめた。郁はごめんごめんと言いながらこう聞き返した。

「そっちはどうなの? 番組出るんだって?」

「冠番組を一本いただきましたわ。」

「なるほど……」

「でも早く売れてえなあ、全国」

 再び沈黙が二人を包む。お互いに久しぶりに会ったのに、話すことがなくなってしまった。お互いSNSで繋がっていて、近況もわかってしまうものだから、改めて話すことが見つからなかった。いつの間にか玄のフラッペのクリームは無くなっていていた。その一方、郁は自分のスマホでSNSを開いてタイムラインを見ていた。

「これ、今日のロケのやつ」

「おっ、アイドルのANNAちゃん。ほんと可愛かったもんなあ」

 二人は、郁が見つけたSNSの投稿を見ていた。それは、今日のロケで共演したアイドルのもので、二人と一緒に写っている写真もあった。

「玄くんは見惚れてたもんね。お腹触られてハイになって」

「うるさいっ! 郁もデレデレじゃないの」

 玄は郁に反撃され、頬を膨らませた。玄はスマホを取り出して、郁の写真を一枚撮った。そんなことをしているうちに、郁はワッフルを平らげており、フラッペも飲み干してしまっていた。それに気づいた玄も勢いに任せてフラッペを飲み干したところ、異変に気づいた。

「やべ、氷しかなくなったわ」

「そんな飲み方するからだよ」

郁はため息交じりにそう言った。そして思い出したかのように続けて言った。

「結局、こういうフラッペってどういう飲み方が正しいんだろうね」

「まあ、飲み方なんておいしければそれでいいよ」

そう言いながら玄は、自分のスマホで『フラペチーノ 飲み方』と検索した。そして記事を見つけて軽く読むと、その画面を郁に見せつけた。

「ほら、やっぱり! なんでもいいのよ!」

「でも、行儀はよくして飲んでね」

自慢気に玄は胸を張って話したが、郁にはノールックであしらわれてしまった。玄は仰け反りながら背伸びをした。すると玄の方もあることに気づいた。

「とりあえず、SNS用に写真撮っておこうか」

「あっ、そうだね」

 お互いカフェでワッフルを完食した皿や、お互い平らげた皿を見せつけるような写真を撮り合ったり、ウェイターから水を貰うついでに、ツーショット写真を撮ってもらったりした。お互い自身のSNSにこのできごとを投稿したところで帰り支度をはじめた。

「それじゃ、お暇しましょうか」

「はい、また今度ね」

 二人はカフェを後にし、それぞれ家路についたのであった。

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たわいもない小話 すごろくひろ @sugoroku_hiro

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