第43話 熱機械共vs野獣先輩

 草原を吹き抜ける風が、野獣先輩の額の汗を拭い去るように流れていく。広がる青々とした大地、揺れる草花——まさに絶好の冒険日和。しかし、その穏やかな景色の中に、異様な存在が待ち構えていた。


「やぁ…(警戒)」


 突如、目の前に現れたのは、ゴツゴツとした鉄のボディに燃え盛る炎を纏った怪人。その名もストーブ怪人。黒光りする煙突のような頭から、ゴウゴウと熱気を噴き出し、周囲の草を焼き焦がしている。


「まずいですよ!」


 野獣先輩は直感した。こいつ、熱い(確信)。

 だが、逃げるわけにはいかない。なぜなら、背後には仲間たち——特に遠足で来ていた後輩の姿があったからだ。


「ここは俺に任せろ」


 そう言い放ち、野獣先輩はストーブ怪人に向かって拳を構えた。しかし、その瞬間、怪人の目が怪しく光り、


「熱波放射ァ!」


 灼熱のエネルギーが迸る! 瞬く間に広がる熱風が、野獣先輩を襲う。草原は焼け焦げ、周囲の温度が急激に上昇する。熱い! 痛い! 体中の水分が蒸発しそうな勢いだ!


「アツゥイ!」


 野獣先輩は慌てて距離を取るが、ストーブ怪人は容赦なく追撃を仕掛けてくる。高熱を帯びた拳を振り下ろし、地面に激突させるたび、草花が火柱となって燃え上がる。


「こ、これは…いけない…(焦燥)」


 汗が滝のように流れ、体力も奪われていく。だが、野獣先輩の脳裏に浮かんだのは、過去の戦いの記憶。そう、かつて敗北の味を知ったあの日——。


「でも俺は…負けないんだよなぁ」


 野獣先輩は震える手で懐から取り出した。それは一本のペットボトル。中には冷えた水が入っている。


「冷却(意味深)」


 彼はそれを一気に飲み干すと、残った水を自らの体に浴びせた。ジュワァ…ッと蒸気が立ち昇る。しかし、その冷たさが、一瞬だけでも体をリフレッシュさせる。


「もう許せるぞオイ!」


 覚醒した野獣先輩は、一気にストーブ怪人との距離を詰めた。怪人が新たな熱波を放とうとした瞬間、先輩は全身の力を込めて叫ぶ!


「ファイヤーナックル!!!」


 まるで相手の熱を上回るかのような一撃が、怪人のボディに直撃! 鉄の装甲が歪み、内部から異音が響く。そして——


「ア゛ア゛ア゛ーーーッ!!!」


 断末魔を上げながら、ストーブ怪人は爆発四散! 炎は消え去り、草原には静寂が戻った。


「やったぜ」


 燃え残った草の向こうから、後輩たちが駆け寄る。


「先輩! すごいっすね!」

「野獣先輩のおかげで助かりました!」


「んにゃぴ…そういや誰なんだコイツら」


 疲労困憊の野獣先輩は、青空を仰ぎながら横たわるのだった。こうして、青く広がる草原に、再び静寂が訪れた。

 ストーブ怪人との死闘を制した野獣先輩は、息を整えながら燃え残った草を見つめる。後輩たちも歓声を上げ、その勇姿を称えていた。


 しかし、その安堵のひとときは、突如として砕かれる。


「ウゥゥゥ…ゴォォォォォ!!」


 遠くから響く、異様な轟音。地響きを伴いながら、それはやってきた。


「…おいおいおい、マズイですよ!」


 突如現れたのは、ファンヒーターマン。その体はストーブ怪人よりも流線型で、背中には巨大な排気ファンを搭載している。ゴウゴウと熱風を巻き上げながら、無慈悲な眼差しを野獣先輩に向ける。


「貴様ァ…よくもストーブ怪人を倒したな…!」


「やっべぇぞ…」


 野獣先輩の額に、再び汗が滲む。ストーブ怪人を倒したばかりの身で、こんな強敵と連戦なんて無理! 絶対に無理!


「許さん…この俺が灼熱の裁きを下してやる!」


「ちょっと待って…ちょっと待ってって!」


 だが、ファンヒーターマンは待たない。


「温風フルパワーブラストォ!」


 バチバチバチッ!

 突如、ファンが猛回転し、超高温の熱風が竜巻のように吹き荒れる! 野獣先輩は咄嗟に飛び退くが、熱波は草原を焼き尽くし、空気を歪ませる。


「熱い熱い熱い!」


 地面に転がる野獣先輩の背中に、ジリジリと焦げるような痛みが走る。マズイ、こいつの火力はストーブ怪人よりも上だ。


「クソッ…! どうすれば…」


 視界の端に、あるものが映る。さっきの戦いで飲み干したペットボトルだ。いや、それだけじゃない。後輩たちが、何かを持って駆け寄ってくる。


「先輩!これを使ってください!」


 差し出されたのは、冷え冷えの缶ビール。それを見た瞬間、野獣先輩の脳内に閃光が走る。


「これだ…!(確信)」


 手に取った缶ビールを一気に飲み干し、体に振りかける。さらに、残った分を手のひらに握りしめると、その冷気を一点に集中させ——


「ビール! ビール! いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


冷気拳・クールブレイカー!!!


 ファンヒーターマンの顔面目掛けて、冷気を帯びた拳を叩き込む!


「グワァァァァァ!!!」


 衝撃と共に、ファンヒーターマンの排気ファンが凍りつく。勢いを失った機体はガタつき、熱風を吐き出せなくなった。


「バカな…この俺が…こんな…冷却如きに……!」


「やったぜ。」


 野獣先輩の一撃を受けたファンヒーターマンは、フラフラと後ずさりながら、最後の叫びを上げる。


「まだだ…まだ終わらん…!」


 そう言い残し、バランスを崩しながら山の向こうへと消えていった。


「お、おう…」


 野獣先輩は汗を拭いながら、ホッと胸を撫で下ろした。


「先輩! かっこよかったっす!」

「やっぱすげぇ…!」


 歓声を上げる後輩(ホモガキ)たち。野獣先輩は黙って空を仰ぐ。今日もまた、戦ってしまった。だが、これが冒険というものなのだ。


「…帰って風呂入ろ。」


 青空の下、野獣先輩の新たな伝説が刻まれたのだった——。

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野獣先輩の冒険譚 谷塚Rom子 @blacknote

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