第42話 ダージーパイ先輩 ~中華の頂を目指して~

 野獣先輩——24歳、大学生。普段は適当にキャンパスを彷徨いながら「やりますねぇ」と呟く生活を送っているが、彼には誰にも譲れない夢があった。


「伝説のダージーパイを、この手で作る」


 ダージーパイ——台湾発祥の巨大鶏排(ジーパイ)。カリッカリの衣、ジューシーな鶏肉、

 一口食べればイキスギィ! な快感が全身を駆け巡る、まさに至高の揚げ物。野獣はその味に取り憑かれ、「自分の手で究極のダージーパイを作るしかない」と悟ったのだった。


「よーし、まずは修行だ!」


 彼が向かったのは、大学近くにひっそりと佇む中華料理屋【金龍飯店】。ここのダージーパイは絶品と評判で、店主はかつて台湾で修業を積んだ料理人らしい。


「おっ、待てよ…」


 暖簾をくぐると、厨房から豪快な中華鍋の音と、香辛料の芳しい香りが漂ってきた。店主は恰幅のいい男で、眉間にシワを寄せながら鍋を振っている。


「いらっしゃいませ。」


「弟子にしてください!」


「は?」


 突然の申し出に、店主は困惑するが、濁った目の野獣の真剣な眼差しを見て黙り込む。そして、一つの条件を出した。


「ダージーパイを学びたいなら、まずは厨房の掃除からだ。」


「やりますねぇ!」


修行開始


 まずは掃除から始まる地道な修行。


「クッソ汚ねぇなぁ…(絶望)」


「お前が言うな」


 厨房の隅々まで油汚れがこびりついている。しかし、野獣は黙々と雑巾を握りしめ、ひたすら磨き続けた。


「おっ、やるじゃねぇか。」


 数日後、店主はようやく彼に包丁を持つことを許した。


「ダージーパイに必要なのは、肉の下ごしらえだ。さあ、この鶏むね肉を切ってみろ。」


 野獣は包丁を握り、肉を前にして息を呑む。


「怖いっすねぇ…」


 しかし、男はやると決めたらやる生き物。慎重に包丁を入れ、肉を適度な厚みに開く。


「やりますねぇ!」


 次に待ち構えていたのは、秘伝のタレ作り。


「ダージーパイの決め手は、下味とスパイスだ。しっかり揉み込めよ。」


「イキスギィ!」


 五香粉、花椒、醤油、ニンニク、生姜、秘伝の香辛料をブレンドし、鶏肉に馴染ませる。


「いいぞ、その調子だ。」


 店主の厳しい指導のもと、野獣は日々成長していった。


運命の試練


 ある日、店主は厳かに告げた。


「お前に、ダージーパイを揚げさせてやる。」


「マジっすか!」


 野獣は高温に熱した油の前に立つ。準備した鶏肉に、特製の衣をまぶし、慎重に油へ投入する。


ジュワァァァァ…!


 高温の油が一気に鶏肉を包み込み、黄金色に染め上げていく。その香りは店中に広がり、客たちの視線が厨房へと集まる。


「野獣くん…!」


 客の一人が、彼の料理姿を見て涙を浮かべる。


「なんだこの完璧な揚げ色…」


「食べたい…今すぐ食べたい…!」


 野獣は油からダージーパイを引き上げ、熱々のまま皿へと盛り付けた。


「やりますねぇ!」


 店主が一口かじる。


サクッ…


「…!」


 その瞬間、店主の目に光が宿る。


「ンアッー! これは…俺を超えたダージーパイだ…! パリパリスギィ!!!!」


「えぇ…(困惑)」


 客たちが次々とダージーパイを口にし、感動の波が店を包み込む。


「イクイクイク…!」


 食べた者すべてが至福の声を漏らし、店は歓喜の渦へと変わった。


伝説の誕生


「野獣、お前はもう俺の弟子ではない。お前は——」


 店主は震える手で厨房の奥から、一枚の紙を取り出した。それは、代々受け継がれてきた店の証——すなわち、伝説のダージーパイを受け継ぐ者に与えられる称号であった。


「この店を、任せる。」


「たまげたなぁ…」


 こうして、野獣先輩は伝説のダージーパイを極め、ついに中華料理界の頂へと登り詰めたのであった。


「やっぱり、俺って伝説になるべくして生まれてきたんだよなぁ…」


 彼の作るダージーパイは、今もどこかで人々を幸せにしている。

 ……かもしれない。


——伝説は、終わらない。

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