おもいで、

藤堂こゆ

おもいで、

 ひとりの詩人が一編の詩に込めた想いを私は知らない。だれも知り得ないのだ今となっては。そもそも詩人は知っていただろうか自らがその詩に込めたまじないを。

 ひとは自分が言ったことの意味などひとつもわかっていないのだとあなたが言ったとき私はあなたの言ったことがまるでわからなかった。今半分わかったということは半分わかっていないということわかり得ないのだ今となっては。あなたが正しかったとすればあなたにもわかっていなかった。

 生きると死ぬは同義語だとだれかが言ったそれは半分あってるはずだった。好きなように生きることは好きなように死ぬことで好きなように死ぬことは好きなように生きたということだからだがしかし。半分あってるということは半分間違ってるということ生きると死ぬとでは全く異なる状態なのだから。とそうあなたが言ったからそうなのだろう。

 あなたが生きるの同義語に陥ったとき私はなにをしていたろうなにもしてはいなかった。嘆きも喚きもせずただ死ぬの同義語をしていた。私たちは同義語だった全く異なる状態なのだが。

 あなたという詩人が一編の詩に込めた想いを私は知らないあなたも知らないだれにも知り得ない昔も今も。だがしかし私は知っているあなたというひとが私にかけた一片のことばに込めた想いを今も昔も。

 ながい時を経て今私は本当にあなたと同じことばになる。私という詩人でもなんでもないひとりのただのひとがこの紙切れに込めたまじないをあなたは知らない。明かしてしまうこともできるけれど秘密のひとつやふたつ作っておこう。その方が楽しいから。

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おもいで、 藤堂こゆ @Koyu_tomato

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