第3話 The world is full of antisocial people.③

 ヤクザのシノギなんてもんは、始めはみかじめ料の徴収や組長の送迎役から始まることが多い。

 俺の場合は山城組の新参者として。

 まずは、みかじめ料の徴収を任される運びとなった……。


 この神輿町は、あの東京神奈川大租界。

 六郎会の息がかかった根城でもある。

 だが、その中には当然、山城のように六郎会に所属していない小さな組も点在している。

 縄張り争いこそは避けられないが、山城には山城のやり方とルールがある。

 俺にはそれに習う必要性があった。


「うちはお前も知る通り小さな組だ。六郎会傘下のヤツらから影の山城組なんて名前で恐れられちゃいるが、知っての通りうちは匿名の組に過ぎない」


 山城組は、まだこの地で旗揚げしてから歴は浅い組。


「それなのにみかじめ料なんてあるんですか?」


「当然だ。ヤクザを何だと思ってる。

 うちの組がケツモチしてる店だって、この神輿町の中には、それこそ山のようにあるんだ……。

 ……そのほとんどが、六郎会傘下からカチコミかけられたりして、返って迷惑がってるヤツらがほとんどだ。

 連中は……シノギのやり方が汚えからなぁ……。

 こっちはそのツケを支払うように後ろ盾として機能してやってる。

 言わば俺たちは対立関係。

 六郎会傘下の連中とは、犬猿の仲にあると言っても良い。

 だから間違っても問題トラブルだけは起こすなよ?」


 そう言って山城龍城は胸ポケットからタバコを取り出し、火を付けるとふぅ〜っと煙を吐き出した。


「分かりました。それで……俺は、まず何処に向かえば良いんですか?」


「そうだな……ちょうどキャバレーの店長が何か困った事があるとか言ってた気がするな。

 手始めにお前はそこを一人で回って来い」


「分かりました……」


「不服か? ヤクザの仕事は……」


「いえ……そんなことは……。

 昨日の岩下組の一件とかもそうですけど、龍城の兄貴には、本当に命を救われたと思っています。

 何度感謝しても足りないって言うか……」


 俺にその恩を返せる保証なんて無いのに……。

 龍城の兄貴は、こうして俺を助けてくれた。

 俺は龍城の兄貴に筋を通したい。

 それにおとっつぁんが蒸発したのが、この街の中である以上。

 きっとおとっつぁんの情報は、この街の何処かに紛れ込んでる。

 龍城の兄貴はそれを理解した上で、俺にこの仕事を任せようとしている。


「だけど龍城の兄貴は、どうして俺にそこまで?」


 俺を助けてくれたことには感謝しかない。

 身寄りもない俺なんかを山城組に率いれた張本人。

 浩三組長との親子酒坏を見守り、その後は龍城の兄貴が直々に兄弟酒坏まで交わしてくれた。

 だけど俺には、今の所その恩義に報いるだけの代物は持ち合わせていない。

 言ってしまえば今の俺は、何の役にも立てない下っ端の組員。

 そんな俺がこれから大きくなって、龍城の兄貴や浩三組長に何か恩返しをすることなんて出来るんだろうか?


「お前は……まだガキの癖に俺たちに気を遣い過ぎだ。

 ……言ったろ? お前のおとっつぁんは、俺の兄貴分で、よく面倒を見て貰ってた事があるって。

 今のお前と同じだよ。俺も返せる物なんて何もねえ。

 そんな状態を何度も経験した。

 けど、それでも三平の兄貴は、そんな俺にも優しく手を差し伸べてくれた事が何度もあった。

 ーー理由なんて関係ねえんだ。

 人が誰かを助けたいと思うのに理由なんて要らねえ。

 最も必要なのは、自分がそうしてやりてえって思ったケジメなのさ。

 俺が兄貴にそうして貰ったから。

 お前の兄貴に俺がなった以上、そうしてやりてえと思ったんだ……」


「……龍城の兄貴……。俺……頑張ってこの組の為にキッチリとシノギをこなしてみせますよ!!」


「あぁ……俺だってそのつもりだ。

 しっかりとコキ使ってやる気で居るから、さっさと今日のシノギに行って来い。

 キャバレーの場所は、大月通りの裏路地にあるタバコ屋の中だ。

 店の名前は、ボインボインライブ」


「ボインボインライブですね……?

 分かりました……今すぐに行って来ます!!」


「それとな龍二……万が一何かトラブルがあった時の為にこいつをお前に渡しておく」


「コイツぁ確か……」


「あぁ……オヤジが持ってた最後の核石の一つだ。

 お前にとっては、言わばおとっつぁんの形見の品みたいなもんだろ?」


「そんな……形見の品だなんて……」


 縁起の悪い冗談だ。


「冗談だバカ。お前のおとっつぁんは、この俺の兄貴分だぞ?

 今頃しぶとく生き足掻いてるに決まってるさ……」


「ッ……そうですね……ッ!!

 ありがとうございますッ!!」


 俺は事務所の中で頭を下げると、龍城の兄貴から手渡しで核石を頂く。


「この核石は、呑み込んで使えばスレイヤーとしての不思議な力を授かるが、所持しているだけでもお前に恩恵を与えてくれる代物だ」


「恩恵ですか……?」


 具体的には、どんな恩恵のことを言うのだろう?


「この核石を所持している者には、男レベルと言う概念が見えるようになる」


「男レベルと言う概念ですか……?」


「あぁ……男レベルの概念は、お前が男を上げて、男を磨いた分だけ強くなる。

 まぁ……お前の現在の男レベルは、ざっと見積もって1って所だな……」


「えッ……めっちゃ弱いですね? 俺……」


「当然だ。まだ二十歳そこそこにも満たねえクソガキが、これから男を磨こうってんだ。

 もっと良い男になるには、それなりの月日と年月がかかる」


 龍城の兄貴にそう言われてしまうと、俺としてはぐうの音も出ない。


「お前は、まだまだこれからだ」


「俺も兄貴みたいに……強くて優しい男になれますかね?」


「フンッ……そいつぁお前の今後次第って所だな……期待してるぞ……?」


「ッ……待っててください兄貴!!

 俺……今より必ずビッグな男になって、この事務所に帰って来て見せますから!!」


「おう!! 気合い入れて行って来いッ!!」


 俺は龍城の兄貴に背中を押され、張り切って事務所の扉を開いてシノギに旅立つ。

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反社スレイヤー 三木一馬のリザードン @HanshaKuzuSine

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