第2話:回転寿司

 寿司。日本を代表する食文化の一つ。酢飯に生魚を乗せて握るという、シンプル極まりなく、それだけに奥が深い料理。

 などという洒落臭い話は置いておいて、魚が苦手というわけでなければ寿司が嫌いという人も珍しいだろう。


 子供の頃の僕は、ごく一部以外の寿司が苦手だった。和歌山ラーメンと一緒に食べるなれ寿司と、回転寿司屋のサーモンと、たまご寿司とコーン軍艦だけは好きだった。

 基本的に、魚が苦手だったんだ。焼き魚も食べなかった。焼き魚は嫌いというよりも、面倒くさくて食べなかっただけだが。何が面倒って、骨。今も面倒だなあと思いながらも「うめえ」と食べている。

 生魚に関しては、どうしても生臭さを感じて苦手だった。スーパーのパック寿司と回転寿司しか食べたことがなかったというのも、あるんだろう。新鮮なネタを食べれば少しは印象が違ったかもしれない。

 なれ寿司は酸味のおかげで生臭さが薄れているうえに、和歌山ラーメンとの食べ合わせがあまりにも美味すぎて好きだったのだと思う。


 高校生の頃も、まだそんな好き嫌いの激しい人間で、所属していた演劇部のメンバーで回転寿司屋に行くと、たまごとコーンばかり食べていた。その二つが流れてくると、誰かが取ってくれる。

 本当はサーモンも食えるのに、そればかり食べることになった。それでも、いくら食べても飽きないから食べ続けたわけだ。


 そんな僕も、今ではどのようなネタも好むようになった。


 回転寿司に入ると、いつも最初に頼むのは、ハマチまたはブリである。光り物から食べるのが通だという話があるが、そんなことは知ったことか。僕はハマチかブリを最初に食べたいんだ。

 この二つは、鮮度によって味も食感も大きく異なる。新鮮はブリは歯切れがよく、脂身がくどくない。脂がのっているのに、意外とさっぱりと食べられる。

 ハマチも脂身がしっかりとあるが、食べやすい。鮮度が低くなると、少しくどく感じることもあるから、この二つでその店のネタの鮮度をはかっている。

 いや、これは後付の理由だ。


 単に、ハマチとブリが好きなだけだ。ブリは寒くなってくると店に並ぶようになるし、限定メニューと称して産地を指定したメニューが追加されることもある。

 この季節限定感もたまらない。限定という言葉に、僕は弱い。


 2024年11月27日。前日にパソコンの前で寝落ちして、午前6時に起きた。本当は10時頃に起きて12時頃に出かけようとしていたのだけれど、前倒しで10時前に家を出た。

 向かった先は、兵庫神戸三ノ宮。


 高速バスに揺られて約1時間、半端な都会こと三宮駅前バスターミナルに到着。兵庫県民は神戸で遊ばないという言葉にある通り、実に数年ぶりの訪問だった。兵庫県民オフ会が開かれると、開催地は必ずと言ってよいほど大阪梅田になる。

 三宮は各地からのアクセスが、絶妙によくない。


 目的は中古PCソフト探しだ。


 ある程度区切りがつき、昼飯を探す段になった。カレー、カレー、ステーキ、ラーメン、そば、中華に洋食にパスタにさまざまな店が並ぶサンプラザ地下。

 迷って何周もした挙げ句、少し高い回転寿司屋に入った。100円皿というのが、コーン軍艦ぐらいしかなく、どんなネタも200円以上はする。

 今日のおすすめネタということで、ブリトロを頼んだ。脂身がしっかりと乗った歯切れのいいブリに、口の中が幸せになる。この店は当たりだ。鮮度がいい。

 ほかにも、本日のおすすめをひとしきり頼んでから、えんがわやマグロなどの定番ネタを頼む。炙りなんかもいっちゃったりして、香ばしさに心を踊らせながら、店の定番らしい手焼きたまごを注文した。

 たまごは寿司屋の試金石というのは、誰が言い始めたのだろうか。


 たまごが試金石というのなら、その店は極上の部類だろう。それくらいに、うまいたまごだった。面白いのが、下にシャリを敷き詰めるオプションがあったことだ。

 無料オプションだったため頼んだが、これがシャリに実に合う。熱々の甘くプルプルとした卵焼きと、酢がしっかりきいたさっぱりとしたシャリ。

 これだけを食べ続けていたいと思うほど、よく出来たたまごだった。


 やはり、僕は回転寿司屋ではたまごが好きらしい。

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飯!メシ!めし! 鴻上ヒロ @asamesikaijumedamayaki

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