額に浮かぶ十字架は――
よし ひろし
額に浮かぶ十字架は――
深宇宙探査船ビーグル
人類の入植が可能か、それが今回の調査の最大の目的だ。
白鳥座宙域にある赤色矮星グリーンノアを巡る三番目の惑星であるこの星は、銀河に多く放たれた無人探査船の一隻が発見した人類移住の可能性が高いと判断された惑星の一つだった。
調査隊の乗組員は六人。まずは衛星軌道上で地表の調査をした後、無人機を投下、ベースキャンプの設置とより詳しい環境調査を行った。そして、昨日、乗組員のうち四人が、地表に降り立った。
初日は先に設置したベースキャンプの点検と整備に費やし、本格的な調査は今日から始めるはずだった。
ところが――
「ジャック、どうした。しっかりしろ!」
地表に降りた乗組員の一人が、朝、起きてこなかった。簡易ベッドに横たわったまま仲間の呼び声に全く反応しない。
「エリナ、診てくれ、早く!」
隊のリーダーであるケインが。医師であるエリナを急かした。
エリナがすぐに医療マシーンでジャックの診察をした。結果はすぐに出る。
「寝ているだけだわ。深く、物凄く深くね」
「寝ている? 起こせないのか?」
「原因を特定しないと、下手な薬は使えないわ」
「原因か――。ん? エリナ、ジャックの額のこの痣は何だ?」
「十字架状のこれね……。傷ではないわね。寝ている間に何かが触れたのかしら?」
周囲を見回すが十字架の痣ができるような原因になるものはない。
「これが昏睡の原因ってことは――」
ケインが呟いた時。
ガタッ!
大きな音が他の部屋から響いた。ケインとエリナが音の元に走ると、もう一人の隊員ジェニーが、通信機の前で倒れていた。彼女は異変が起きたことを軌道上の母船に伝えるためにここに来ていたのだが――
「ジェニー、どうした!」
ケインが駆け寄り抱え上げると、彼女もまたジャックと同様に昏睡していた。
「うっ、彼女にも十字架が――」
ジェニーの額に浮かぶ十字の痣を目にして、ケインは呻いた。
「ケイン、ジェニーもベッドに運んで。診察するわ」
この呼びかけに、ケインはジェニーを抱え上げ、ジャックのいる部屋へと運んだ。
「どうだ、エリナ。ジェニーの様子は?」
「ジャックと同じね。ただ寝ているだけ。一体何が起こって――」
そこで突然エリナの動きが止まった。そして、体がビクリと大きく震える。
「どうした、エリナ?」
「うっ、ダメ……、これは――。記憶が――、盗まれる……」
呻きながら、エリナが頭を押さえる。
「エリナ!」
ケインが叫び、肩を抱くと、その目前で彼女の額に、例の十字架の痣が浮かび上がってきた。
「またこれかぁ! くそ、何なんだ、額の十字架は!?」
「ケイン、逃げて…。この星は――」
そこまで言ったところで、エレナの意識が途絶えた。
「エリナ、エリナ、エリナぁーっ!」
大声で呼びかけるが、他の二人同様にエリナからの反応はなかった。
「なんなんだ。何が起こっているんだぁ!」
ケインはエリナの体を抱いたまま、目に見ええぬ敵が迫っているような気がして辺りを見回した。
その時――
「うぐっ!」
額に小さな違和感を感じ、ケインは顔をしかめた。刹那、脳を掻きまわされるような異様な感覚を覚え、床に倒れ込んだ。抱えていたエリナの体も床へと転がる。
「あ、ああぁ……。これは――、コネクトされた? 誰だ、強引に繋がるのは――」
何モノかと意識が繋がるのをケインは感じた。と同時に、自分の記憶が相手へと吸い出されていくのがわかる。
「そうか、額に目に見えぬコネクタを――、お前は、誰だ!」
抗うケイン。その一瞬、相手の意識が自分へと流れ込んできた。
「なっ――!? お前は――この
ケインが感じたのは、今降り立っているグーリンノアⅢの意識だった。そう、この星は生きていた。
「バカな…、このことを、上の隊員に知らせないと――」
気力を振り絞るケイン。立ち上がり、通信機の前までやってくる。そして、スイッチを入れるが――そこで、力尽きた。
『こちらビーグルⅦ。何かあったのか? ケイン? ジャック? ジェニー? エリナ? おい、どうした。聞こえないのか。――おい、ショウ、どうやら下で何かあったらしい。俺たちも下りてみよう。ああ、しっかりと武装してな。よし、一時間後だな。――聞こえるか、今行く、待っていろ』
その声を、ケインは眠りに落ちていく中で微かに聴いた。
「ダメだ、来るなぁ…、逃げるんだぁ……、この
警告しようとしたが、その声はあまりにも小さく、通信機の向こうには届かなかった……
END
額に浮かぶ十字架は―― よし ひろし @dai_dai_kichi
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