第3話、バナナ
俺はフラフラとした足取りで泉に戻ってきた。
水を飲むと頭がはっきりとし、絶望感が少し癒えた気がした。砂地に腰を下ろして、これからどうしようかと考える。
状況を整理しよう。
ここがどこなのかはわからないが無人島のような場所に来てしまった。おそらくワームホール的なものを通って別の場所に移動したのだろう。
正直夢を見ているような気分だが、そうではないらしい。オカルト的な体験にはあこがれを持っていたが、実際に自分の身に起こってしまうとは思わなかった。
ここから出られるのだろうか。近くを船が通ってくれたらいいが、当面の間はここで生活することになるだろう。
食べ物を探さなくてはいけない。川には魚はいないようだ。そもそも魚を捕ったことがないから簡単に捕れるとは思えないが、捕ったとしても火を起こさないと食べられない。
飲み水を確保できたのは奇跡のようだ。この泉がなければ海水を蒸留しなければならなかったが、やはり火が起こせないとできない。
火がなくても食べられるのは木の実くらいか。果物のようなものがあればいいが。サバイバルの知識がない人間がサバイバルをすることになるとは。
とりあえず、ここを拠点にして森の中を探索してみよう。
***
闇雲に森の中に入っても迷ってしまうだろう。石と石を打ち付けてとがった石のナイフのようなものを作り。それで木に傷をつけて目印としながら森の中を歩くことにした。
とはいえ森の地面のほとんどは砂地なので、足跡が残るようだが、雨が降ったら消えてしまうかもしれない。
食べられそうな木の実がないか木々を見ながら進んでいく。小さな木の実はあるようだが、食べられるのか?、これ。あまり食べたいとは思えない見た目だ。一応いくつか採取しておく。
動物が食べていれば食べられるのかもしれないが、今のところ動物を見かけない。島なので海を渡れない動物がいないのは別におかしくはないが、虫や鳥の姿も鳴き声もない。
太陽高度は低いままのようで、木の幹の間から光が差してくる。このまま日は高くならないのかもしれない。であると、ここは極地に近い場所なのか?
生えている植物の見た目から、勝手に南の島のような場所を想定していたがそうではないらしい。
ちなみに今は日本は夏だが、夏の暑さは感じない、日本の近くではないのは間違いないだろう。気温は快適で、寒さも暑さも感じないのは助かる。
そのようなことを考えながら、しばらく進んでいると、開けた場所に出た。ここには他の場所と違い低木が生えているようだ。
低木の中をよく見てみると、黄緑色の細長い果実のようなものが生っているのが見えた。
なんというか見た目はバナナに似ている。異なるのはバナナが一本ずつ離れて生っていることだろう。本物のバナナは一か所に何本も密集して生っているはずだ。
俺はこのバナナというかバナナモドキを食べてみることにした。今まで探してきた中で食べられそうだと思ったのはこれだけだ。食べられるかどうかはもちろんわからないが、何かを食べなければ死んでしまう。
俺はバナナモドキの皮をむいた。おお、これはなんというか想像以上にバナナだ。普通にバナナのように皮がむけて、中からバナナ色のバナナが出てきた。ただ、本物のバナナと比べると、少しやわらかいような気がする。
匂いもバナナっぽくて食欲をそそられる。
空腹の俺は、意を決して食べてみることにした。すると、ぐにゅっとした食感とともに口の中にドロドロとした果汁が広がった。
「なんやこれ」
バナナじゃない。バナナはこんなにドロドロしていない。何というか、トマトっぽさがある。だが酸味はなく、味はほとんどバナナだ。これはこれで悪くはない。俺はさらに追加で2本食べた。
バナナの中には種が入っていた。形はトマトの種に似ているが、サイズはスイカの種くらいで大きめだ。
他にも食べられそうな果実がないか、木々のなかを探したが、バナナ以外は見つからなかった。
俺はバナナを3本もぎ取って泉に帰った。
***
まだ夜ではないが、深夜に謎の音で目覚めてから寝ていないので、眠いので寝ることにした。砂の地面は意外と寝心地がよく、すぐに眠ってしまった。
起きると空が夕焼け色になっていた。どのくらい寝ていたのか、今が何時なのか全くわからない。夕焼けじゃなくて朝焼けなのかもしれない。
出かけるときは携帯電話を携帯しないタイプの人間なので携帯電話をもっておらず時刻の確認ができない。携帯があったら電波がつながって助けを呼べただろうか?
顔を洗ってそのまましばらく起きていると空が暗くなってきた。
夕方だったようだ。
お腹が空いていたので、持って帰ってきたバナナを全部食べた。
日が落ちて、暗くなってきたが空に星は見えず、月も見えない。というか、いつまでたっても空は完全に暗くならずに、薄暗い青色をしていた。
俺は早朝の、日の出前の青い色が好きなので、ずっとこのままでいいと思った。
やることがなくて暇だ。もう寝る時間かもしれない。
俺は寝る前にいつも「脳内妹の妄想」をするのが日課になっている。彼女いない歴年齢の寂しい大学生には、脳内妹くらいしか癒しがないのだ。
こんな状況だが、今日も妹をちゅっちゅぺろぺろしようかな。
脳内妹と異世界の無人島でスローライフ 架空の世界を旅する物語 @kakunotabibito
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