第2話、誰もいない島

 謎の青いトンネルを抜けた先は、森の中だった。


 いつの間にか明け方になったのか、森の中は朝の薄暗い青色光に満たされていた。

 空は曇り空ではなくなっていた。先ほど見えていた謎の白い発光体は空には見えないようだ。そして謎の音も、もう聞こえない。とても静かな森の中だ。


 あたりを見渡す。周囲の木々の植生は南国に生えているもののように見えた。地面は草があまり生えていない砂浜の砂のようで、空気は海のにおいがした。


 ここはどこなんだろうか?

 俺が住んでいる場所も山中の森の中ではあるが、こんな場所は知らない。

 不安だった。早く家に帰りたい。俺はここから移動することにした。


 道のようなものはないが、木々の間隔はそれなりに開いていて、移動の邪魔にはならなそうだ。そして砂地の地面は歩きやすい。とりあえず真っすぐ歩いて行こう。


 不思議だったのは、森の中がとても静かなことだった。動物の気配がない。鳥や虫の声も何も聞こえない。ただ俺が砂を踏みしめる音だけが響いている。


 しばらく歩いていると木々の終わりが見えてきた。木々の間から水面と空が見え、海のにおいが強くなる。森から抜けて海岸に出た。


 正直言って驚いている。俺が住んでいた場所は海に近くはないからだ。謎の光に吸い込まれ、青いトンネルを抜けたら、海の近くにワープした。こんなことってあるのか?


 朝の暗い青色に満たされた海岸は神秘的だが少し怖かった。


 見渡す限り、広い海と海岸線が続いていた。道路や家はなく、人工物は何も見えない。とりあえず海岸沿いに進むしかないだろう。


 地平線が徐々に赤く染まり朝日が出てきた。

 何もない誰もいない場所で、自然の色彩の美しさを俺だけが感じていた。


 海岸沿いをしばらく歩いていると、小さい川にたどり着いた。人工的でない自然なままの川だと思った。これだけ歩いて、なぜ人工物が何も出てこないのか。狭い日本の中でこれだけ手付かずの海岸だけの場所なんてあるのか?


 川の中を覗いてみても、やはり生き物の気配は無かった。

 今度は川の上流に進んでみるか。



 ***



 上流に進むと、すぐに水が湧き出る泉にたどり着いた。

 水がとてもきれいで澄んでいて、のどが渇いていたので飲みたくなった。


 ゴクゴク


「うまい…」


 こんなにうまい水がこの世に存在するのか。深夜から歩き続けて疲れ果てた体も、すごく元気になった気がする。まだまだ歩ける。


 森の中は迷ってしまうので、下流に戻って川の向こうの海岸沿いをさらに進むことにした。

 まだ空は朝日で赤く染まったままだ。時間がかなりゆっくりと流れている気がする。


 また何もない海岸沿いを進んでいると。高い崖で海岸が断絶し進めなくなった。仕方がないので、来た道を戻り、海岸の反対方向に進む。さきほどの川を越えてさらに海岸沿いを進んだ。


 すると、また高い崖にたどり着いた。俺は落胆した。迷わずに簡単に歩ける場所はすべて見てきたということだ。だが人の気配はなく、人工物も何も見つからなかった。


 しかし、崖を登れば周囲が見渡せるかもしれない。崖は険しくて登れそうにないが、森のほうが斜面になっていて木やツタを頼りに登っていくことは可能だ。

 俺は崖の上に行くことにした。



 ***



 正直危ないところもあったがなんとか上がれた。崖の上は開けていて周囲を見渡すことが可能だった。そして俺は絶句した。自分にはどうすることもできない現実を目の当たりにしたのだ。


 ここはどうやら、どこかの島らしい。


 かなり大きい島のようだ(実際にどれくらいの広さなのかはわからないが)。そして、島内を見渡してもほとんどが森におおわれていて人工物は何も見えない。中央付近に岩山がある。見渡してわかるのはそれくらいだ。


 まさか無人島なのか?


 そして俺をさらに絶望的にさせる事実は、海を見渡しても他の島や陸地が見えないことだ。絶海の孤島、そんなワードが合っていた。


 まるで意味が分からなかった。なんで俺はこんなところにいるのだろう。さっきまで大学の近くの田舎町にいたんだ。夏休み、実家に帰らずに一人でダラダラ過ごしていた。

 記憶がなくなっているだけで実は旅行にでも来ているのだろうか。なんでこんな何もない島に、一人で?


 日が少し上って空が青く明るくなってきた。しかし朝の時間がすごく長く太陽高度が全然あがっていない気がする。


 俺はこれからどうすればいいんだ?

 海を眺め船を探したが、地平線まで平らな水面が続いているだけだった。

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