第3話



 とにかくも王宮に参上しなくてはならない、と両親に言われました。私と両親は一番いい衣装を身に纏い、指定された日に王宮へ行きました。


 すぐに宮殿内へ導かれ、私はさらに別室へ案内されました。

 どうして私だけ別室なのでしょう。

 どうやら王子の私室のようですが、どうして……。


 一人で不安になっているところへ、王子が現れました。

 慌ててお辞儀をすると、王子は鷹揚に頷きました。


「今回は求婚に応じてくれてうれしく思う」

 まだ返事してないのに、と内心焦ります。


「来たということは承諾したということだろう?」

「そのことですが、殿下……」

「それ以外は認めないよ、聖女さま」


 殿下はいたずらっぽく笑いました。きゅんとなる笑顔でしたが、今はそれどころではありません。


 ふざけんなボケ、と言いたくなるのを必死にこらえます。こっちの意志を無視してんじゃねえよ。


「殿下、誤解なのです」

 おそろそおる、口にしました。


「誤解とは?」

「知らない間に噂が出てしまって、その、なんというか、私は聖女ではないのです」


 怒られる、と覚悟して私は言いました。お叱りで済めば良いのですが、私が聖女を騙った詐欺師だと思われるかもしれません。ですが、このまま結婚に至れば事態は悪化します。知らず、体が震えました。


 勇気を出して告白した答えは、意外なものでした。


「知ってるよ」

「はっ!?」

 はしたなくも声が出てしまいました。


「知って……ご存知、とは……?」

「聖女の噂、僕がまいたから」

 にこやかに殿下が言いました。私は目が点になりました。


「一目見たときから君と結婚しようと思っていた。覚えてないようだけど、だいぶ前に君と会ってるんだよ。だけど君は男爵、地位が低いから普通は結婚できない。だからちょっと細工したんだ」


「細工って……」

 どういうことでしょう。心臓がバクバクして、頭がクラクラします。


「過去、聖女は出生の身分とは関係なく王族と結婚している前例がある」

 唖然としてしまって、言葉が出ません。


「だから魔法で君を聖女に見せかけた。君が歩いたあとに花を咲かせたり、香水を撒いたり、歌っていると鳥が飛んで行くようにしたり」


 そんな小細工を!? っていうか、それもうストーカーじゃん!


「治療を希望する人には聖女からと言って薬や湿布薬を渡した。引きこもりのときは大変だったなあ。女優を雇ってあれこれしたんだ」


 王子って意外に暇なの? って、そうじゃなくて!


「ダンスをしたときもね、魔法で光を漂わせて効果的にしておいた。みんなびっくりしてたね」


 クスクスと殿下が笑います。

 私はただただ呆然としました。


「僕がどんなに君を愛しているか、わかってくれた?」

 もはやなんと言っていいのかわかリません。


「わかってくれたみたいだね」

 沈黙をいいように解釈し、殿下はにこにこしています。


 私が固まっていると殿下がそっと近づき、低くささやきました。

「聖女じゃないってバレたらどうなるか、わかっているね?」

「ひっ」

 私はびくっとしました。


 脅迫じゃねえかああああ!


 叫べたらどんなに楽でしょう。


 もし真実を告発したとして、王太子と男爵の娘、どちらを信じるでしょうか。


 結果、私が偽聖女として罰せられるだけです。その場合、家族まで巻き添えになるかもしれません。


「わかったら、素直に僕と結婚してね」

「は、はい……」

 私に断るという選択肢は消えました。


「よく顔を見せて。ああ、髪も瞳も、亡くなったママに本当によく似ている」

 王子が私の両頬を愛おしそうに包みました。


「重度のマザコンストーカー!!」


 我慢できずに、とうとう叫んでしまいました。





 後日、私は正式に聖女に認定され、王子と結婚しました。

 私は最後まで逃げることができなかったのでした。




〜 終 〜


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偽聖女ですが王太子様と結婚することになりました! またたびやま銀猫 @matatabiyama-ginneko

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