第2話




 悩む日々が続いたある日、舞踏会へのお誘いが来ました。


 私は欠席しようとしました。

 噂のせいで、私は外出を避けるようになりました。下手に外に出ると、聖女さま、と囲まれます。舞踏会でも囲まれるのは嫌です。


 しかし、両親は勝手に出席の返事をしてしまいました。親同士のつきあいもありますし、何より私の気分転換をさせたかったようです。


 私はしぶしぶ出席いたしました。




 久しぶりの舞踏会は華やかで、私は思いがけずときめきました。

 貴族同士であるせいか、聖女さま、と囲まれることもありませんでした。


 ホッとして、友人との会話を楽しみました。

 友達はふと真顔になり、私にききました。


「あなたは本当に聖女ではないのですか?」

「違いますわ。噂については本当に困っておりますの」


 ため息をついて伏し目がちに困っているアピールをします。こうして印象を作っておかなくてはなりません。偽聖女として検挙されたくありませんから。


「ほんっと、犯人見つけたらギッタギタにしてやる」

「ビ、ビオレッタ、口調が……」


「あら嫌ですわ、私としたことが」

 ほほほ、と笑ってごまかしましたが、友人の顔がひきつっています。


 なぜ私がこんな苦労をしなくてはならないのでしょうか。

 誰が原因なのでしょうか。

 本当に何かの力があるなら、真っ先にそいつを……。


 そんなことを思っているときでした。


「お嬢様、踊っていただけますか?」

 見たことのない金髪イケメンに声をかけられました。身なりからして格上の貴族です。


「え……」

 戸惑ううちに手を引かれ、自然な流れでフロアへと導かれました。断る暇などありませんでした。


 男性のリードで踊ります。

 なんということでしょう。

 今までにないくらい体が軽く、ふわふわと踊れました。まるで足に羽が生えたみたいで、夢見心地で一曲を終えました。


「ありがとうございます」

 と男性にお礼を言われ、

「どういたしまして」

 と答えました。


 お礼を言いたいのはこちらのほうです。久方ぶりに楽しいひとときでした。

 去っていく後ろ姿に見とれていると、周囲の方から声をかけられました。


「さすが聖女さま、踊っているときに光り輝いていらして」

「え?」

 輝いているとは、どういうことでしょう。


「まるで二人のダンスに神が祝福を与えているようでした」

 とろけるようにうっとりと言う人もいます。


「言い過ぎですわ」

「みんな見てましたわよ」

 初対面の令嬢が言いました。


 友人がさらに驚くことを言いました。

「あの方、王太子殿下ですわよね。お忍びかしら」

「本当に!?」


 私は王太子殿下の顔を知りません。しがない男爵の娘ごときではお会いする機会がないからです。


「蜂密のような金の髪、アザーブルーの瞳。絶対そうですわ」

 アザーブルーとは空のような青色のことです。素直に空色と言えばいいものを、なぜか無駄にかっこつけるのが貴族というものでごさいます。


「噂の聖女さまに会いにいらしたのかしら」

 含み笑いをしながら友人は私を見ました。


「私は聖女ではありません」

「求婚されるかもしれませんわ」


「ありえませんわ」

 と私は答えたのですが。


 後日、本当に殿下から求婚が来ました。奇跡の聖女を妻に迎えたい、と。


 自分には断じて奇跡の力などありません。何もしていません。

 なのに聖女と呼ばれ、殿下に結婚を申し込まれるなんて!


 両親は大喜びでした。

 私には恐怖でしかありませんでした。

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