偽聖女ですが王太子様と結婚することになりました!
またたびやま銀猫
第1話
私はビオレッタ。しがない男爵の娘です。
外見はこの国ではよくある金髪碧眼です。国王も亡くなった王妃様も、一粒種の王太子殿下もそうです。もちろん私の両親も親戚も友達も、色合いは違えど金髪碧眼です。
みな、金髪の具合がどれほど王族に近いのかを競っています。我が家は王妃の一族に近い色合いらしく、母が自慢していました。
ハードモードの間違い探しかよ。あほらし。
あ、失礼いたしました。
たまにこうなってしまうのです。
どうやら私は異世界転生なるものをしたらしく、若干ですが前世の知識や言葉が断片的に頭に残っています。そのせいか、ときおり言葉遣いが乱れてしまうのです。
転生したからといって何かできるわけではありません。この世界には魔法があり、王族や大貴族の中には使える人もいますが、私は違います。なので大人しく生きています。
何かの世界の悪役令嬢に転生ではなかったのでホッとしております。ヒロインだと、なんやかんや苦難が待ち受けております。そんなことは御免こうむりたく思います。
このまま平凡な令嬢として生きて行こうと思っております。
なのに、最近なぜか私が「聖女」であるとの噂が流れ始めて困っています。魔法すら使えないのに、どうしてそんな噂が流れたのでしょう。
噂なんてすぐ消えるものと思っていましたが、なかなか消えません。
聞いたところによると、私が歩いたあとには花が咲き、良い香りが漂い、私が歌うと鳥が集まるらしいです。
確かに以前、そのようなことが起きました。ですが、偶然だと思います。咲いた花は一輪だけです。香りは香水でしょう。鳥にいたっては、鳥のいるところで歌ったにすぎません。
このままでは聖女を
知り合いに聞かれた際には「誤解ですわ」と否定しました。ですが、見知らぬ他人には説明のしようもございません。もはや憤りを通り越して恐怖を感じております。
最近では助けを求める人が屋敷まで来る始末です。
「聖女さま、奇跡を! 娘が病気なのです!」
幼子を連れた母親を見ると心が痛みました。ですが、私には何もできません。
「聖女さま、うちのおばあちゃんが腰痛で困ってて……」
ですから、私には何もできないのです。
「聖女さま、奇跡を! 息子が引きこもって家から出てこないのです!」
だから、私には何もできないっつってんだろ! 知るか!
……失礼いたしました。つい、前世の口調が出てしまいました。
最初は「変な噂」と笑っていた家族も、最近は深刻な顔で「どうしよう」と悩んでいます。
憂鬱になっていると、不思議なことが起きました。
「聖女さま、ありがとうございました! いただいた薬が効いて娘の病気が治りました!」
「聖女さま、ありがとうございます! お渡しくださった湿布がよく効いておばあちゃんの腰が良くなりました!」
「聖女さま、ありがとうございました、息子が恋をしたとかで、部屋を出て働くようになりました!」
私は何もしていないのにお礼を言われるのです。家族に確認しても誰も何もしていないと言います。
ますます不気味です。聖女の噂は加速してしまいました。
「本当のことを教えて。あなたが聖女なのではないの?」
家族にまで疑われました。
「違います」
母に聞かれ、父に聞かれ、兄弟にも聞かれ、そのたびに否定しました。
あんまり聞かれるので
「だから違うって言ってんだろ!」
と怒鳴ったら
「はしたない!」
と母に怒られました。
だったら何度も言わないで頂きたいのです。
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