第4話



 私にはわからない。



 それが私の妄想なのか、現実なのか。



 かおりちゃんが父親から性的な虐待を受けていたと、母が近所の人たちとの井戸端会議でヒソヒソと話してた事や。

 鳥居家が燃えたあの火事が、実は放火だったという噂。



 そんな事を聞いたような気がするのは気のせいなのかもしれないし、もしかして夢だったのかもしれない。



 当時の私はあまりにも幼すぎて、意味がわからなかっただけなのかもしれない。



 あの日――亡くなった院長の葬儀の日――偶然見かけた鳥居3姉妹。



 久々に見たかおりちゃんのお姉さんと妹は、驚くほどかおりちゃんとそっくりに成長していた。

 まるで3つ子なのかと思うほどに。



 葬儀に訪れた人たちに向かって深々と頭を下げる喪服を着た3妹は、寒気がするほど美しかった。



 不吉な香りを漂わせてるからこそ、美しかった。



 時折――自分たちの周りに人がいなくなると、3人でコソコソと顔を寄せ合い……そしてクスクスと笑うからこそ美しかった。



 美しくて、そして恐ろしかった。



 院長の死がとっても不自然なもので、だから警察が動いてると知ってるからこそ、三姉妹の微笑にはゾッとした。



 だけど、私は知っている。



 きっと3姉妹の罪は問われる事がない、と。



 今までと同じように。



 これまでと同じように。



 発端は、小学4年生の時だった。



 かおりちゃんが変質者に襲われた時から、私たちは遠くなった。



 今になって思えば、その時から私はかおりちゃんに“女”を感じていたのかもしれない。



 近所に住んでる、ただの同級生。

 自分と同い年の、ただ幼いだけだったはずの同級生。



 そんな彼女が“女”であった事に衝撃を受けたのかもしれない。

 自分よりも早く“女”へと成長してしまったかおりちゃんに、脅威と……嫉妬を覚えてたのかもしれない。



 そしてそれは大人たち――母を含めた女性たちにも同じだったんじゃないだろうか。



 子供でありながら、大人の男を惑わせる魅力を持ったかおりちゃん……いや鳥居3姉妹に、少なからず恐怖を感じてたんじゃないだろうか。



 いや。

 むしろ、妬んでたんじゃないだろうか。



 美しすぎるかおりちゃんを。

 そっくりな3姉妹を。



 これからもきっと、不可解な死に微笑みながら生きていくだろう三姉妹を――……



 もう2度と、かおりちゃんが嫁いだあの病院に行く事はないだろうと思う。



 だけど、もし聞く機会があれば。

 自分にそんな勇気があるなら。



 1度は聞いてみたいと思う。



 お父さんは相変わらず夜になると“やって来る”のか?と。



 そして“やって来る”のは、お父さんだけなのか?と。



 そしてかおりちゃんはきっと。



 あの時と同じように。



「え、何でそんな事聞くの?」と。



 聖女のような微笑を浮かべて、そう答えるに違いない。





                鳥居家のかおりちゃん

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鳥居家のかおりちゃん ひなの。 @hinanomaru

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