第3話
中学3年になり、クラスの離れたかおりちゃんと私は再び疎遠となった。
2度と話す事がないまま中学を卒業した。
かおりちゃんがどこの高校へ進学したのかはわからない。
成績優秀だったかおりちゃんだから、きっとこの辺りでは有名な超進学校へと進んだんだろうと思う。
もちろん私がそんな高校を受験するはずはなく、受けたとしても受かるはずもなく。
今度こそ会う事なんてないと思ってた。
もう2度と関わる事はないと思ってた。
だけど、高校2年のある日。
私はまた、かおりちゃんと再々会を果たす事になる。
でもそれは「実物のかおりちゃん」ではなかった。
駅に貼られたポスターに写るかおりちゃんだった。
多分、フォトコンテストだか何だかのポスターだったと思う。
優勝者の写真がポスターになったものだった。
その写真の被写体がかおりちゃんだったのだ。
浴衣を着て花に囲まれた中で微笑むかおりちゃんは、相変わらず清楚で控えめで、そして美しかった。
微笑ももちろんあの頃と同じで、きっちり結ばれた三つ編みまでが、あの頃と同じだった。
優勝するくらいだから――ポスターにまでなるほどだから、かおりちゃんの美しさは本物なんだろう、と思う反面。
そんな風に誰もの目を欺くかおりちゃんに、やっぱりゾッとした。
だって、その聖女のような微笑が本物であればあるほどそういう事だ。
かおりちゃんは、死を前にしても笑ってしまえる子なのだ。
むしろかおりちゃん自身――いや、あの3姉妹――こそが、その死を招いてるのかもしれないのに。
証拠があるワケじゃないし、ただの私の妄想かもしれない。
だけどもう、かおりちゃんとは関わりたくない。
毎日利用する駅だけに、そのポスターは毎日目に入ったけど、やがて駅からかおりちゃんの微笑は消え、それと同時に私は今度こそかおりちゃんを忘れて行った。
そして高校を卒業すると同時に結婚し、地元を遠く離れる事になった。
すぐに妊娠も発覚し、慌しく毎日が過ぎて行った。
出産・育児と忙しい日々を送っていた。
いつしかママ友と呼ばれる友人も出来、ちょくちょく昼間に集まっては育児のストレスや夫の愚痴を語り合った。
生まれた時からこの地に住んでるというママ友からは色んな情報を教えて貰った。
どこのスーパーが安くて新鮮なのか。
近所の個人病院は評判が悪いとか。
小児科ならどこが評判なのか。
美容院ならここが良いとか。
忙しくも楽しい毎日を送り、あっという間に数年が過ぎた。
数年の間に何度か里帰りする事もあったけど、かつての友人たちと改めて顔を合わせる事もなかった。
そして、結婚して5年を迎えようとする頃。
やっと温かくなって来た春先。
体調を崩した私は、子供を夜勤明けの夫に預け、病院を訪れる事になった。
疲れてる夫に、あまり長時間やんちゃ盛りの息子を見て貰うのは申し訳ない。
という事で、私が向かったのは近所にある個人病院だった。
ママ友の話では評判が悪いという話だったけど、この際そんな事は言ってられなかった。
遠くの病院に足を向ける体力も気力もなかったし、そもそも病院は近所のそこしか知らなかった。
決して大きいとも綺麗とも言えない外観のその病院は、診察待ちの患者さんも2人ほどいるだけで、全然待たされる事なく私は診察を受ける事が出来た。
気の良さそうな笑顔の男の医者には、ただの風邪でしょうと言われてホッとした。
ママ友が何故、この病院の評判が悪いと言ったのかわからなかった。
数時間待たされた挙句、会計にすらまた時間が掛かるような病院より全然マシだった。
診察室を出る頃には待合室にいる患者さんは1人もいなくなっていて、会計の順番もすぐに回って来た。
名前を呼ばれ、ゴソゴソとバックの中の財布を探りながら受付へと足を向ける。
そして顔を上げた時、正面に座って私のカルテを見ていたその人も、同時に顔を上げ――
――時間が、止まったような気がした。
さすがにもう、髪型は三つ編みではなくなっていた。
だけど表情は……微笑はあの頃のままだった。
「……もしかしてアキちゃん?アキちゃんだよね?」
眩暈がした。
目の前のその人は、明らかに聖女かおりちゃんだった。
――鳥居のかおりちゃん、お医者さんと結婚したらしいよ、と。
久々に連絡を取った友人からそんな話を聞いたのは、それからちょっと後の事だった。
あそこの院長、セクハラ疑惑で有名なんだよ、と。
ママ友からあの病院の評判が悪い理由を聞いたのは、更にちょっと後の事だった。
その疑惑の院長が亡くなったと聞いたのは、それから間もなくの事だった。
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