第2話

しばらく歩いていると、木が点々と並んでいる場所へとついた。


「ここだ」


と弟が呟く。


この場所にはいろんな木が二本ずつ、対になって植っており、その数は10にも及ぶ。


楠木、紅葉、桑、小楢、銀杏、柏、桐、橅、楓、栗


それぞれがどんな味がして、どのくらいお腹が膨れるのか、母に昔教えてもらったことがあった。


けど弟は、そんな機会はなかったはずだ。


そのことに疑問を抱きながらも、僕は尋ねた。


「どこの木の下に埋めたんだい?」


弟は思い出すためにおでこを何回か叩いていたが、やがて、何かが落ちてきたかのように飛び跳ねた。


「思い出した!!あのね、すっごく臭い木の実がたくさん落ちていた場所。そこの木の下に埋めたんだ」


臭い木の実が落ちる場所…?僕は訳がわからなくなって、もう一度尋ねた。


「臭い木の実って何?木についてた葉っぱはどんな感じだったの?」


弟は、また悩む姿勢になった。けれど今度の声は、さっきのものとは違い、絞り出したような声だった。


「臭い木の実は臭い木の実だよ。葉っぱ…?うーんとね、黄色かった。綺麗だったなぁ。あの葉っぱはどこに行っちゃったんだろう?」


秋の時に見たという黄色い葉っぱはこの雪で全て落ちてしまい、見分けることは困難と思われた。


「ここかなぁ…?」


そう言って、掘り始めた場所は、『聳え立つ』という言葉が似合うとても太い木だった。


雪をかき分け、地面が見えてきたところで、僕たちは一息ついた。


「ふぅ、雪をかき分けるだけでもこんな大変なのか。これは骨が折れるな」


「もう少しだよお兄ちゃん。もう少し頑張ろう!!」


弟も疲れていることは間違いないのに、後少しと言って掘り始める。


どこからそんな力が湧いてくるのだろう?


そんな疑問を持ちながらも、弟が頑張っているのなら、兄として、弱音を吐いている暇はない。


やがて掘り続けていると、太い根っこが見え始めた。


「あれ?根っこが見えてきちゃった…」


こんな深くまで僕たちは木の実を埋めない。と言うことはこの木ではなかったと言うことだ。


「もう一度よく考えてごらん?」


弟は土で汚れた手を雪で落としながら、隣の木へと走った。


「ここかなぁ?」


今掘った木よりもはるかに雑に、雪を掘り返す。


見つからないとわかると、また隣の木へ走って行って、雪を掘り返す。


数本ほど掘り返したところで、日が暮れてしまった。


「そろそろ帰らないと冷えちゃうよ。また今度来よう」


僕は弟に声をかけ、僕らは洞穴へと帰った。


次の日、また吹雪が吹き始めた。


雪が降っている日は外には出られない。僕たちは、体を抱き合って眠った。


吹雪が止んだ頃、季節は冬から春へと変わっていた。


雪は溶け始め、辺りの地面は湿っていた。


「お兄ちゃん、僕の埋めたきのみのところに行こうよ」


僕たちは早速、弟が木の実を埋めたと思われる場所へと向かった。


冬の間は葉っぱが全て落ちてしまっていたのでわからなかったが、春になり、新芽が出てきたおかげで、弟は葉っぱの区別がつくようになったらしい。


「この木だ!!」


弟は元気よく走り出した。しかし、その木の下についてきのみを掘り返すのかと思いきや、その場で固まってしまった。


「どうしたの?」


僕は弟の元へ駆け寄ると、なぜそこを掘らないのか訳を聞いた。


「だって、ほら」


弟が足元をどけると、そこには可愛らしい双葉が見えていた。


「春になって、埋めていた木の実が芽吹いたんだね」


「お兄ちゃん。これじゃあもう食べられないね」


そういうと、弟はまだ出たばかりの芽を踏まないようにして、走り始めた。


「お兄ちゃん。おっかけっこしようよ」


木の実が食べれないとわかった途端、弟の中で、木の実のことは頭の中から消えてしまったらしい。


「わかった。じゃあお兄ちゃんが鬼だぞ〜」


走り回る二匹の狐の周りには、まだ雪が残っている。その雪と雪の間に、ポツンと地面が見えている箇所には、もう新しい芽がぽつりぽつりと、見え始めている。


この場所にびっしりと草木が生い茂るようになるのは、もう少し先のお話。

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木の実を探しに…… EVI @hi7yo8ri

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