第17話『……なるほど。確かにこれは私の出番という訳だな』
ルークの家を出た一行は、悍ましい闇が、オリヴィアの管理する教会を中心にして集まっている事に気づき、何も言わぬまま走り出した。
「やぁ」
そしてその行く手を遮る様に現れた未知の魔王ノルンにもルークは無言のまま斬りかかる。
「おっと。いきなりだね。少しは話をしてくれても良いんじゃないかい?」
「ライとかいう魔王にも言ったけど、僕はもう君たちと話をする気はないよ」
「そうか。それは残念だな」
「あぁ、だからそのまま消えてくれ!」
ルークは会話もそこそこにノルンへと斬りかかるが、ノルンは斬られる直前に姿を消しており、やや離れた所にある屋根の上で微かな笑みを浮かべ見下ろしているのだった。
「間に合って良かったよ。ディズルム」
そしてルークが地面を蹴ってノルンへと斬りかかろうとした瞬間に、天から巨大な雷が降り注ぎ、ルークの行く先を止める。
「ノルンの雑魚が弱過ぎるだけなんですけど?」
「ハハハ。それはすまないね。でも、ライがあっという間に負けてしまったのだから、仕方ないだろう?」
「確かにね。ま。ペイナのババァも役に立たないし。結局エースブ様以外じゃ私が一番ってワケ!」
ディズルムはノルンの隣に立ったまま、人差し指を立てて天に右腕を突き上げる。
まるで生きている様な雷を纏わせた暗雲を集めて、指を地面に下ろした。
どれだけ勇者たちが強かろうと、災害には勝てない。
それはルークたちに人間という限界がある以上、当然の事だった。
だから、聖女オリヴィアは、ペイナが災害の魔王が居るという話をした瞬間からある人を探していたのだ。
天候を操る魔王に対抗する為に、同じく天候を操る事が出来る人類の味方……。
いや、光の聖女アメリアの味方と連絡を取っていたのであった。
「……なるほど。確かにこれは私の出番という訳だな。オリヴィア。お前の話した通りだ」
「レーニさん!」
「オリヴィア。お前を護る事はこの世界を護る事にも繋がる。あの魔王なる存在は私が仕留めよう」
疾風の様に現れて、ルークたちの前に立った光の聖女アメリアと心を通わせたエルフ、レーニ・トゥーゼはディズルムの放った雷を容易く受け止めると、それをそのまま二体の魔王に返す。
そして転移の魔術で魔王たちの背後に跳ぶと、そのまま地面に向かって蹴り落とすのだった。
「行け!! 聖女オリヴィア。そして勇者ルーク! コイツ等は私が消す。お前たちはアメリアの護りたかった世界を護れ!」
「はい!!」
オリヴィアはレーニの言葉に大きく頷き、ルークたちと共に教会へと向かった。
暗雲が濃くなり続けている中心点に向かって。
「いったー。いきなり蹴るとか! あり得ないんですけど!!」
「いやはや困ったものだね。ボクは戦闘が得意じゃ無いんだけど」
「んな事言ってる場合!? 勇者たちを通しちゃったし! このままじゃエースブ様たちがピンチなんだよ! もっとしっかりしてよ!」
「そう言われてもね……!」
ディズルムの言葉に、ノルンは言い訳を口にしようとしたが、次の瞬間にはそれを遮る様に空気を裂いて電が走った。
当然という訳ではないが、ノルン達はそれをかわす。
が、背後に転移したレーニにノルンがゼロ距離で雷を叩き込まれてしまった。
「うっ、がっ」
「ノルン! このクソエルフ!!」
「口の利き方がなってないな。やはり礼儀も分かっていない小娘か」
「うっさいなぁ。ポンポン、ポンポン消えて、メンドクサイんですけど!?」
一瞬でトドメをさされ、灰になってゆくノルンを放置し、ディズルムは全身に雷を纏い、レーニの電撃攻撃を対策する。
しかし、レーニは器用にも風や炎、水、大地などあらゆるものを使い、ディズルムを追い詰めてゆくのだった。
手数は少しずつ減ってゆく。
そうなれば、もはや大技を出すしかディズルムに勝ち目はない。
何故なら、ディズルムは巨大すぎる力を細かく制御する事を苦手としており、ただ暴れる事しか得意では無いからだ。
だから当然。かつてオリヴィアの教会を吹き飛ばそうとした時の様に巨大な竜巻を作り出して、レーニどころか、街の建物も何もかもを巻き込んで全てを破壊しようとするのだった。
そして、ディズルムは空へと舞い上がりながら、巨大な竜巻を眼下に作り出す。
「あはははは!! これで終わりだ! エルフぅ!!」
「チッ。厄介な」
「なぁにぃ? 負け惜しみって訳!? 別に良いよ。許してあげる! ザコザコエルフの私はディズルム様に負けてしまいました。許してくださいって言ったら、許してあげるよ! キャハハハ!!」
「アメリアの護る世界に巣食う、害虫が」
「はぁー? 聞こえないんですけどぉー? あ。そっかぁー。アンタもあの女を信仰してるんだ。聖女アメリア様ってさ! キャハハハ! バッカみたい! あの女が余計な事をしなければ、エースブ様もこの世界に現れなかったし! ザコザコエルフのアンタも! さいきょーのディズルムちゃんに負けなかったのにね!! ホント、バッカみたい! キャハハハ!!」
「……」
「あー。でもぉ。しょうがないかぁ。アメリア様。アメリア様。ってみんなお祈りしてるんだもんねぇー。あんな頭空っぽのバカ女にお祈りしてるなんて、見る目が無いんだね。カワイソー。アメリア様ぁーヨワヨワな私をお救い下さいー。なんちゃって。キャハハハ!! 所詮さ。アメリア様。なんて敬われててもー。本当はなーんにも考えてないアホリアちゃんだもんねー! 世界を救うーなんて言ってさ。無駄に命を削って、人間ってバァカねぇ」
「……黙れ」
「え?」
瞬間、レーニはディズルムの前から姿を消した。
挑発し、転移で飛ぶ事を予測していたディズルムは空の上で、レーニが転移するのを待っていたのだ。
周囲に転移すれば、転移反応を見てから現れた瞬間に電で射抜いて、動きが止まった所を小型の竜巻で巻き込んで、地面に叩きつけてやると。
そう、考えていた。
しかし、現実にはレーニの転移を感知出来ず、姿を消したレーニを目で追う事も出来ていない。
ただ風の魔術を使い、暴力的な加速を以て、目の前に現れたレーニに目を見開くばかりだった。
「落ちろ」
魔術で戦うエルフにしてはあり得ない姿であるが、レーニは怒りを雷にしてそのまま拳に宿し、ディズルムの頬を捉えて地面目掛けて振り下ろした。
ディズルムの真下にある竜巻ごと打ち砕く様な勢いで、レーニは怒りと悲しみを混じらせた叫び声と共にディズルムを地面に叩き落とす。
その衝撃たるや凄まじく、ドラゴンが遥か上空から降り立った際の衝撃よりも激しく、地面を揺らす。
しかし、この程度でレーニの怒りが収まる訳がない。
地面に降り立って、もはや動く事すら出来ぬディズルムを見下ろした。
「ぅ……ぁ……」
「さぁ。立て。教育してやる。何も分かっていない小娘が」
レーニはもはや立てないディズルムを地面から引きずり出し、風の魔術で打ち出し、民家をいくつか貫通させて追撃を行う。
だが、どれだけ痛めつけても、レーニの怒りは消えず、燃え続けているのだった。
「どうした。アメリアが何だって? もう一度私に聞かせてみろ」
「ぁ、ぁぁ、エース、ブ、さま」
「……終わりだな」
レーニから逃げる様に、地面を這うディズルムに、レーニは感情を消した無表情でその背中を踏みつけると、最後に炎の魔術で周囲ごと燃やし尽くすのだった。
レーニの愛するアメリアを侮辱する相手は消滅させた。
しかし、レーニの心は晴れる事はない。
故に、次の戦場へ向けてただ飛び立つのだった。
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