エピローグ



「なぁ……儂の装備は一体何処なのだ?」


「ありません」


「は?」


「ですから、ありません」


 “もうお金は全部使っちゃいましたから”、勇者キンケツはニッコリと嗤い、あっけからんに言いました。

 

 当然、王様は絶句。 

 しかし、事実として王様の武器も着せる防具も何もありません。王様が50マネーしか渡さなかったので、勇者キンケツは今や無一文なのですから。

 

 現在、王様はパンツとシャツの下着姿でした。上着もズボンも装備に入るのではないかということで、城を出る際に没収されてしまったのです。


 哀れな“元”王様。


 そう――王様は現在、裸の王様ならぬ、下着の王様になってしまったのです。

 王子も勇者も、最初は下着すらも脱がそうと考えましたが、途中で誰がおっさんのヌードを見て喜ぶのだろう?――逆にそれは、もはや見るものを不幸にする公害では?


 と、思い直しました。

 決して情けなどではありません。


 そんなこんなで、下着だけは残されました王様。


【王様の装備】 

武器 無し

防具 無し

アイテム 無し

所持金 0マネー

 

 王様は激しく抵抗しましたが、王子にボロカスに言われ、家来も王子の方が優秀そうだったので、老害となりつつある王様を庇う者はおらず、精神をボロボロにされた上で追放されるように勇者キンケツと一緒に旅立つことになりましたとさ。


 勇者キンケツと王様との冒険がいざ始まる――――。


 




 

 

 ということも、ありませんでした。 

 

 すぐにお別れの時が来たのです。

 そうです。普通に考えて、下着姿のおじさんを門番が見逃してくれる筈がないのです。

 王様の住んでいる王都なら話が出回っていて、門番も見逃してくれました。


 しかし、変態の快進撃はそこまで。次の街までなんとか辿り着いた二人は……割烹着に打製石器の勇者キンケツもかなり危うかったですが、王様は一発アウトで門番に捕まってしまったのです。

 哀れな王様はあ~れ~、と門番にしょっぴかれて行かれてしまいました。


 さらに残念なことがありました。

 牢屋の前で勇者は門番に「釈放するにはいくら掛かりますか?」と尋ねたところ、「三万マネーになります」という、とてつもなく法外な値段を告げられたのです。

 こんな下着の王様に、そんな価値などあるのでしょうか?


「……」


 勇者キンケツは牢に入れられた王様を見つめると、ちょっとだけ考えました。

 

「儂を助けろぉ……な!な! 仲間じゃろ?儂らは!」


「………………どう考えても必要ないな(ボソッ)。

 ――王様、いつか……いつか絶対に迎えにきます! だから! それまでのお別れですッ!」


 まるで恋人に言うような、いつか迎えにくるという言葉を掛けたキンケツ。

 

 ……しかし、内心では勇者キンケツは分かっていました。これが今生の別れだと(助ける気無し)。

 キンケツは王様から背を向けて、ダッシュで走り去りました。


 こうしてパーティー大切な仲間……下着の王様を二つ目の街で失ってしまった勇者キンケツ。

 見た目は珍妙。懐具合は絶望。速攻で仲間を失うというハプニングによる悲しみまでもを背負って過酷な旅へと挑みます。


「俺達(俺と打製石器)の冒険はこれからだ!!」


 

 おしまい。


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悲報)勇者さん、ケチな王様のせいで50円で遣り繰りしなければならなくなった模様 出来立てホヤホヤの鯛焼き @20232023

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