第4話 薬草ゲット~仲間加入(所持金0)



 武器、防具を購入した勇者キンケツは、最後にアイテム――薬草を買うために、道具屋へと訪れました。


「すみません、薬草を買いに来たんですけど、まだありますか?」


 道具屋の扉を開くと、開口一番。勇者キンケツは、店の奥にいたオジサン店主に向かってそう喋り掛けました。

 天井まで届く木製の棚には、ぎっしりと並べられた様々な道具やアイテムがありましたが、キンケツは自分には縁のないものだとバッサリと割り切って、もはや値札を見ることすらしません。5マネーは、薬草が買えるかどうかすら怪しい値段なので正しい判断といえるでしょう。


「おう、いらっしゃい!

 薬草なら新鮮なのが揃ってるぞ!案内しよう!」


 キンケツは店主に案内され、店の裏口から外に出ると、そこには植木鉢が沢山あり、一つ一つに薬草が植えられていました。天然の薬草は頻繁に薬草狩りをして売られる為、まず見つからないのです。

 

 店主はドヤ顔で言いました。


「うちは取れたてを売りにしてるんだ。

 どれも毎日欠かさず水を与え続けた良い薬草だ。ほら見ろ。この薬草なんか、凄い青々としているだろう?

 さぁ――どれがいい?」


「えっと……一番安いやつってどれですかね?」 

  

「……一番安い薬草と言われてもな。そもそも、おまえさんの予算はいくらなんだい?」


「予算は……5マネー、です」

  

「5マネー? 冗談だろ? そんな金じゃうちの新鮮な薬草は一房も買えないぞ!」


「……ですよねー」


 それは分かりきった結果。勇者キンケツはその言葉に納得しつつも、帰える前にダメ元で店主に一つ尋ねました。


「……えっと、新鮮じゃない薬草なら安かったりしますか?」


「新鮮じゃない薬草? 消費期限の切れた薬草のことか? ……それはもう“薬”草とは呼べないんだが……。それなら廃棄予定だし、5マネーで売ってもいいぞ。ただ、どれほどの効能があるかは分からないし、腹を壊しても俺は知らねぇぞ?」


「……無いよりはあった方がいいので、お願いします」


「そうかい」

 

 五分後。キンケツの手には袋につめられている沢山の枯れ葉がありました。

 枯れた薬草は、手に取るとボロボロと粉のように崩れていきます。


「……これは煎じて飲めばいい感じになるのか? 飲むのは勇気が必要だな」


 キンケツはボソっと呟きました。



  

 こうして、沢山の枯れ葉――否、枯れた薬草を手に入れた勇気キンケツ!

 武器、防具、アイテム。全てが揃いました!

 これにて用意は完了!

 

 勇者キンケツは死んだ目で、「便りになるのは、お前だけだよ」と打製石器に頬ずりをしました。


 彼の精神はもう限界なのかもしれません。

 

 キンケツが買い物を実際にしてみて改めて思ったのは、そもそもこの50マネーで二人分など不可能だったということでした。

 王様は王子をねじ込む気満々だったということでしょう。


 こうして――勇者キンケツは、城へと帰還しました。

 

【勇者の装備】 

武器 打製石器

防具 お婆さんの“使い古した割烹着”

アイテム 枯れて茶色い薬草(NEW)

所持金 0マネー


 

―――――――――――――――――



 

 王城に戻った勇者キンケツの姿(打製石器に割烹着)を見た王様達はそれはそれは混乱しました。中には、笑って馬鹿にする者もおり、それに勇者キンケツが相棒(打製石器)を馬鹿にされたことにキレて、訂正を求めたり等、紆余曲折ありましたが――――。

 


「……それで仲間は誰にするのじゃ?」


 ようやく本題の仲間の件へと話を進めることが出来ました。

 

 仲間についてキンケツは決めていました。その仲間は――こんな貧乏な旅になった原因である、とある男です。

 

 そう。勇者キンケツの最初の仲間は――。


「僕が仲間にしたいのは――王様!あなたです!」


「……………は??? 今……おぬし何と言ったのじゃ??」

 

 指名されたのは、まさかの王様。城に沈黙が起こりました。予想外の指名に誰もすぐには反応出来なかったのです。

 そんな中、一人。勇者のこの指名を事前に聞かされていた為に、動じず、粛々と動いた男がいました。


「委細承知したぞ、勇者キンケツ。我が父――スティンを連れていくといい。代わりに私が後を引き継ぎ、王となろう」


 その人物こそ、王様に送り出されそうになっていた運動神経よわよわの王子です。

  

「いやいやいや、待てい!! そんなのまかり通る訳が無かろうが!! 儂は王じゃぞ!!」


「えー、騎士や兵士以外なら誰でもいいと王様が言ったではないですか」


「その通り。一度口に出したことも守れぬとは……心底失望したぞ。そもそも王子である私が、行くことになっていたのだから、王族だから行かないなんて縛りはない。せっかくの勇者の指名なのだから喜んで行くべきだ“元”国王スティン」


「き、貴様ら!!」


 

 こうなったのは――勇者キンケツのある思いから始まりました。

 即ち――お金を50マネーしかくれないし、縛りプレイを強制してくる王様マジゆるさん絶許

 

 なのでキンケツは、王様を道連れにすることにしたのです。

 キンケツは旅に乗り気では無く、王様とも仲が良くない王子と買い物の為、城を出る前に相談して、計画しました。

 

 正直、これからの事を考えると老人……ギリギリ中年の王様ではなく、ちゃんとした仲間を引き入れた方が戦力的には良かったのかもしれませんが、こんな装備も録に揃えれない地獄の貧乏旅に連れて行くなんてことを勇者キンケツの善良な心が許せませんでした。


 だからこその王様です。王様なら、キンケツは「お前が始めた物語だろ!!」と、ちっとも同情に値しません。

 意味は違いますが、旅は道連れ、ともいいますし、王様を巻き込む事でキンケツの心は満たされ、王様も自分が言い出した50マネーの旅を味わえるのです。


「先代国王スティンよ、王家の威を示してこい」


「ということで王様……あ、“元”王様。これからよろしく」


「このクソ餓鬼共がァァァ――――!?」


 王様にとっても地獄の始まりです。

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