第11話 変化を受け入れて

重苦しい部屋の前には、二人の記者が佇んでいる。いま世界中を襲っている異常現象の解説が始まる。間違いない、これを記事にできれば…

一人の男は、もう一人の男に話しながら、会場へ進んでいった


「いいか、聞きながら記事を打つんだ。ここではスピードが命運を分ける。どこよりも先に記事を出すんだ」


ひげを蓄えた男は、ノートパソコンを抱えながら少し震えている男に指示を出す。そして二人は用意されていた席へと腰を下ろす。会見開始まであと五分といったところか、今のうちに打てるところだけでも打っておこう


会場内は、まだ会見が始まっていないにもかかわらずタイピング音やメモの音が鳴りやまない。そんな様子を監視カメラから眺めている者がいた


「桜木支部長、そろそろお時間です」


「わかってますよ、ただ少しだけ緊張していただけです。思ったよりも人がいたものですから…」


黒を基調とした花柄の着物に身を包む女性は柔らかく微笑んだ。その佇まいに震えはなかった、はたから見た彼女は緊張すら感じないような強さを持つ人だという印象を受けるだろう


「さて、行きましょうか。彼らの配信も終わってしまいましたし」


「あぁあのダンジョンを配信した連中ですか?ダンジョンの詳細は我々から伝えるはずだったのに、段取りを崩す迷惑な連中です。それに…」


廊下をゆったりと歩き会場に向かう彼女の後ろを、一歩後ろでついていく男からは彼らに対する文句が止まらない。その様子をくすくすと微笑みながら眺めある程度聞いた後、突然立ち止まった


「そろそろ会場につきます。私語は謹んでください」


「あぁ、すいません。それでは探索者管理局日本支部をよろしくお願いします。桜木支部長」


「えぇ、任されました」


妖艶な雰囲気をまといながら、日本中が注目している会見の場まで歩いて行った。そして一時間ほど話した後、一礼をしてから会場を抜け、黒塗りの高級車に乗った。移動中の車の中で彼女はネットニュースを開いた



【探索者の存在、そして突如出現したダンジョンの正体とは!】

会見開始時間になった瞬間、着物に身を包んだ女性が会場に足を踏み入れた。女性はゆったりと落ち着いた足取りで、マイクの前に立った。カメラを構えるもの、録音機器を起動するものなど、会場のざわめきを無視して一言


「今から探索者管理局日本支部の会見を始めます。この会見で話す内容は全世界共通です」


そこから始まった内容は想像を絶するものだった、淡々と話す彼女の表情の裏には、凡人には読み取れない何かがあるようにも感じる

記者の独り言はこれくらいにして、会見で話された内容は以下の通りだ


突然能力を付与されたもの(以下探索者とする)は、高次元生命体(以下サポーター)が、高次元建造物(以下ダンジョン)を攻略するために授けたものである

ダンジョンとは、サポーターと同じような高次元生命体(以下クラフター)が運用している生命吸収装置であり、ここで死んだ者は、クラフターの養分となる

世界のどこかにある高次元建造物生成元(以下マスターダンジョン)を破壊しなければ、地球はダンジョンで埋め尽くされる。なお、マスターダンジョンは今も捜索中である

高次元建造物突発的暴走(以下ダンジョンブレイク)は、暴走する一時間前から兆候が表れる。ゲートが赤黒く光り始めるのが特徴


という情報だ。この情報は探索者管理局内にいる観察スキルを持ったものが特定したものであり、信頼できる情報源だとして根拠資料に挙げていた。管理局は近々、探索者のランク分けをし、ダンジョン攻略に役立てたいと語っていた。これからの管理局の動きに我々は注目していかなければならない


**/** **:** ** ***


【白野氏率いる探索者グループ誕生!?次も大型ダンジョンか】

我々は会見とは別にとある人物を取材した。千代田区を救った英雄白野拓魔氏だ。白野氏曰く、次に攻略するのは東京ドームの中心に発生したゲートを討伐しにいくそうだ。白野氏は、人命救助に自分たちの力を役立てたいと語っており、ダンジョンブレイクが発生した場合、配信内にコメントしてくれたら助けに行くと語っていた。


**/** **:**


そのほかにもさまざまな記事が上がっていた。例えば管理局がこれほどの情報を持っているのは、管理局を統率しているものはクラフターとつながっているだとか、ランク付けは差別につながるだとか。中には納得の記事もあるが、批判の記事が多い


「仕方ないですね。こんな状況ですし」


何かに怒りをぶつけないと、ストレスがたまりすぎて狂ってしまう。そしたらモンスターと変わりがない、世界全体で協力しなければならない今、悪役にでもなんでもなってやろうじゃないか。それに


「英雄枠は、彼らのほうが話題性も実力もありますし」


英雄が映っている記事を読み漁るが、車の中で文字を読んでいたせいで少しめまいがする。スマートフォンの電源を落とし、目を閉じる。瞼の裏には千代田区ダンジョンを救った英雄の顔が映っていた


「かっこよかったなぁ、白野拓魔くん…あってみたいなぁ…」


そうつぶやいた声は、車の音でかき消されていった



ライブ中継が終わってから白野たちを沈黙が包み込んでいた。ここまで来てもどこか夢のように感じていて、他人事のように考えていたのに、裏付けされた情報の数々に現実を突きつけられた感覚があったからだ


「………私、本部のほうに行ってきますね。影浦さん案内をお願いできますか?」


重友が立ち上がり影浦に話しかけた。まだ返事もしていないのに、視線は本部のほうに向けていた。

彼らが歩き出した後も、誰も話し出さず、いつまで、どこまでこんな状況が続くのだろうか…そんな自問自答を繰り返し続けていた時、白野が唐突に口を開いた


「ねぇ、次はどのダンジョンに行く?」


いつも通りの軽い口調で問いかけられるそれに、正気を疑いながら顔を見る。マスターダンジョンを見つけない限り終わらない戦いが始まる、そんな見通しが悪い未来を憂いているからだ。だがそんな考えは顔を見た瞬間に吹き飛んだ


白野の表情は笑顔だった。しかしその顔色は青を超えて白くなっていて体は震えていた。こぶしを握り締めて少しでも震えを減らそうとしているのが痛々しい。その顔色を見た瞬間、隣に座っていたスミスが立ち上がり白野に近づく


「拓魔…体調が悪化したの?あんな場所にいたし、仕方ないわね」


そういってスミスは、白野の額に手を当てた。その手は増え続ける犠牲者を想像したせいなのか、手首を握り締めても抑えきれないほど震えていた。額に当てたことでそれに気づいたスミスは、深呼吸をした後、白野の背中をさすり始めた


「ねぇ、少し休まない?日本には私たち以外の探索者だっていっぱいいるわ」


「……」


黒崎はその言葉を己の中で転がした。


俺は、俺たちはこの先の戦いでもそう簡単には死なないだろう。拓魔も灯も強いから俺が守ろうとしなくても、立ち向かえる。何も心配することはない。


だから俺は、拓魔がいるところについていく


黒崎は白野の返答をじっと待つ。ここで休む選択肢をとったとしても、次に攻略すべき場所は調べておくつもりだったのだ。覚悟はもうあの時で決めてきた。


白野の答えは


「……ごめんね」


空を見上げながら、つぶやくように謝る彼に思わず手が止まる。白野のそばに寄り添うことで収まってきた震えが戻ってきた。この震えが、わかってくれない白野に対する怒りなのか、彼が傷つくことに対しての恐怖なのかわからない。でも、心のどこかでその答えを期待していた自分がいることにも気が付いた


「そうよね、拓魔はそうじゃないと…」


白野と同じく空を見上げながら目を閉じる。瞼の裏にいるのは、病室で大丈夫だと、二人に何もなくてよかったと、笑顔で話す白野の姿だった。

たとえこの先どんな未来が待っていようとも、己が傷ついていたとしても誰かのために、手を差し伸べることができる男なのだ。この白野拓魔という男は。私は、私たちはそんな彼にたくさんのものをもらってきた

彼が覚悟を決めているのに、私が立ち止まっているままじゃ情けない


スミスは立ち上がり、こぶしを空に突き上げながら叫ぶ


「なら、とことんやりましょう!世界中の人を助けるくらいの気持ちでいなきゃ!」


「そうだね!本物の英雄になろう!僕たちでね!」


白野もつられるように立ち上がり、いまだに座ったままでいる黒崎に手を伸ばした


「剣一、次はどこに行く?」


「……そうだな~次は涼しいとこ行こうぜ。ま、先に休憩だがな」


「そうね、疲労を抜いてから、大きいダンジョンにもぐりましょ」


「よ~し!じゃあ灯を家まで送ってから解散にしようか!」


灯の家の方向へ歩きながら、周りを見渡す。さっきは戦いに夢中だったから気づかなかったけどダンジョンが出てくる前は人と車であふれかえっていたのに、今ではモンスターと人の死体だらけだ。見るだけで気分が悪くなって下を向いて通り過ぎた。回収の人たちが何とかしてくれるはず…


「この感覚は慣れたくないな」


誰にも聞こえないような小さな声でぼそりとつぶやいた


しばらく歩いて街を抜ける。ダンジョンブレイクの範囲外は、人がいないだけでいつも通りの景色だ。少し安心する、こっちのほうは住宅街だし、この辺が無事なら大丈夫だろう


少し歩くと何やら人だかりができていたが、きっとダンジョンへの不満だとかなんとかだろう。いつもだったら話を聞いたりできるんだけど、家へ向かっている安心感からか、どっと疲れが襲ってきた。やばい…めがあかな……


「拓魔、さすがに家までは耐えてよね?拓魔?返事は?…むりそうね」


「あぁ、まぁ俺が責任をもって送るさ、多分起きねぇから俺の部屋で寝かすことになるんだろうけど」


「ふふ、そうね、もう限界が来ちゃったみたい。まぁ拓魔は一人で戦ったりしてたし当然か」


「そうだな…よっと!じゃ、また明日!迎えに行くわ!」


黒崎は白野を背負ってから、スミスに小さく手を振った


「わかったわ。送ってくれてありがとう。おやすみなさい」


「お休み!」


黒崎は白野を起こさないようにゆっくり丁寧に運ぶ


「こいつを寝かしたら、軽くダンジョンについて調べておくか。どうせみんなネットに挙げてるだろ」


少し遠くに見える豪邸に向かって歩いて行った

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世界初!?ダンジョン配信はじめるよ! @hbk3i

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