第2話 前世


 まだ眠気が残る早朝。


 私は駅のホームで電車を待っていた。


 線路近くの最前線で、電車を待つ。


 ふぁ、と小さく欠伸をする。

夜遅くまでゲームをしていたせいだ。


 今日は転校初日というのに、気分は低落していた。

 

 柊 春。16歳の高校2年生。


 何をやっても、良くも悪くも平均的。

趣味はゲームとアニメ鑑賞。ミーハーな物によく釣られる。

 

 ゲームのやり過ぎで視力が落ち、丸い眼鏡を掛けている。

 髪は肩の上らへんの長さ。前髪はヘアピンで止めている。

 

 何処にでもいる普遍的なオタク。


 特技も特にないもんなぁ。

自分の平凡さに呆れる。

どうせ何者にもなれない、星の数ほどいる人間のうちの1人だ。


 自分に落胆しながら、目を覚まさせようとスマホを起動する。


 好きなゲームにログインして、電車が来るまで待つ事にした。


 液晶の奥で、可愛いキャラクターが動いている。

 制服を着ていて、とても愛らしい容姿の子。


 『光の乙女と王子さま』という名の乙女ゲーム。

 舞台は中世ヨーロッパ風のリリーローズ王国。

 身分制度が激しい中、貴族学園に入学許可が降りたヒロイン、アリス。


 珍しい光魔法持ちという事で、特別に入学できたのだ。


 アリスは貴族たちに虐められるが、イケメン達に救われていく。

 またイケメンたちもアリスに慰めてもらい、共に戦っていくストーリーだ。


 甘酸っぱくで胸キュン要素てんこ盛りのストーリー展開に、私は沼っていた。


 イヤホンを付け、ゲームの中に入り込む。

推しのアリスを見ていると、自然と心が穏やかになっていく。


 鼻歌を歌いたい気分で、ゲームを進めていく。

 このゲームはベタな展開が多いことから、あまり評価が高くない。

 それでも、私はこのゲームが好きだが。


 綺麗なイラストを見つめながら、電車が来るのを待つ。



 ゲームを開始して10分ほど。

 

 奥の方から、電車の走行音が聞こえて来た。

 そこで一旦スマホの電源を切ろうとすると、後ろから怒鳴り声が聞こえて来た。


 『お前、ウチの嫁と不倫してんだろ!』

『してませんよ!』

『あ!?俺が間違ってるって言いたいのかよ!』

 

 不倫騒動?物騒だなぁ。


 呑気な感想を抱く。

せっかく楽しい気分になっていたのに、台無しじゃないか。


 気分が徐々に下がっていく。

 溜息をつきたくなってきた頃。

後ろから大きなバチンッという音がした。


 え?叩いた?


 そう思い、興味本位で後ろを振り向く。


 揉みくちゃになった2人は、どんどん線路のほうに近づいてきた。


 避けないとっと思った時には、遅かった。


 たまたま男の人が伸ばした手が、私の体に当たった。


 随分と強い力だったので、思わず体制が崩れてしまう。


 タイミングが悪かった。


 視界が宙を捉え、背中は重力に従い落ちて行く。


 線路に真っ逆さまに落ちた私は、電車に撥ねられた。


 どぉおんっと腰らへんに硬い素材が当たる音がする。


 頭が考えることを放棄し、何が起きたのかもわからない。


 ただ、赤い液体が宙を舞ったのだけが見えた。


 青い空に赤い血。


 激しいコントラストが目に焼き付き、瞼を熱くする。

 

 花火のような火花が散り、耳障りな甲高い音が鳴った。

 チョークを黒板に引っ掛けたような音が、耳を突き刺す。


 五感が様々な状況をキャッチするが、脳はうまく処理できない。


 何が起こったのかも分からないまま、私は生涯を終えた。


 



 

 

 

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悪役令嬢に転生したので男装したいと思います 永遠セカイ @tarankoron

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