第3話 そんな不公平なことがこの世界にはあるのかい?
任務自体は成功している。
依頼主であるコアパイロットの両親に娘が死んでいる証拠写真を送り付ければ、金が振り込まれて世は事もなしだ。だがもしこの脳ミソが、ヘッドレスの想像通りの物だったとしたら、依頼は余計面倒なものとなる。
「コアパイロットである娘の脳ミソだと思っているね?」
頭部椀の赤い瞳がナードを見つめ返す。
「もしこの脳ミソが娘の脳だと仮定しよう。でもヘッドレスそれが何だというんだい。新型エフェクトマシンのコアパイロットに選ばれた娘は、数年間、数多くの任務をこなしてきたエースパイロットだった。
だがその実態は、非合法の技術で接続されてしまった脳ミソだ。似たような話とは言わなくても、人間を軽んじている研究結果のゴミ捨て場であるこの区画には嫌というほど転がっている。いつものように見て見ぬふりするだけさ」
肩を竦めてわざとらしくナードは笑って見せた。
「ヘッドレス、君はいつも言うだろう『金にならない面倒ごとは嫌いだ』と。
まさにその通り。このご時世、他人の面倒ごとに巻き込まれている場合じゃないんだ。みんな自分が生き残るためだけに必死で、弱者が死んでいっても悔しむことはあっても行動することはない、せいぜい死者の財産をどう奪うか悩む程度さ」
歌うようにナードは話を続ける。社会批判に饒舌なのはいつもの事だ。
だがヘッドレスはいつものように見なかったことにするのは、どうにも気が引ける気がした。
「理由は分からないが、いや、自分でもきっと分かっているのだろう。シティの外に捨てられた『元人間』だったものの気持ちが。そいつは俺がエフェクトマシンの内部を撮影中にずっと視線を送っていた。
何も喋れず、動けず、他人に伝える術は何もない。ましてや走馬砂の中だ。誰かが来るなんて思いもしなかったんだろう。エフェクトマシンに繋がれ、簡単に死ぬ事もできないまま、この世界に存在する気持ちは——体験した者しか分からない」
「自分を重ね合わせてるってことかい?」
だからこれまで見捨てたものは忘れて助けるのか、と? そんな不公平なことがこの世界にはあるのかとナードは目で訴えていた。
「助けられるなら平等に助けるべきじゃないか、ヘッドレス。境遇が似てるから助けたいなんて、都合がよすぎるじゃないか」
「ナード、俺は慈善事業で『ウセモノサガシ』をやってるんじゃない。この世界で生きる手段の一つとしてやってるんだ。そんな中で誰それ助けるなんて、異常なこと極まりない。
正論はそうだが、『平等に助けろと歌う奴は綺麗ごとを見せびらかしたい異常者だ』。実際、どこか共感できなきゃ、手を差し伸べない方が正常なんだよ」
頭部腕の赤い瞳に凝視され、ナードは小さな溜息をついた。
「言いたいことは分かったよヘッドレス。社長は君だ、社員は従うのみさ。それに僕だって『正常』だ。
ただこの脳ミソは新型エフェクトマシンの中にあった、それがトラブルの種になりそうだと忠告したかっただけさ」
「ありがとうナード、どのみち走馬砂の中で、俺以外はエフェクトマシンを確認や改修する術もない。クライアントには完了報告を。俺はヘルメスのとこに行ってくる」
室内に掛けてあったフード付きのカーキ色のロングコートを羽織り、頭部椀を器用に丸めて、フードを深く被った。するとどこからどう見てもまともな頭が付いている長身の男性にしか見えない。
近くにあった革袋に脳ミソの筒を放り込み、ヘッドレスは背中に背負う。
ヘルメスと聞いたナードは、腐った雑巾を鼻に近づけたような顔でヘッドレスを送り出す。
「なら帰りに別のところでシャワーを浴びてもらうことを祈るよ」
「そんな善人、いたらお会いしたいくらいだ」
街灯が点滅し始めるころヘッドレスは、舗装が剥がれた道路を進み、明るの少ない暗闇の中に身を染み込ませていった。
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