外伝終

第17話

「ねぇ、くるめ。結婚するなら、特別寮の誰がいい?」


「全員、無しかな」



色の突拍子もない質問に、秒で返す。


今日は、家政婦はお休み。なぜなら、今日はあたしの誕生日だからだ。

誕生日なのに働きたくない!と、じっちゃんに猛抗議し、見事に勝ち取ったのだ。

が、大袈裟に言ったものの、あたしの猛抗議とは裏腹に、じっちゃんは、あっさり快諾。

なんなら、週一で、休みを手配してくれた。

むしろ謝られたくらいだ。


そして、外にも出ず、一階のリビングで、プロレスのDVDを鑑賞。膝には大の頭。あたしに枝垂れかかる色。

うん。いつも通りだな。

因みに、珍しく全員が揃っていて、それぞれリビングで何かしている。

萌は台所で誕生日ケーキを作ってくれているが。


話を戻して、あたしの大好きなプロレスラーの登場に興奮していると、色が先程の質問をしてきたのだ。



「わたくしの聞き方が良くなかったわね。もしもの話よ。でも絶対誰かを選んでちょうだい。この世界に、くるめとわたくし達しかいないと想定してね」


「色、なんか怖いんだけど。凄い圧力を感じるだけど。もしもの話だよね?」



何も答えず、ただニコリと笑う色。

いやだ。マジでその笑い方、怖いからやめて欲しい。



「えー・・・そうだなぁーー」



というか、今良いところだから邪魔しないで欲しいんだけど。まぁ、あまり考えず、適当に答える。



「ーー大かな?」



ピクっと、膝の上にある大の頭が動いた気がした。



「どうして!?」



色は身体を起こすと、あたしの身体を激しく揺さぶった。

ちょっと、ちっともテレビ見えないんですけど。



「そうだよー、大なんて基本、寝てるだけじゃん」


「ああ、納得がいかん。いつもベタつかれて嫌がっている癖に、なぜ選んだのだ!」


「オレが選ばれると思ってたのに......」


「くるめのせいで、死んだじゃねぇかよ!クソッ!」



シト、豪、萌、リキが、順番に文句を言う。

アンタら聞いてたんかい。

というか、リキに至っては、唯のゲームの八つ当たりである。酷すぎる。



「えぇー?ちょ、後にしてくれないかな?今、良いところなのに!」


「だめ、今すぐ答えて」


「重要な問題だ」


「ていうか、プロレスばっか見過ぎ。ボクがあげたライブのDVD観てないでしょ?」



あろうことか、シトがテレビの画面を消したのだ。

ぎゃああああ!あたしのオアシスがぁあああ!

コイツらは〜〜!!



「そいうとこだよ本当!人が楽しんでるとこを邪魔して!大には、ひっつかれて迷惑してるけど、寝てるだけだし!あたしを自由にしてくれるし、何より、この中で一番稼ぎが良い!以上!!」



シトからテレビのリモコンを奪い返し、画面を点ける。ああ、カムバック、あたしのオアシス〜。



「ーーじゃない......三桃のせいで、わたくしまで怒られたじゃない!」


「はぁ?なんでボクのせい?元はと言えば、アンタが変な質問するからでしょ」


「確かに、七紫が悪い」


「四暁は黙ってて」


「くるめぇ!ごめんねぇ!!とびきり美味しいケーキ作るから機嫌直して!」


「金......金なのか?くるめは、金が好きなのか?」



なんか、更に騒がしくなった気がするんだけど。反省してないなコイツら。



「煩い。犬共。くるめが、邪魔をするなと言ったばかりだろう。大人しく出来ないようなら強制的に眠らせてやろう。全員、あのスリーパーのようになれて、さぞ嬉しかろう」



さすが星兄。まさに鶴の一声です。

ようやくゆっくりできる。


その、気が抜けた瞬間が良くなかったのだろう。


ふと、大が動く気配がして、顔を下に向ければ、あたしの後頭部に手を伸ばしたかと思うと、そっと大の方へ引き寄せられる。


そしてそのまま、あたしの唇と、大のソレが合わさったのだ。


黒い瞳が、あたしと交わる。

それは、いつもの無気力な、光のない瞳ではなく。

どこか意思を持った、力強いものだった。

だから、一瞬、

目の前の人物が誰だか分からなかった程。


相手を認識できた時には、もうお互いの唇は離れていた。


ただ、幸せそうに微笑む大がそこにいるだけで。



「うん。くるめ。結婚しよっか」



何をどう勘違いしたら、そんな言葉が出てくるのか理解に苦しむが、今言うべき言葉ではないのは確かだ。


呆然としているあたしを余所に、“セブンモンスターズ”の怒声が響く。



「貴様!!くるめに何をしたぁあ゛!!??」


「あり得ない!バカじゃないの!?何、その気になってるのさ!!」


「大くん、それは駄目だよ。許されないからね」


「六翠、今すぐ、眠りにつきたい方がいるみたいだわ。永遠に」


「ああ。そうみたいだな。とっておきの薬を持ってこよう」


「星兄、手伝うぜ。俺の技で逝かせてやるよ」


「ごぉらぁあああ!!ワシの孫に手を出したなぁ!!!」



いや、じっちゃん。いつからいたのよ。


はぁ、とんでもない誕生日を迎えてしまった。

なんだか、更に波乱な展開が待っている気がする。



取り敢えず、新しいプロレス技でも覚えよう。









END

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7王子は、しち面倒くさい!〜マジで辞退させてください〜 牟牟(むぼう) @3s10ry-rock_home

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