サッカー部時代のはなし
今日も今日とて、トオルはユウマの家に訪れていた。今回はユウマがたこ焼き器を新調したということで、たこ焼きパーティーが開催される運びとなったのだ。
「いや、このたこ焼き器すごいな――自動でひっくり返しよるんか」
トオルが驚きながら言うと、ユウマは得意げな顔をして口を開く。
「せやろ? 奮発してん――ほな早速やってみるわ」
ユウマは手際よく生地を流し込み、ぶつ切りにした蛸足を投入する。暫くして生地がふつふつしたくると、自動で回転を始めた。
「ほぉ~、これが最近の技術か……」
「そろそろええやろ。ほな、焼けとるやつから食べよか」
ユウマは焼き上がったたこ焼きを小皿に移してトオルに手渡す。
「ほな、頂きます」
トオルは爪楊枝でたこ焼きの一つを刺して口の中に運ぶ。
「あふっ、はふ……んぐ。うまいなこれ」
「せやろ? 焼き加減もAI言うんが自動的にええ感じにしてくれるらしいし――なによりこの蛸、態々明石まで買いに行ってんで」
「ほんまか、でもせやったらたこ焼きやのうて明石焼きにしたほうがよかったんちゃうか?」
ユウマの言葉にトオルがそう尋ねる。
「いや、誰が蛸パで明石焼きすんねん――あれはな店で食べるから美味いんや。家で作るもんやない」
「それはそうやな――」
ユウマはハイボールの入ったグラスを手にしてそう告げると、トオルは同意するように頷いた。
そして、酒とたこ焼きも進み、黒ニッカ瓶の中身が残り少なくなってきたところでトオルがユウマに話を切り出した。
「なぁ、ユウマ――」
「どした?」
「いい感じに酔いも回ってきたところやし――恒例の、なんかおもろい話ないんか?」
ユウマはトオルの問いに対して、少し考え込んだ後――こう答えた。
「……今回もお眼鏡に敵うかどうかはわからへんけど――ストックはあるで」
「よっしゃ! ――ほな頼むわぁ」
トオルがそう言うと、ユウマがゆっくりと口を開いた。
「今回は俺の話や――俺な、中学ん時サッカー部やってん」
「ほぉ、意外やな。ポジションはどこやったん?」
「CB――センターベンチや」
「いや、センターバックちゃうんかい! CB言うたら普通センターバックやろ! ――まぁええわ。それで?」
トオルがユウマに話を促す。
「まぁ、普通の田舎の公立中学校やからな、そんなめちゃくちゃ強いとかではなかってんけど、一応その地区やったらぶっちぎりで強かってん」
「ほぉ、そらすごいな」
トオルは感心したように頷く。
「せやろ? まぁ、俺は試合にはほとんど出てないねんけどな――そんな感じやから結構いろんな中学と練習試合とかしててん」
「なるほどな――」
「ある時な、とある中学と試合することになってん。地区が違うから何とも言えへんねんけどな一応同じくらいの強さやってん」
トオルは、その言葉の続きを催促するように相槌を打つ。
「最初は拮抗したいい試合やってん。こら1点ゲームになるな思ってたところでうちが先制点を取ってん」
「おぉ、やったやないか」
「そうやねん、そしたら相手さんの監督もちょっと怒り出してな――テクニカルエリアっていう監督が出ていいエリアギリギリまで来て選手に指示出し始めてん」
ユウマはその時のことを懐かしむようにそう告げる。そして、トオルもそれに続きを促すように口を開く。
「なるほどな、それで?」
「相手も監督さんが怖かったんか、萎縮してもうてな――結局そのあと前半で2点入って3-0になってん」
ユウマはそう告げながらグラスに黒ニッカと炭酸水を注いで一息ついた。トオルもそれに続いてグラスのハイボールを喉に流し込む。
「――まぁ、よくある話やわな」
「ほんで後半が始まってからな、相手さんの監督の様子がおかしくなってん」
「ん? 様子がおかしなったってどういうことや?」
トオルはそう尋ねると、ユウマは話を続ける。
「相変わらず怒ってるし、テクニカルエリアギリギリに出て声張り上げてんねんけどな、ずっとこう言ってんねん――『ブッ殺せー!!!』ってな」
「いや、ヤバいやつやんけ!」
トオルはユウマの話を聞いて思わずそうツッコむ。
「そやねん――当然俺らにも聞こえてるし、なんやったら相手さんの応援に来てた保護者さんにも聞こえてんねん。それなのに何回も何回も言うてんねん」
「そ、それはヤバいな……なんやおもろい話いうよりは怖い話やんけ」
トオルは引きつった顔でそう答える。
「まぁ、待ってや――ほんでな、そら問題になるやん。俺らの監督も顧問も抗議に行ってん。そしたら後日相手さんの監督が協会に呼び出されて事情聴取されることになってんや」
「そらそうなるわな」
トオルがそう答えるとユウマは更に話を続ける。
「そこで『言ったことはほんまか?』って協会の人に確認された時にな、相手さんの監督はこう言ったらしいねん――『あれは『くっ、殺せー!!!』って言いました。相手のチームが強すぎたのでもういっそやめてくれという意味です』ってな」
「いや、ゴブリンに捉えられた女騎士のセリフやん! ――あかん、見事にツッコんでもうたわ」
ユウマもトオルと同じように声を上げて笑っていた。
「お後がよろしいようで――」
「いやー、おもろかったわ。さすがユウマやな」
トオルはそう言うと新しい黒ニッカを取りに冷蔵庫の方へ向かう。その背中に向けてユウマが話を続ける。
「――ちなみにこの話の肝はな、相手の監督さん――当時のサッカー部にしては珍しい若い外国の女の人でな、選手たちからセイバーさんって呼ばれてたところやな」
その言葉をトオルが耳にすると同時にユウマに向き直る。
「いや、ほんまに女騎士やないかーい!!!」
ユウマとトオル〜ちょっとした漫談~ 雪村いろは @material2913
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