ユウマとトオル〜ちょっとした漫談~

雪村いろは

パスタ麺のはなし

 師走を感じられる今日この頃、近畿地方のとある中小企業に勤める、新卒3年目の2人――ユウマとトオルによって鍋パーティーが開催されていた。

 2人でのパーティーは職場の愚痴や情報交換などを兼ねて定期的に行われているもので、今回の開催場所はユウマの家だった。


「やっぱり冬はタコパやのうて鍋やな――体に沁みるわぁ」

「ほんまそれやで、しかもこの鍋に使てるキムチ――態々、鶴橋まで買いに行ってんで」


 ユウマとトオルは缶ビールを飲みながらキムチ鍋を愉しんでいた。


「にしても……ちょい買い込みすぎたんちゃうか?」


 ユウマはテーブルに置かれた鍋の具材を一通り見渡してから、改めてトオルにそう告げる。


「確かにな。でも、これはこれでええやろ?」


 2人の言う通り鍋の具材は大量だった。

 白菜やネギに加え、ニラやモヤシといった野菜、そして豚肉と牛肉の薄切り肉。

 他にもキノコ類や豆腐などもあるのだが、その量は2人で食べるには量が多いと言えた。


「まぁ、余った分はお前ん家に置いてくから――好きに使てくれや。にしてもこのキムチほんまにうまいなぁ」

「ほんまそれな。さすが鶴橋産や」

「ビールとの相性も抜群やし」


 トオルは缶ビールを手にしてそう告げると、ユウマは同意するように頷いた。

 そして、酒と鍋も進み、2人の近くに空になった缶ビールが増えてきたところでトオルがユウマに話を切り出した。


「なぁ、ユウマ――」

「どした?」

「いい感じに酔いも回ってきたところやし――なんかおもろい話ないんか?」


 ユウマはトオルの問いに対して、少し考え込んだ後――こう答えた。


「……お眼鏡に敵うかどうかはわからへんけど――ストックはあるで」

「よっしゃ! ――ほな頼むわぁ」


 トオルがそう言うと、ユウマがゆっくりと口を開いた。


「――これは俺の弟の話やねんけどな、あいつ今関東の大学に行っててな、一人暮らししとんねん」

「ほぉ、それで?」

「俺もそんな頻繁に会うわけやあらへんのやけど、この前関東に出張に行った時に会うてきてん」

「へぇー、ほな東京のうまいもんでも一緒に食べに行ったんか?」


 トオルがそう尋ねると、ユウマは首を振って答える。


「そんなわけあるかいな――お互い金ないねん。ほんでそん時に弟がちょっと食材の買い物したい言うたからな、一緒にスーパー行ってん」

「ほぉ~、仲ええんやなぁ」


 トオルは腕を組んで相槌を打つ。


「色々と食材買うててんけど、パスタのコーナーに行ってん。そしたらな――弟のやつなんの迷いもなく太さ2.2mmのパスタ選んでカゴに入れてん」

「ん? パスタってたしかもっと細いんとちゃうか?」


 トオルはユウマの話に疑問を持ち、確認するように尋ねた。


「そやねん――俺もそう思って弟に聞いてん。『なんでそんな太いの選んだん? 普通もうちょい細いやつにするやん』ってな」

「そしたら、弟はなんて答えたん?」

「それがやな、『え? だって同じ値段なんやったら太い方がお得やん!』って言うててん。一瞬『は?』ってなってんけど、ちょっとしたらようやく意味がわかってん」


 ユウマはビールで喉を潤して更に続ける。


「弟はな、パスタは太さに関わらず同じ本数入ってると思ってたんや――」

「ははは、たしかにそれやったら太い方がグラム的にもお得やなぁ」


 トオルは笑いながら相槌を打つと、ユウマはさらに話を続ける。


「ほんまそれやねん! ほんで弟に言ってん――『パスタはな、本数やのうて重さで量が決まってんねん。せやから1.7mmのパスタのほうが2.2mmのパスタよりたくさん本数入ってるから得とかないねん』ってな」


 ユウマはそこで一呼吸置くと、続けて口を開いたが。


「そしたら弟もな、『えっ!? ほんまに言うてる?』みたいなこと言い出しよって、1.7mmのパスタも買うてな、家帰ってから本数数えだしてん」


 トオルはその光景を想像したのか手を叩いて笑っていた。それに気をよくしたユウマは話を続ける。


「それで結局1時間くらいかけて、『ほ、ほんまに1.7mmの方がいっぱい入ってるやん!!』ってなってん」

「いやー、おもろいな。これはお前の弟がアホやった言う話なんか?」


 トオルにそう問われたユウマは首を横に振りつつ口を開く。


「それがオチなんは弱いやろ――ほんでこの件のあと暫く経ってから弟からメッセージが来てん」

「なんてきたんや?」


 トオルが食い気味に尋ねる。


「画像付きでこんなメッセージが来てん――『兄ちゃん、俺と同じアホがおった!』ってな。画像見たらパスタ売り場のポップアップの写真でな、『2.2mmのパスタ麺! 他のパスタ麺より太いのでお買い得! 財布に優しい!』ってデカデカと書いてあってん」

「はははは! 同じ考えのアホもおるもんやなぁ」


 トオルは腹を抱えて笑っていた。ユウマはここがオチとばかりに少し溜めた後、神妙に言葉を発した。


「ほんでその画像撮れたスーパーやねんけどな――なんとあの成蹊吉井やってん」

「いや、そこそこ格の高いスーパーやんけ! そこは店員間違えたらアカンやろ! ――あかん、見事にツッコんでもうたわ」


 ユウマもトオルと同じように声を上げて笑っていた。


「お後がよろしいようで――」

「いやー、おもろかったわ。さすがユウマやな」


 トオルはそう言うと新しいビールを取りに冷蔵庫の方へ向かう。その背中に向けてユウマが話を続ける。


「――ちなみにこの話の肝はな、この話のネタはホンマにあった話やねんけど……俺に弟はおらへんってところやな」


 その言葉をトオルが耳にするのと同時に冷蔵庫の上にある戸棚に目をやると、2.2mmとパッケージに書かれたパスタが大量にストックされていた。


「いや、お前の話なんかーい!!!」

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