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栗尾りお

電話が終わって…

 ソファーにスマホを置く。そして視線は上に。

 仰ぎ見た天井はいつも通りだった。


 『気持ちは分かるけど』


 頭の中でリピートされる聞き慣れた声。クールで、大人っぽくて、落ち着いた声。

 あの俳優に似てるなんて話もしたっけ? 君は「似てる?」って聞き返してくれたけど、あんまり嬉しそうじゃなくて。

 あれから気を遣って声を褒めないようにしてた。そんなこと、自分勝手な君は知りもしないんだろう。


 『だから、もう決めたことだって』


 理由を聞いただけ。それなのに答えは曖昧で、声は苛立っていて。

 声だけでわかる君の不機嫌そうな顔。終わらそうとしてくる会話を、必死に足掻いて繋いだ。


 それでも君は強引に電話を切る。


 あんなに優しかったのに。たくさん笑ってくれたのに。

 楽しかった記憶が一斉に崩れる。同時に君の嫌なところがたくさん見えてきた。


 自分勝手なところ。

 相槌が適当なところ。

 私の話に興味ないところ。

 都合の悪い時は無視するところ。

 「別に何でもいいよ」が口癖なところ。


 何が悪かったんだろう。

 会話を盛り上げようと頑張った。可愛いって言ってくれるように努力もした。自慢できる彼女になろうとしていた。


 ……でも全部迷惑だったのかな。


 友達に連絡しようとスマホを手に取る。

 それなのに、気付けば君との軌跡を眺めていた。


 スタンプや素っ気ないメッセージ。それを遡っていくと楽しそうなやり取りが。

 互いに撮った写真を送り合ったり、デートスポットのURLを送ってくれたり。

 少し見ただけで、一緒に笑い合った記憶が蘇る。


 メッセージを眺めて、次はアルバムに。私の端末は思っていたより君色に染まっていた。


 美味しいねって言い合ったスイーツ。

 長時間並んだアトラクション。

 偶然見つけた面白い雑貨。

 一緒に行った動物園。

 君と乗った観覧車。

 それから……


 写真をスクロールしていると、ツーショットを見つけた。


 ずっと見てきた君の笑顔。その顔が可愛くて、愛おしくて。

 けど今は憎くて。


 そっと親指で隠す。そして力を込めた。

 画面が割れても構わない。それくらいの気持ちでグリグリと痛めつける。



 画面に雫が落ちた。

 先に限界が来たのは私だった。


 分かってる。こんなことしても意味はない。


 喧嘩なんてしなければよかった。少しぐらい我慢すればよかった。君の言葉を素直に聞いていればよかった。ダメなところも全部受け止めればよかった。


 怒ったりしないから。

 ずっと笑顔でいるから。

 君に合った彼女になるから。



 だから、もう一度……

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