脱出

 レイチェルとキティは、霊安室を出ると、廊下のすみで待機した。これからアレックスが受付にあいさつをして帰る。その後に脱出しなければ、アレックスにエイミー盗難の嫌疑がかかってしまう。


 レイチェルたちはジリジリとした時間を過ごしたあと、アレックスのメッセージを見た。警察病院を出た事、裏口に車を待機させるという文面が書かれていた。


 レイチェルはキティの顔を見て言った。


「行くよ、キティ」

「うん!」


 エイミーを抱いたレイチェルは、キティを連れて警察病院の廊下を走った。目指すは職員通用口だ。レイチェルは手に入れた警察病院の見取り図をすべて暗記していた。


 レイチェルたちは運良く警察病院の関係者に出会う事なく通用口に到着する事ができた。目の前に銀色の分厚いドアがある。ここからは力技だ。


 レイチェルはドアのカギに念動力を注ぎ込んだ。無理矢理カギを破壊し、ドアを開ける。ドアが破壊された事を感知した防犯システムが作動し、けたたましいサイレンが辺りに鳴り響く。


 これからは時間との勝負だ。外に出たレイチェルは、自分自身とキティに念動力をかけて空に飛び上がる。ちょうどアレックスのジープが裏口に飛び込んできた。


 レイチェルはエイミーをかかえたまま、キティとジープの荷台に飛び乗った。アレックスは素早く車を発車させた。


 キティは車に乗っている最中も、エイミーの身体に触れ、絶えず治癒を施してくれていた。


 レイチェルはいまだに氷のように冷たいエイミーを抱えて不安な気持ちでいっぱいだった。何故なら彼女は一度も目を開かないからだ。


 レイチェルの不安を感じとったのだろう、キティはエイミーからは手を離さずに言った。


「大丈夫だよ、レイチェル。エイミーこれまでずっと冷凍庫みたいなところにいたんだもん。ゆっくりと今の温度に慣らしてあげないと目を覚まさないよ?」


 キティの、冷凍食品を解凍するような説明に、レイチェルはあいまいにうなずいた。


 レイチェルたちのアパートに到着すると、アレックスはすぐさまレイチェルとエイミーを風呂場に連れて言った。


「レイチェル。これからエイミーの身体をゆっくり温めるわ。エイミーをバスタブに入れてくれる?」


 レイチェルは言われた通りエイミーをバスタブの中に入れたが、身動きの取れない彼女はズルズルとバスタブの底に寝そべってしまった。そこでレイチェルは一緒にバスタブに入り、後ろからエイミーを抱き抱えるように支えた。


 アレックスはうなずいてから蛇口を捻り、バスタブに水を入れだした。冷たい水がレイチェルとエイミーの足を濡らす。


 キティはバスタブの外からエイミーの身体に触れながら静かに言った。


「本当なら、身体が冷えて仮死状態になっている人には、血液をゆっくり温めて循環させてあげる機械が必要なの。だけどここにはそんなもの無い。設備のある病院にも連れていけない。だってエイミーは死んでしまってるから」


 レイチェルはぐったりとしているエイミーをギュッと抱きしめた。キティがレイチェルを安心させるように笑顔で言葉を続けた。


「だけど大丈夫。あたしがエイミーを絶対助ける」


 レイチェルは泣き出しそうになりながらうんうんとうなずいた。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殺人鬼から逃げ切ったら超能力が目覚めた件 城間盛平 @morihei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画