再会

 霊安室はまるでロッカールームのようだった。沢山のロッカーが辺り一面積み重なって並んでいる。


 銀色の扉には番号がふられている。その中の一つ一つに言葉なき者たちが眠っているのだ。


 正面のロッカーは前に出されていた。引き戸棚のようになっているのだろう。レイチェルはビクリと身体を震わせた。


 これからエイミーに会える。会いたくて仕方なかった、それと同時に会う事がとても怖かった。


 レイチェルはアレックスに背中を押されて、エイミーのなきがらと対面した。


 そこにはエイミーがいた。まるで眠っているようなおだやかな表情。レイチェルは脳裏に童話の白雪姫を思い浮かべた。


 白雪姫は王子さまのキスによって生き返る。エイミーはキティの能力によってよみがえる。


 レイチェルは皮手袋を脱ぐと、震える手でエイミーの頬に触れた。その肌は氷のように冷たかった。それは当然の事なのだ。エイミーを腐敗させないために、冷凍保存されていたのだから。


 だがレイチェルが感じとったのは、はっきりとした死だった。レイチェルはブルブル震え出すと、おえつした。


「エ、エイミー、エイミー。ごめんね、ごめんね」


 レイチェルはボロボロと泣きくずれ、エイミーのなきがらにおおいかぶさった。エイミーの冷たい身体は、レイチェルの体温をどんどん奪っていった。レイチェルは自分もエイミーと同じ体温になりたいと思った。


「レイチェル、ジャマ!」


 レイチェルは突然首根っこを乱暴につかまれどかされた。アレックスが怖い顔でレイチェルに言った。


「レイチェル、いいわね?キティの治癒でエイミーが生き返ったらこのまま連れて帰る。だけど、もしエイミーが生き返らなかったら、私が書類を偽造してエイミーを引き取って、おじいさんとおばあさんのと同じお墓に入れる。それでいいわね?」


 レイチェルは鼻をぐずぐずいわせながら、うんうんとうなずいた。アレックスも一つうなずくと、小さなキティを抱き上げてエイミーに近づけた。


 キティは小さな手をエイミーの頬に当てた。しばらくしてキティはつぶやくように言った。


「傷口はふさいだ。今度は全身の細胞を活性化させてみる」


 レイチェルは固唾を飲んでキティとエイミーを見守った。エイミーの肌は真っ青でとても生きている人間には見えなかった。どれほど時間が経っただろう。アレックスの顔に不安の表情が浮かんだ。


 これ以上時間がかかれば、受付の男が様子を見に来てしまうかもしれない。レイチェルはエイミーが生き返るまでこの場を離れたくなかった。


 アレックスの顔が、もうこれ以上待てないとなった頃、キティが小さくさけんだ。


「動いた。心臓、ゆっくりだけど。エイミー、生き返ったよ」


 わあわあと涙を流し、エイミーにすがりつこうとするレイチェルの顔を、アレックスが片手でむんずと掴んで言った。


「後にしなさい!レイチェル、キティ!エイミーを連れて脱出!」


 レイチェルはハッとしてから背中のリュックサックから毛布を取り出してエイミーを包んだ。


 エイミーを横抱きに抱き上げると、アレックスが開けてくれたドアからキティと共に霊安室を出る。同時に二つの携帯電話も回収する。


 

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