　レイチェルたちはエイミーの身体を奪還するため、警察病院に忍び込む事にした。最初はアレックスがエイミーの叔母として警察病院の受付に立った。

「あの、先ほどお電話しました。エイミー・ダートの身内の者です」

「ああ、アレクサンドラ・ウォードさんですね？エイミー・ダートさんのお母さんの妹さん」

「はい。あの、エイミーは本当に、」

　そこまで言ってアレックスは息を飲んで黙った。カウンターの陰で、アレックスの足元に息を殺しながらしゃがみ込んでいるレイチェルとキティは、アレックスの迫真の演技に苦笑した。

　警察病院の受付の男性は、アレックスの焦燥ぶりに同情したらしく、柔らかい声で答えた。

「はい、残念ながら姪御さんは亡くなっています。でも良かった、叔母である貴女が迎えに来てくれたのです。姪御さんも喜ぶでしょう」

「はい。お恥ずかしい話しです。私は海外にいたために、姪のエイミーに電話したら連絡が取れなくて、それで姉に電話したんです。そうしたら、エイミーは事件に巻き込まれて死んだっていうじゃないですか！それなのに、バカな姉は可哀想なエイミーを迎えに行っていないだなんて！私腹が立って、腹が立って！」

　アレックスは檄ごうした後、両手で顔をおおってシクシク泣き出した。レイチェルはアレックスの迫真の演技にぼう然としてしまった。

　キティはアレックスの演技が面白いのか、ニヤニヤと笑っている。受付の男はアレックスに同情しているのか、うんうんと親身に相づちをうっている。

　受付の男はアレックスが落ち着いたのを見てとると、エイミーのいる霊安室に案内した。

　レイチェルとキティは受付の男に見つからないように受付の陰に隠れてやり過ごし、アレックスたちの後を追った。

　受付の男は鍵を持ってアレックスを厳重なドアの前に案内した。受付の男とアレックスはドアの中に入っていった。レイチェルとキティは廊下の陰から状況を見守った。

　しばらくすると受付の男が出て行った。予定通りだ。アレックスは少しだけエイミーと二人きりにしてほしいと頼んで受付の男を霊安室から意図的に出したのだ。

　しばらくすると、レイチェルの携帯電話にアレックスからメッセージが入った。監視カメラ二つ。ドアの上、右斜め上。レイチェルは一人うなずき、自分の携帯電話をカメラの状態にして念動力をかけた。携帯電話はフワリと宙に浮いた。

　キティは自分の携帯電話の動画を見ている。アレックスから送られてくる霊安室内の映像だ。キティがレイチェルに動画を見せる。きっとアレックスが後ろ向きに動画を撮っているのだろう。

　銀色のドアの上に監視カメラがある。レイチェルはうなずいて、皮の手袋をした手で、重たい銀色のドアを少しだけ開けた。ドアからスルリとレイチェルの携帯電話が入っていく。キティが小さく呟いた。

「見えた。レイチェルの携帯電話だよ」

　レイチェルはキティの動画を見ると、肉眼でやっと見えるようなレイチェルの携帯電話が確認できた。

　レイチェルはキティの動画を見ながら苦心して、後ろ向きに立っているアレックスの写真を撮った。

　この写真は、これから監視カメラがしばらく写し続ける画像となるだろう。

　レイチェルは撮影した写真をドアの上の監視カメラの前に固定した。キティはレイチェルの仕事がひと段落した事をメッセージでアレックスに伝えた。

　アレックスは次に、向かって右斜め上の監視カメラを映し出す。レイチェルは監視カメラの位置を覚えると、今度はキティの携帯電話をカメラモードにして念動力をかけた。

　キティの携帯電話はフワフワと霊安室の中に入っていった。レイチェルは目をつむり、頭の中で覚えた監視カメラから見えるであろう場所の写真を撮り、監視カメラの前に固定した。

　しばらくするとアレックスがドアを開けた。レイチェルとキティはするりと霊安室の中に入った。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい