キティの考え
沈黙を破ったのはキティだった。キティは機嫌の悪そうな難しい顔をしてから口を開いた。
「あのね、例えばの話しとして聞いてほしいの」
レイチェルとアレックスはキティの申し出にうなずくと、キティはたどたどしく話しはじめた。
「あたしね、ジネットの事助けられるとうぬぼれてた。ジネットがいくら瀕死の状態だって、あたしの治癒能力で助けてあげられるって。だけど、ジネットは死んじゃった」
レイチェルとアレックスは気遣わしげにキティを見守っている。キティは意を決したように厳しい顔で言葉を続けた。
「あたしね、どうしてジネットを助けられるなんて思ったのかなってずっと考えてたの。それでね、わかったの。アレックスとレイチェルを助けられたからだって」
レイチェルとアレックスは顔を見合わせた。キティの言う意味がよくわからなかったからだ。確かにレイチェルとアレックスは、ひどいケガをして何度もキティに助けてもらっている。キティはさらに言葉を続ける。
「猿男にあたしとレイチェル攻撃されたでしょ?あたしはスパッて首を斬られちゃって、レイチェルは肩から胸にかけて斬られた。あの時レイチェルは、肋骨を斬られてた。肋骨に守られている内臓まで傷つけられたの。肺に胃、心臓だって傷ついた。だからあたしは自分とレイチェルを同時に治した。今考えるとね、普通の人ならレイチェルのケガすればすぐに死んじゃう。レイチェルだから、あたしの治癒が効いたんだ。レイチェルだから助かった」
「私だから、助かった」
キティの断定的な言葉を、レイチェルは繰り返した。アレックスは深くうなづいて言った。
「つまり私やレイチェルのような能力が覚醒した者には、キティの治癒は効きやすいって事かしら?」
「うん、あたしの考えだけどね。だからね、もしかしたら、エイミーって人生き返らせる事ができるかもしれない」
キティの言葉に、レイチェルはヒュッと息をのんだ。エイミーが生き返る。どんなに素晴らしい事だろうか。
レイチェルの表情をうかがったキティは、申し訳なさそうに言った。
「レイチェル。あまり期待しないでね。もしもの話しだよ?あまり期待しすぎてエイミーが生き返らなかったら、レイチェルとても悲しいよね?」
キティは心配そうにレイチェルを見つめてから、しょんぼりと顔を下に向けた。レイチェルは心の中で自分を叱咤した。小さなキティに気を遣わせてしまったのだ。気にしていないと早くキティに言ってやらなければ。
だがレイチェルよりも早くアレックスが口を開いた。
「キティの能力でエイミーを生き返らせる。やってみる価値はありそうね。そうはいっても、羊男の犯行があったのは三ヶ月以上前だから、エイミーの身体も腐敗が進んでいるはずだから、やるなら早くしなければ。レイチェル、エイミーはどこの墓地に眠っているの?」
アレックスの質問にレイチェルはギクリと身体を震わせた。レイチェルはゴクリとツバを飲み込んでから答えた。
「エイミーの身体は腐敗していないと思う。だってエイミーの両親は彼女の引き取りを拒否したから」
レイチェルの言葉に、アレックスとキティは怒りの表情を浮かべた。レイチェルは順を追って説明した。
エイミーの両親は離婚して、お互い別の家族がいるという事。エイミーは母方の両親、つまり祖父母に育てられたという事。祖父母はすでに亡くなっている事。エイミーの両親は互いに相手がエイミーを引き取れといって、エイミーの遺体はいまだに警察病院の霊安室にいるのだ。
その話を学校で聞いた時、レイチェルは烈火の如く怒った。レイチェルがエイミーの遺体を引き取り、墓地に埋葬したいと教師に直談判した。だがエイミーの身内でもないレイチェルにその資格はなかった。
レイチェルが話し終えて下を向いていると、アレックスがレイチェルの両手をギュッと握った。
「私は奇跡とか信じない方だけど、これは奇跡が起きるかもしれない」
力強い視線でレイチェルを見つめるアレックスを、レイチェルはぼんやり見ていた。
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