第1話 バニーガールは触れられない


「あれ?固まっちゃってどうしたの?」


 俺が尻尾を凝視していることに気が付いていないのか、不思議そうにウサ耳少女は首を傾げる。

 バニーガールなことに意識を取られて気が付かなかったが、目の前にいる彼女は銀髪ショートに紅の瞳とアイドル並みの可愛さを持つ美少女だった。


「いや、何でもない」


 本当は何でもなくはないのだが、もしかしたら、万が一、俺が知らないだけで彼女は何処かの有名アイドルグループに所属していて、トレンドマークとしてウサ耳と尻尾を付けている可能性がある。

 まぁ、だとしても普通に校則違反だが。

 初対面の人にそれを指摘するほど俺はお人好しでもなければ、度胸もない。

 とりあえず、今日一日は彼女の格好についてスルーすることが俺の中で決定。

 

「座席表どこにあるか分かるか?」

「ここにあるよ?ほら」

「サンキュー」


 バニーガールから渡された座席表で自分の席を確認し、そこに荷物を置くとスマホを取り出す。

 そして、ゲームアプリを開いてプレイする。

 完全会話遮断モード。

 これならば話しかけられることはないだ──


「あっ、そのゲーム広告でよく見るやつだ。面白い?」

「ッ!?」


 ──なんだ、と!?完全遮断モードに入っているこの俺に臆すことなく話しかけてくるとは。

 一体どんなメンタルしてるんだ、このバニーガールは!?

 ま、不味い。

 この状況は完全に予想外だ。

 こんなバニーガールと一緒にいたら変な目で見られるかもしれん。

 とりあえず適当に返事をして、さっさと興味を失ってもらうのがいいだろう。


「別に(いや、めちゃくちゃ面白いです)」

「そうなの?別にって言う割にはゲームのランクが150って結構高いと思うけど」

「最近のゲームはランクが上がりやすいんだよ(いや、全然クソほどランク上がりにくいが!?めちゃくちゃ時間かけて上げてますけどね)」

「うわあっ、それ避けるの凄くない?どうやってるの?」

「普通にタイミング合わせてるだけ(嘘です。今回はたまたま避けれただけです。めっちゃ攻略動画見て、練習したおかげです。うぉぉぉー俺すげぇーー!)」

「ほへぇ〜、一号君って反射神経良いんだね。私も結構自信あるタイプだけど、今のは何処かで絶対一発はもらっちゃうよ。あっ、一号君って呼ぶのは失礼だよね。ねねっ、お名前教えてよ?」

「……三重田 真那斗」

「真那斗君ね。うんうん、覚えたよ。あっ、私の名前は佐藤さとう 兎白とはく。気軽に兎白って呼んでね」

「は、はぁ〜」

「ねぇねぇ、真那斗君は何処中学校?私はね、大宮女子中学校」

「春場野中学校」

「春場野、初めて聞くところだ。どの辺?」

「下総中山ってとこ」


 全然会話終わらねぇ〜!?

 クソッ、初対面が故に会話デッキが無限にあって話が続きやがる。

 ていうか、さっきから距離が近過ぎ!

 俺の肩に当たるか当たらないかくらいの位置にいて、めっちゃ良い匂いがするし、背中に柔らかいものが何回も当たって来やがる。

 美人局か?それとも女子校育ちだから距離感が分からないだけなのか?

 分からん、がウサ耳と尻尾を付けたコスプレ女に絡まれているところを見られるのは絶対に不味い。

 とりあえず、ここは距離を取らない──

 

「うぃーす」

「たのもー!」


 ──とぉーー!?

 何でこのタイミングで人が来るんだ。

 しかも、男女二人同時に!?

 これだと男と女両方のグールプにバニーガールとつるんでる変態だと噂されるじゃねぇか!?

 お、終わった。

 茶髪のスポーツマンと黒髪ポニーテールの快活そうな少女の登場に、思わず頭を抱える。

 

「うぃーす!二人とも初めまして。私は佐藤兎白。こっちは三重田真那斗君だよ。よろしくね」


 出来れば俺達が仲が良いとは思われたくなかったのに、何かを言う前に佐藤さんが俺達の自己紹介を済ませてしまう。

 下手なことを言うと事態が悪化しそうで「……うっす」と会釈をすることしか出来なかった。


「三重田に、佐藤さんか。よろしくな。俺は浜田はまだ将吾しょうご

「私は天音あまね優里ゆうり。ねね、二人は何を話してたの?」

「どこの中学出身かだね。浜田君と天音さんはどこの中学校なの?」

「俺と天音は有朱中学校ってところだな」

「で、部活も同じバド部でちょいちょい仲良くしてたって感じ。あっ、恋人とかじゃないから変な勘違いしないでね」

「そ、そうか」


 自己紹介が終わり、ついに佐藤さんのウサ耳について触れられると思ったのだが、意外なことに誰も触れることはなかった。


「佐藤さんの銀髪って綺麗だな。どこの店で染めたんだ?」

「違う違う。これは染めたんじゃなくて地毛だよ。お母さん譲りなんだ。ほら、サラサラでしょ?」

「確かに。凄い滑らか。何のシャンプー使ってるの?」

「えっと、ファンタジアっていうおと──知り合いの会社が売っているやつ」

「えっ!?ファンタジアって最近できたハイブランドのやつじゃん。もしかして、佐藤さんってお嬢様?」

「そ、そんなこといよ。ウチは普通の家庭だから、シャンプーはたまたま譲ってもらっただけ」


 まるで、。会話が進んでいる。

 思えば、教室にウサ耳を付けた美少女がいるのに二人の反応は驚くほど普通だった。

 もしかして、俺の目がおかしいのか?

 そう思って俺は一度目を擦ってみたが、変わらず佐藤の頭にはウサ耳が付いたままだった。



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お隣の美人四姉妹は多分帰還勇者の娘 3pu (旧名 睡眠が足りない人) @mainstume

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