第4話 その夜のこと 2 魔女の家
館を出た私たち(私と悪魔)は、一先ず、近くのモーテルに入った。
ベッドに腰を降ろす。バッドと机とユニットバス、最低限の部屋は監禁部屋を思わせて嫌だ。私、小部屋恐怖症になったかも。
気分を変えようと窓から見える小さい景色を見る。パームの木が常夏の国みたいでいい。寒いけど。
視線をめぐらして、鏡に映る自分はさっきまでの私の姿をしていない。
『顔も見られたし。カメラにも映ってる。今は外を歩くときは別の姿をしていた方が良いだろう』
屋敷の前の道を歩き始めた時、悪魔が言った。彼の闇が私を包んで、風と共に過ぎ去った頃には、私はブロンドの髪をなびかせ、ハイヒールを弾ませている。そのままバスに乗って、郊外の道を走り、このモーテルの前で降りた。
自分の姿を今初めて、鏡で見たけど、結構カッコいい。強いて言うなら
「鼻もうちょっと細くできる?」
「我がままだな」
「ああ、そうそれくらい」
便利な悪魔だ。
「他にも便利機能ないの?」
「便利機能言わないで。まあ、あるけど。ほら」
私の身体から黒い霧が出て、宙に円を作る。ワームホールみたいに、円からそれらが姿を現した……宝石、壺、それから「うわっ、人?」ニョキニョキ姿を現して、「いてっ」床に尻から落ちて小さい悲鳴を上げたのは小さい女の子。
『私の体の中にはいろいろものを収容できる』
「おお。でも、要らないんだけどこの子」
「無理やり人をこんな訳の分からない感じで連れて来て要らないとかいうな!」
女の子が吠える。
『屋敷の中にいたから連れて来たんだ。処女は悪魔に高く売れる』
「処女じゃねーし!」
『この見た目だがおそらく、二十を超えている』
「ええ、二十を超えた処女ってそれ売れるの……?」
『逆にレアだろ』
「お前キモイし失礼だな」
『な……悪魔だから酷いとか人でなしとかは言われ慣れてるが、キモイと言われたのは初めてだな……』
どこにショックを受けてるんだろう。
「キモイよ」
『お前まで……』
「で、この子を、どうするの? 悪魔に売るの? 悪魔のお金とかもらえるの? 仕組みが良く分からないけど。でも私の目的と関係ないから手短にやってね」
「人でなし。お前も人の形をした悪魔だな!」
『いや、まずは装備と人材を整えようと思う。彼女を魔女に引き渡して代わりに協力してもらうんだよ』
「魔女?」
『武器とか薬とか作れるし、占いもできる。人の論理があるから悪魔よりも扱いやすいし、彼らもこういう時代だから物騒なことは起こしづらくて、生きてる人間を連れて行ったら彼らも喜んで協力してくれるよ』
「なるほど」
「私は殺されてしまうんでしょうか」
「うん」
「何の罪もない私が?」
彼女の身体は真っ白で罪の影は少しもない。
「気の毒だけど」
いや、ダメか。これじゃ私が悪者になっちゃう。
「でも、あなたのそのキャラなら別に生贄にされても、コメディアスでいいかもね」
「いいの? その程度であなたの倫理観が揺らいでも良いの?」
「じゃあ、いこっか。その魔女の所へ」
「はっはっは。儂が魔女じゃよ」
悪魔の影に首根っこを掴まれた、自分を魔女だと名乗る女の子を前にして、私のノックに扉を開けた魔女は、
「はっ?」
と返しました。そりゃそうだと思う。
扉に身を寄せてる彼女は、二十代ぐらいの女の人でした。魔女っぽいローブを着ていますがあまり怪しげな雰囲気はありません。彼女の家も気の蔦に囲まれた絵本タイプの魔女の家でした。
『久しぶり』
「ああ、アレン。久しぶり。封印されてなかったけ」
『いろいろあって出れたんだよ』
「あんたアランって言うんだ」
「どうぞ、入って」
家の中も小作りで不思議な置物とかも置いてあったりして、「森の小さなおうち」って感じでした。
「ちょっと待ってて」
台所のガスコンロで、コツコツと小さな鍋を沸かします。ガス通ってんだ。
おしゃれなカップとクッキーが置かれました。
「で、何の用」
ギャングの組織を壊滅させようと思ってるんだけど、壊滅させる過程で出てくる人素材を上げるから協力してくれない? みたいな内容を言いました。
「へー。まあ、いいけど。私も、素材が集まったら助かるし」
彼女の背後には薬漬けされた蛇とか。鳥の剝製とかが置いてあります。怪しげな色をした鍋も。よく見たらちゃんと魔女っぽいパーツもありました。
「で、手土産としてこの子を受け取ってください」
「えー。やったあ。純潔だ」
貴方も最初にそこに注目するのね。
「お前も私があまりモテないということを見抜けるのか! お前ら無駄な能力持ってんな!」
「ありがとう。少し切り落として今晩のごちそうに出すわ。貴方もよかったら今夜はうちで食べて」
食べもするんだ。
『頂こう』
「遠慮しとく」
Soul Traffic @poli_cho_poli
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