第3話
男は自動ドアが開くのを待ちきれぬ様子で、半開きの自動ドアへ駆け込んだ。
商品棚に目を遣るでもなく、一心不乱に目的地を目指す。
目的地の扉を開けた後、元より蒼かった男の表情はより蒼白となった。
理由は単純である。
男女兼用トイレの鍵表示が赤くなっていたのだ。
使用中。
男は絶望感に襲われながらも、ある事に気が付く。
女性専用トイレが空いているという事実。
――だが、男は躊躇した。
ドアに『女性専用』と大きく明記された世界へ入る事への背徳感。
しかし、男にはさほど時間は残されていなかった。
己の罪悪感を払拭する為、店員に事情を説明しようと考えた。
大義名分を得られれば、罪悪感は生じない。
そう考え男がトイレ前の扉を開けた瞬間、入れ替わりで女とすれ違った。
そこで男は愕然とした。
女は颯爽と女性用トイレに入っていったのだ。
脳裏に焼き付いたのは、自分を見て薄く笑みを浮かべた女の表情だった。
完
深淵を覗く時…… 麻田 雄 @mada000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます