第2話


 クソッ!しくじった。


 こんなことになるならば、さっき駅を出る際に行っておけば良かった。

 まだ少し耐えられる自信があったのだ。


 どうせなら、あまり手入れされていない雑然とした駅のトイレより、コンビニのトイレの方が快適に用を足せると思ったのだ。

 いまさら何を言ったところで後の祭りでしかない。

 とにかくコンビニを目指そう。


 この田んぼ道を抜ければコンビニがある。

 そう、そこまで行けば俺の勝ちなんだ!!


 俺はそう思いながらコンビニまでの道のりを歩く。

 ”歩く”と表現するよりも”小走り”に近かったかもしれない。

 要するに、焦っていた⋯⋯。


 だからこそ、直前になるまで気付けなかった。


 目の前に女性がいる事に……。



 割と距離が詰まってから気が付いたのだが、俺の歩調に合わせて彼女の歩調が速くなっている⋯⋯気もする。

 警戒されている⋯⋯のか?


 いや、まぁ、これだけ街灯の少ない田んぼ道ならば、その反応も頷ける。


 だが、断じて違うっ!!

 純粋にいち社会人としての尊厳の危機なのだ!!

 あー、もう是非とも直接状況説明をさせていただきたい。

 だが、ここで声でも掛けたりしたらそれこそ痴漢扱い。

 それはそれで俺が失うものはあまりにも大きい。


 なら、いっそ、彼女が大通りに出るまで立ち止まって待つか?

 いやいや、そもそもそんな余裕があるならば焦る必要はないのだ。


 もう、駅へ戻る力は残っていない……。

 勝利はすぐ目の前……。

 今、俺がすべきこと……。

 出来る事……。



 『持ってくれよ!俺の括約筋!!』


 様々な想いを胸に俺は走った。

 全身に力を込めて。

 なるべく眼前のパイロン(障害物)を迂回するように。



 小学生の頃の徒競走以来だろうか……。

 こんなに走る事に真剣になったのは……。

 俺は疾風かぜになった――



 パイロンを華麗に抜き去り、大通りに辿り着いた。

 まだゴール(コンビニ)に着いた訳では無い。

 だが、清々しい達成感。

 思わず笑みが溢れてしまった。

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