番外編:もしもブランくんが戦えば

お昼休みの、ついさっきまで楽しかったクラス内。


今は恐怖に震える佳織が、

校庭に居並ぶSFチックな武装集団――見える限りだと100人前後が、白いプラスチックで出来たような流線型状のパワードスーツと、顔の見えないフルヘルムを着込み、同素材かつ同デザインコンセプトっぽい、白の長大なライフルを持っている――の発言、主張で理解したことは、

半魔族派の団体が異次元の悪い人と組んで、

世界中で同時多発テロが起こったらしい、などというとんでもないことだった。



そんな怖い連中がなんで学校なんかを襲ったかというと、

これも彼らの発言によれば、


〝学校には魔族の編入生が在籍しているパターンが多いから〟……とのことで、


つまりはブランくんがその存在を、命を狙われてしまっているという事実も、

佳織の恐怖をより一層煽ることとなった。



そして当のブランくん……眼の前で、佳織と本の話を楽しんでくれてた彼は、

今は野生のユキヒョウみたいに鋭い真顔で、

佳織をジッと見詰めて黙している。


佳織はその、いつもは見ない彼の真剣さ、

透き通った氷の表情が素晴らしく格好良いってつい思ってしまったけれど、

でもそんなのは非常時に考えるべきことじゃないってすぐ気付いて、

自分のうわついた心を恥じた。


……きっとブランくんも怖いだろうし、

もしかしたら必死に対策とか逃げる方法とか、

テロリストを刺激しない方法とかを考慮してくれてるかもしれないのに。


ただ、それでも佳織には今現在が怖くって、ブランくんの声をまた聞きたくて、

彼に声を掛けようとした、ところ、先にブランくんが薄くも優しい笑顔を、ふ、と浮かべて、

いつもの暖かい声、明るい声を聞かせてくれた。


「じゃ佳織ちゃんと、あとまぁクラスと全校舎にも防護魔法かけたから、

 ちょっと行ってなんとかしてくるね。


 佳織ちゃんの状態はリアルタイムで感知して、随時で防護魔法更新できるから、

 もうなんにも心配とかないからさ」



『……え』


つい、戸惑いがぽろりと漏れた。


だって行くって、なに?


なんとかするって、ブランくんが戦うか、どこかの逃げ道を探すか、

それかテロリストの要求を飲む感じに、怖い連中の人質になるってこと?


……そんなの、そんなのどっちがどうなっても絶対危ないし、

ブランくんにさせられない!


『だ、ダメっ! だってそんなの、ブランくんが犠牲とか、絶対、なにがどうなっても、駄目っ!!』


とっさに大声を上げた佳織に、でも当のブランくんはなぜか〝きょとん〟とした、軽い呆け顔をしてたけど、

すぐに納得したようなカラリとした微笑で、朗らかに安心する声を紡いでくれた。


「ああ、いやね、そんな暗いのじゃなくてさ。

 もう魔法であいつらのコトも調べたし、だから楽勝って分かるのよ、マジメに。


 だからさ、むしろ他のところとか行かれてテロされる前に、

 今の近い場所でやっつけときたい、的な?


 ただ佳織ちゃんすっごい優しいし、俺がどう言っても心配してくれるだろうから……あ嬉しい、ほんと好き。

 佳織ちゃん、可愛い。もうずっと一緒に居たいっ……のは、マジっ、それあるけどっ、

 でもほんとゴメン、佳織ちゃんが怖がってるのは俺も悲しいし、何とかしたいから、ちょっとだけ行くね。

 マジすぐ帰るから、待っててね。

 移動も多重ワープで逆探知とかされないようにするから、ほんと佳織ちゃんは安全で安心だから。

 あとモチ、俺もね。じゃまた」



そう言ったブランくんの姿がパッと消えたから佳織はもう大変驚いて混乱して、

でも今さっき好きって、可愛いって言ってくれた嬉しさはあったかく残ってたから、

怖いのはもう僅かしかないしどうにか、ブランくんが〝ワープして戦いに出かけた〟という事実を理解した。


するとまた心配で胸がばくばくして苦しくなったけど、

そんな時クラスメートの騒ぎ声が窓際、校庭の見える方から聞こえてきて、

しかもそれら声々の中には〝ブランくんが居る〟みたいな言葉もあったから佳織は胸の苦しさもピンと細く、硬く張り詰めて静止して窓際に走り出す、大急ぎでクラスメートをかき分けて、窓際から校庭を見下ろす、ブランくんが居る、ブランくんがいつもの気軽な足取り、足上げ控えめに少しルーズな歩調で、武装集団の前へとサズサズ進んで行ってるのが見える、

佳織は巨大な心配と不安とで気持ちが遠くへ、スフゥリ、と消えそうになったけどでも!、耐えるっ、耐えなきゃいけないって分かるっ、ブランくんが頑張ってるから私こそ見なきゃいけないし気持ち消えて逃げるのはダメだって分かる、からっ、佳織は瞬きもほぼ忘れて、視線をグッとブランくんに固定する、ブランくんの頑張り、戦いを、佳織も見届ける覚悟を決める。


武装集団の僅か8メートル程手前で、ブランくんは歩みを止めた。


きっと戦いが始まるんだと、硬く見ている佳織にも分かった。

……左耳たぶ、パールピアスに指で触れると、彼を見届ける気合が熱く、高まった。



******



校庭の武装集団を軽く見据えるブランくんに対し、

集団内でだいぶ後ろらへんのヤツ、多分リーダーぽいのが大声でギャーギャー言ってきてるけど勿論ブランくんはろくに聞いていない、もう魔法もとうに組み終わったし、あとは終わらせるだけなので。


ブランくんは声をちょいと呟く、


「写し紙」


すると白プラアーマー集団104名全員に対し、頭上すぐへ半透明の大きな紙、1辺3メートル正方形な見た目油取り紙ぽい〝魔法〟が、ひらぱ、と現れてすぐ降下、集団をがさりくるり、と包み込む、ラッピングして動きを封じる、声も止めて反射運動も止めて、口の息も皮膚呼吸も全部封じて出来なくさせる。


これであとはほっといても死ぬけど、でも殺したら優しい佳織ちゃんが怖がりそうだし、

ブランくんのPTSD、戦争トラウマぽいのをすごい気にしてくれそうでもあるから――ブランくんに敵への良心なんて無いし、佳織ちゃんに心配してもらえるのは、それはそれでほんわか嬉しいけれど――、

生かしたまま倒す用にもう一つ別の魔法を、またスイと呟いて発動させる。


「メモシート」


そんな言葉と同時に、ブランくんの右肩横、空中へ、A4サイズなノートの1ページがパ、と縦に広がって現れる、

罫線には日本語で黒文字ゴシック体が短くも色々、最上段から一列一単語ずつ、


〝本人〟

〝武器〟

〝鎧〟

〝財産〟

〝家族〟

〝友人〟

〝知人〟


と記入されている。



……つまるところ、先ほどの〝写し紙〟で104人の全部が分かったので、

ブランくん的に使えそうなのを羅列したワケである。


ブランくんはとりあえず物理的な無力化のため、人差し指で罫線2列目と3列目、

〝武器〟〝鎧〟にちょんちょん、とタッチする、と、そこの文字たちがライトブルーに冷たく輝いて、

104人集団の白ライフルと白アーマーがカタチそのままシャリシャリのみぞれ雪に変わって、質量軽く、地面へしゃじゃん、と崩れて落ちた、集団は今は普通の衣服と恐怖驚愕の素顔を晒して、油取り紙にラッピング続行されている。


で、今も敵一同の呼吸を塞いでるままだったから、

ブランくんは〝写し紙〟の性質を一部変更、104人に対して口呼吸と皮膚呼吸をできるようにしてやる、

あとはケーサツとかジエイタイとかへ引き渡す前に、

尋問とかしとくべきかもしれないけど……ソレめんどいな、とブランくんは思った。


正直、興味ない敵なんかと、話を交わすとか全くやりたくなかった。


……けどまあ罰的なのは必要かもだし、佳織ちゃん怖がらせた仕返しもしときたいしで、

ブランくんは残りのメモシート項目、〝本人〟〝財産〟〝家族〟〝友人〟〝知人〟へと順々に人差し指タッチする、

変える文字色の煌めきは、〝財産〟がブルーであとはイエロー、雪に消すのと世界に明かすのと。


これで敵104人の財産は土地もお金もクルマも家電もアクセも全部みぞれ雪に消えてったし、

本人プロフと家族友人知人関係の情報全部をインターネット各所やマスコミ全部に発表完了して、

あとついでに全テレビ放送と全ネットニュースに本名いっぱいの字幕が流れるようにしておいた。


誰かが映画とかドラマとか見てたら字幕がジャマになるかもだけど、

そこはちょい許してほしいなー、ってブランくんは思った。


「よし帰ろ。佳織ちゃんに会いたい」


フワと微笑み、いつもみたく明るくひとりごちると、

ブランくんはラッピングの104人へ背を向けて、校舎にワープしようとした、ところでスマホのTEL音が鳴り、

何だよ終わったのにジャマすんなよ、と感じつつも一応非常時だし、

ポケットからスマホを出してやって画面確認する。


……相手は魔界の大公な竜族女性、広い意味ではブランくんの上司……イコール仕事持ってくるヤツ、だったから、

ブランくんは少しうんざりしつつもスマホを耳へ、通話を開始した。


「ハイ俺。なに?」


そしてブランくんが聞いた・聞かされた要件は、


〝ブランくんが居る箇所の鎮圧を確認できたから、今直ぐに他の場所へ援護に向かえ〟、


という、要するに、


〝今は危ないときだけど、でも佳織ちゃんを放置してシゴトしろ〟、


みたいな絶対聞けないコトだったから、

ブランくんは即座にスパッと断った。


「ムリふざけんな。ブロるわ」


そしてスマホを即切り、なめらかなタップスワイプで通話先の女をブロック完了する。


ブランくんは、よし、とニッコリ頷き、

ワープ魔法でいつものクラス、早く会いたい佳織ちゃんの元へと帰って行った。



……なお、ブランくんの立場を心配した佳織によって、

この後ちょっとした彼への質疑応答、


〝実際に戦う危険さと、ブランくんが戦いに向かわないことで得てしまう不利益はどっちがやばいのか〟、


という内容の話が成された結果、ブランくんは割と直ぐ、


「あー不利益の方じゃね? 佳織ちゃんはバッチリ守ってるし、俺だと戦いは安全だけど、

 政治とか言い訳とかは後々かなりメンドいし……でも俺、佳織ちゃんのが大切だから今回は仕事スルーするわ。決めたし」


いともあっけらかんと回答することとなる。



これに対し、佳織はブランくんの〝後々の立場〟を心配しつつ、

なおかつ戦いの危険さとを冷静に天秤に乗せて一生懸命考慮した結果、

ブランくんに、〝自分はきっとブランくんの魔法で大丈夫だから、戦いのお仕事をしてくれるように〟、

まだ迷いながらもお願いをする。


するとブランくんは、佳織の心遣いに感動して嬉しがりつつ、でもちょっと離れるのをためらいながら承諾し、

スマホでのブロ解除と連絡を経て戦場に出発、およそ15分後に全鎮圧完了して無傷の帰還を果たす。


……そうしたら、佳織が喜びで涙ぐみながら、あたたかな〝お帰りなさい〟、をくれたので、

ブランくんはニッコリ楽しく、(あ、働いてよかったわ)と思うのであった。



~めでたしめでたし~




【★魔界コソコソQ&A】



Q.今回ブランくんが使った魔法で、最も強力なものは何ですか?



A.ダントツで圧倒的に、佳織さんへの防護魔法です。

(絶対安全、を確約してくれた感じです。)

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陽気な魔族のブランくん。 @rinoku

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