乙女ゲームの悪役令嬢ユリエラに転生した主人公の心理的な葛藤と成長を丁寧に描いた、読み応えのある作品です。
ユリエラは当初、傲慢な性格で他人を見下す典型的な悪役令嬢でしたが、学園の階段から転落したことをきっかけに前世の記憶を取り戻します。善良な前世の良心に目覚めたユリエラは、自分のこれまでの非道な行いを深く反省し、贖罪の道を模索します。彼女のもがき苦しむ姿は、共感を呼ぶに十分です。
また、専属メイドや御者との触れ合いを通して、彼女の新しい一面が見えてきます。今まで虐げてきた人々から受ける優しさに、ユリエラは感動し、涙を流します。自らの過去と真摯に向き合い、新しい自分に生まれ変わろうとする姿は、心を打つものがあります。
ゲームの主人公イレーネとの関係や、ユリエラの運命の行方など、先の展開が気になる伏線も随所に散りばめられています。転生ものの定番を踏まえつつも、悪役令嬢という立場ならではの苦悩や葛藤を丁寧に描くことで、独自性のある物語に仕上がっています。
妖しくも美しい世界観と、前世の記憶に引きずられ葛藤するユリエラの繊細な心情描写が絶妙に絡み合い、物語に引き込む力を発揮しています。自らの運命を切り開こうともがく姿に、思わず応援したくなること間違いなしです。
総じて、ファンタジー転生ものの新しい可能性を感じさせる作品であると言えるでしょう。ユリエラが歩む、過去と決別し新しい人生を歩み始める姿を今後もじっくりと見守っていきたいと思わせる、読後感の心地良い一作です。